翌日の夜。
俺は一人で散歩に出ていた。
ふと、ジムのことを考える。
俺を生んだ直後に肺塞栓で母親は死に、父親は夜逃げし、妹とも病気により離れ離れになって、一人残された俺を拾ってくれたのがジムの創設者であり、天才ボクサーと言われた狐の獣憑き・波音妖狐―――――律の母親だった。
妖狐は得体のしれない獣憑きである俺を快く受け入れてくれた。しばらくしてから俺はボクシングを習い始め、小学校に上がるころにはそれなりのボクシングができるようになっていた。
俺が小学校を卒業するころから、律が女装をするようになった。きっかけはわからないが、元々女体型だったこともあってか、妖狐は『いいんじゃない?』なんて言ってまるで気にしていないかのようだった。
―――――ちょうどその頃だった。煉が入ってきたのは。
身軽にリングを駆け回る姿に一目ぼれして、思わずその場で告白したんだっけ。
呆気にとられた後大爆笑しながらバンバンリングを叩いていた煉の姿は、今でも目に焼き付いている。
だけどその後、彼女から帰ってきた言葉は――――――――――
潰させたくない。あのジムは、俺の人生を作ってくれた大切な宝なんだ。
何とかして―――――何とかして救う方法はないだろうか?
「よし、行くぞ!」
聞き覚えのある醜い声ではっとした。
よく見れば、気づかぬうちに町役場のところまで歩いてきていたらしい―――――あの豚饅頭の役人が役場から出てきていた。
急いで物陰に隠れ、その様子を見守ろうとして――――――――――
愕然とした。
奴の後ろにいるのは、凄まじい数の獣憑き。
しかも大半は町の獣憑きだ。いくらも見覚えのある姿があった。
どういうことだ? あいつら、いったい何をするつもりなんだ?
「しかしお役人さんよう……あのジムを潰すのに何も町中の獣憑き総動員で行かんでもいいんじゃないか?」
「わかっとらんな。貴様らはいわゆる『世間の声』を演じてもらうためにいるのだ。奴等を攻めるのにその力を奮ってもらうのは最終手段よ。最悪我がボディーガードの獣憑き共もいるしな」
そう言って豚饅頭が指さしたのは、両脇に控える大男二人だ。
「その通りよ。このライオンの獣憑きたるラカン・ギガーラとグリズリーの獣憑きであるルーク・ベアロイドの二人がおれば、お主らの力なぞ制圧に必要ない!」
「そういうことだ。さて、向かうぞ! できることなら大事にはしたくはない、うまく説得できたものには褒美を取らせる!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
おい。おいおい。おいおいおいおいおい。
ちょっと待て。まさかお前ら、褒美のために俺の宝物ぶっ潰すつもりかおい?
ふざけんな。そんなフザケタ物のために―――――――――――――――
『俺の宝物ぶっ壊されてたまるかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』
思わず飛び出した俺は、吼え狂いながら爪を構えた。
――――――――――が。
「邪魔だ、小僧」
グリズリーの獣憑きと言われた男の拳が俺の腹にめり込んだ。
消しきれない勢いはそのまま俺の体を吹き飛ばし、電柱の中ほどにめり込ませた。
衝撃でちぎれた電線が俺の体に当たり、途端に激しい電流が全身を駆け巡った。
……………遠のく意識の影で、奴らの声が聞こえた。
「条件反射でついぶっ飛ばしちまったが、よかったかいな?」
「なーに、構わん。どうせお前らの力もあれば、制圧に時間はかからんだろう。あの小僧の死骸はあとで回収しておけばいい。それよりも、さっさと行くぞ。あのジムに早いところ引導を渡してやらんとなぁ!」
待てよ。待ちやがれ。
俺の宝物を奪うんじゃねえ。
待ってろ、律、煉。
今すぐ助けに―――――――――――――――――――――――――。
四獣物語~幻獣少年レン③~
総攻撃がかけられてしまうようです。
こんにちはTurndogです。
いつかこの律の母親・波音妖狐についてワンストーリーぐらい書きたいなー。
そしてレンの魂が冥界へ―――――
……も う 読 め た ぞ
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