「私達、会うのやめよう」
「・・・」
「ねぇ、今度の休みデートしない?」
「それで終わりにしようってこと・・・?」
「・・・うん」
「・・・分かった」


いつも通りのデート
「始まったばかりの映画みたいんだぁ」
「んじゃ、それ見に行こうよ」
「いいのっ!?ラッキー!」
見た目は何も不思議に思わないただのカップル。
ただ、二人はただの恋人同士ではなかった。
血のつながった、家族だった。

二人がそのことに気が付いたのは付き合ったからだった。
お互いに片親という境遇から、気が合いスグに仲良くなった。
仲良くなってから付き合うまで、そんなに時間はかからなかった。

父親に育てられた姉と、母親に育てられた弟。

しっかり者と、泣き虫。

突然の親からのカミングアウトで頭が真っ白になった。
けど、受け止めなければいけない事実だった。
この気持ちは、家族愛なんだ。
そう思うしかなかった。



「この話素敵だね」
瞳に涙をためながら、アナタを見たら、
アナタはボロボロに涙を流しながら、必死にスクリーンを見つめていた。

アナタはどんな小さなことでもすぐに泣いちゃう。
泣き虫カレシ。
だけどそんなアナタを、笑顔にしたくて、いつも一緒にいたて。

「大丈夫?泣いてるよ」
「それはどっちよ、号泣しちゃってるじゃない」
「だって感動しちゃって」

素直すぎるアナタにいつもキュンキュンさせられてる私。

お互いに顔を見合わせ笑っちゃう。
アナタの泣き顔を笑顔に変えられるのは私なんだって思いたい。

アナタと手おつなぐ時ふと気が付いてしまった。
アナタの薬指にいつもはめられていたペアリング。


付き合い始めた頃、一緒にペアリングを買いに行った。
あれが良い、これが良いって子供みたいにはしゃいでいたのは、
アナタの方だった。
定員さんにクスクス笑われていることに全く気づかずに目を輝かせながら選んでいたアナタの横顔を見て笑顔になった。
私の笑顔はアナタに貰っていたのかな?


彼なりのケジメ。
気の弱い彼なりの。
受け止めなきゃ・・・。
けどやっぱり胸に何かとがったものが突き刺さったみたいに苦しくなった。


そうして短い一日が終わり、別れの時が近づいていた。
お互いにお互いを傷つけてしまう。
お互いに自分を傷つけている。
そんなコト分かり切っている。
アナタからお別れを言いだすことはきっとないんだろうな。
そんなことを想いながら、歩道橋の上で立ち止った。
アナタは握っていた手を離し、私の頭を撫でた。
「今日も楽しかったね。ありがとう」
「どうしたの?笑って」
泣き虫のアナタからの〝笑って″。
最後のアナタの笑顔はすぐに作り笑いだと分かった。
泣き虫のアナタの強がり。
精一杯の嘘つきになったアナタ。
そんなアナタに私はなんて告げよう・・・。
色々考えたけど、私が選んだ言葉は
「さよなら」
だった。



キミが初めて家に遊びに来た時、緊張しすぎて何も話せなくて、
色々考えがこんがらがっちゃって、ついに目頭が熱くなってきた時、
それに気が付いてキミは僕をからかいながら
「なぁに緊張してんだよっ!」
って笑ってくれた。

そんなキミにただの泣き虫な僕が出来るコトは何なんだろう?
そう考えていたんだ。
そしたら分かったんだ。
本当はキミは凄く強がりで心配性なんだ。って。
僕が泣きそうになると少し困った顔をしてすぐに笑わそうとしてくれる。
だから僕は、キミが僕の為にじゃなく、自然に笑ってくれるように、
僕がキミの為に出来るだけ笑って居よう。って。


「綺麗な夕日!」
「本当だね」
「ねぇねぇ、あのさっ!毎回デートした日はこの歩道橋で夕日見ようよ!」
「えっ?・・・うん」

何回此処で夕日を見ただろう。
何回此処で立ち止っただろう。
だけど今日で最後。
今日が最後なんだ。
二人の大切な場所も、明日からは思い出の場所へと変わってしまう。
「じゃぁね」
そう言って歩き出す方向はいつも真逆だった。

きっとキミは自分から別れを告げようとしてくれるだろう。
けど、最後くらい僕にだって強がらせてよ。
今言わないと、また臆病になってしまうから。
今言わなきゃ。


泣かないように強がって笑ってなんて言ったけど、
本当は自分自身に言い聞かせた言葉でもあった。
〝さようなら″
僕が望んだ言葉だった。
きっとキミもそうだったんだろう。
これ以上この気持ちを引きづっては居られないんだから。
そう、自分の中では分かっていても、やっぱり僕は泣き虫だ。
キミが僕に背を向けた瞬間作っていた笑顔は消え、うつむいた僕の瞳には
大粒の涙が溜まっていた。
そうしてどんんどん溢れていた。
ダメだ。
やっぱりキミが居ないと涙は止まんないよ。


かざした掌の指の間に見えるキミの背中。
だんだん遠ざかっていくキミ。
キミが言ってくれていた「「好き」」
今も僕への感情としてあるのかな?



きっと泣き虫カレシは泣いてるんだろうな。
そう思って振り返ると、うつむきながら小刻みに震えているアナタが居た。
やっぱり・・・。
これが私がアナタにしてあげられることの最後。
アナタは泣き止み方を知らないから。


~泣き虫に魔法を~
      ~涙止まる魔法を~
~私と同じ顔するのよ~
                     ~笑って~


アナタに駆け寄り涙を拭ってあげた。
「もう泣かないの」
キミは私が戻ってくるなんて思わなかったんだろうな。
驚いた顔で私を見上げた。
これから会うことはないだろうけど、
もしも会うような時は私はアナタの姉。
なんだか懐かしい感覚に陥った。
最初から姉だったらこんな感じなんだろうな。
そう思いながら笑った。

するとアナタも同じ顔で笑ってくれた。
大丈夫。
アナタなら泣き止み方だって分かる。
私が居なくなっても・・・。



僕の元へと戻ってきた君は笑っていたけど、
その瞳にはうっすらと涙の膜がはっていた。
きっと背を向けた時、キミも切なかったんだろうな。

やっぱり最後も僕の為に強がってくれるキミ。
僕もそれに答える。
キミとおんなじ顔をしたら、自然と涙は止まっていた。
出逢った頃から、やっぱり僕はキミの弟でしかないのかもしれない。


別れ際に何をどう伝えればいいのか分からず無口になった二人。
最後に口から出た言葉。

「じゃあね」

同時に告げたお互いの気持ち。
「ごめんね」「ありがと」



二人分かれて別々の駅へと向かった。
これで本当に終わりなんだね。
キミはもう居ないから、泣き止み方を知らない僕は
もう泣くことを止めるよ。

「泣かないぞ・・・」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

『泣キ虫カレシ』を書いてみた

『泣キ虫カレシ』を彼女と彼氏は血の繋がる兄弟であり、元家族。
現在は姉は父に、弟は母に育てられ、お互いに会うことが無かったため、付き合ってから事実を知った。
という設定で書きあげました。

閲覧数:182

投稿日:2012/03/15 22:55:11

文字数:2,760文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました