(ボーカロイドと未来とツチノコの歌6【2020年編パート1】の続きです)

 
一方、その頃日本では、内部告発により小尻幹事長の中国との癒着が発覚。一部の国民が激怒し、クーデターを決行。危険を感じた小尻幹事長や党員は国会議事堂へと立て籠った。
 そして、両代表の話合いの結果、全ての決断は斎藤総理に任された。
サミットから戻ってきた斎藤総理が、中国支持を表明すれば、自衛隊がクーデターを強制鎮圧。アメリカ支持を表明すれば、政権を速やかに新政府へと交代する約束がなされた。


 サミットが終わり、成田空港で僕を待っていたのは大量の記者団だった。
『斎藤総理!この問題、どう解決なさるおつもりですか?』
『サミットではどちらの支持を表明したんですか?』
僕は、ボディーガードに守られながら、車に乗った。
 車は、国会議事堂の前に設置された、特設の演説台に到着した。
門の向こうには数千人のデモ隊。門の手前には小尻幹事長を始めとする党員たち。
そのちょうど間に僕は一人で立っている。
どちらかに味方をすれば、どちらかに殺されてしまうかも知れない。
 でも、僕は怖く無かった。それは『Tyu-U2』のせいで心が何も感じないからではなく、初めて自分の生まれてきた意味を見つけ、そのためならば死など小さな問題にしか過ぎないと思えたからだ。
 
僕はゆっくりと話し始める。

「本日、サミットから戻って参りました。内閣総理大臣の斎藤英夫です・・・・・・・・・・・・・。
少し、僕の現地での不思議な体験をお話させてください。
僕は、サミットの開催国に行った時に、ある一人の少女に出会いました。
彼女は、先の自然災害でダメージを受けた開催国に、日本から支援として送られたロボットです。彼女はガレキを撤去する事も、畑を耕す事もできません。でも、彼女は現地で沢山の人々を救っていました。
 彼女は歌を歌って、人々の心を癒していたのです。
僕は、その姿に衝撃を受けました。その歌に衝撃を受けました。その光景に衝撃を受けました。その姿を見ていると、自然と涙が溢れてきました。
すると、現地のガイドの人が
「日本人の思いやりの心が人々を癒やし続けているんだ」と教えてくれました。
その時僕は、日本の答えが分かった気がしました。

過去、日本は、たくさんの戦争をしてきました。そして、その歴史を反省し戦争を拒否して、今日までの平和を保ってきました。
しかし、今、世界は大きな変化の時を迎えようとしています。大きな戦いが起き、日本も戦いを拒否し続ける事は難しくなってくるでしょう。今こそ、『日本はどうあるべきなのか?』と言う国のあり方を問われている時だと思います。

僕はその答えとして、日本がそのロボットの様であって欲しいと思いました。

 僕は、中国もアメリカも支持しません。
僕は、世界中全ての人々の心の平安を支持します。
具体的には、『三大ロボット計画』を柱として、この理念を実現させていきたいと考えています。
『三大ロボット』とは、
一つが、家事介護補助用ロボット『ドラ〇もん』
もう一つが、建設及び災害救助用ロボット『ア〇ム』
そして、文化発展用歌唱ロボット『初音ミク』。

この3体を国家プロジェクトとして、民間と協力しながら3年以内に開発。5年以内に各国に輸出していきたいと考えています。
これは、軍事目的ではありません。軍人も民間人も中国人もアメリカ人も、全ての人々が少しでも心穏やかに過ごせるようにと言う願いを込めて、平等に輸出します。
 出兵してしまった息子の替わりに『ドラ〇もん』が家事を手伝い、戦場となり荒れ果てた街を『ア〇ム』が直し、傷ついた兵士や市民の心を『初音ミク』が癒すのです。
 これこそが、僕の辿り着いた、日本の答えです。
アメリカに媚を売って守ってもらうでもなく、中国に協力して戦争に参加するでもない。
毅然とした態度で、全ての傷ついたモノに手を貸す。
平和こそ全ての人々の願いであり、思いやりの心こそ日本の誇るべき最大の武器だと僕は彼女に教えてもらいました。

もし、僕の意見が気に入らない場合は、次の選挙で示してください。これより議会を解散し、総選挙を実施いたします」


 いきなり後ろから怒鳴り声がした。
「斎藤!貴様あああぁぁーーーー!!そんな勝手は許さんぞ!!」
顔を真っ赤にして、小尻幹事長が叫んでいる。
「斎藤!お前が総理大臣として、そこに立っていられるのは誰のおかげだと思っているんだ?お前は俺が居なければ何もできないくせに、そんな勝手を言いおって!2度と政治の世界に戻って来れない様にしてやろうか!!?」
僕は、はっきりと答えた。
「小尻幹事長、確かに貴方にはお世話になりました。しかし・・・己の私利私欲の為に、日本の明日を売り飛ばそうとした貴方に、僕は負けるつもりはありません!」
「なっ・・・・」
驚いた小尻幹事長は、反論の言葉が見つからず小さくなって黙ってしまった。


すると、どこからともなく、デモ隊からも党員からも拍手が巻き起こった。
 この拍手は、僕に対する拍手では無かった。平和と言う、尊く偉大なモノへの敬意。そして、異国の地で日本の心を歌い続ける、奇跡の少女への賛辞であったと僕は思っている。





『ノビ〇君、朝ゴハン食ベテ行カナイノ?』
「あぁ、ごめん、ドラ〇もん、遅刻しそうなんだ。ありがとう」
 僕は急いで、ノルエゥーのホテルを出た。
 あれから10年。これが僕の総理として最後の仕事だ。
 急いで車に乗り込む。

あの事件は後の世で『ロボット維新』と呼ばれるようになった。
その後の総選挙で、僕は圧勝した。

それから間もなくして、第三次世界大戦が始まった。
僕は宣言通り、日本の中立の立場を表明した。

初めの頃は各国から反発があり、輸出制限や領域侵犯が相次いだ苦しい時期もあった。だが、それでもロボット達を根気良く送り続ける事により、輸出先の国の民間からの声で、日本は信頼を回復していった。

やがて『ドラ〇もん』も『ア〇ム』も無事に開発され、世界中に普及していった。すると、各国が感謝の意と共に協力的になった。「日本を攻撃すれば、日本のロボットを利用している他の国から報復を受ける」と言う認識も広がり、世界で最も無防備な国が、世界で最も安全な国になった。

まさに「ロボット中立国」になった日本は、次々とロボットたちに改良を加えていった。中でも『オーラ〇チオキトリウム電池』は画期的だった。水と日光さえあれば、充電が不要になったのだ。これにより電気の少ない辺境の地や戦場にもロボット達が普及していった。他にも、自己修復機能や自己防衛機能などが開発・追加された。

当然、それだけ性能の良いロボットを作れば、他国により不正改造されたりもしている。悲しい事だが、それは仕方がない事だ。包丁だって人を傷つける事だって出来るし、美味しい料理を作ることも出来る。要は使い手側の問題なのだ。一体の凶悪な改造ロボットが出来たなら、こちらは3体の平和を願うロボットを作ればいいと信じながら生産を続けた。

すると、世界中から沢山の嬉しい声が届いた。
「アメリカ軍として戦地にいるが、『初音ミク』が歌う故郷の歌に心を癒されている」や
「瓦礫の下敷きになった父を『ア〇ム』が助けてくれた」や
「戦地の医者だが、現地の看護師不足に『ドラ〇もん』は非常に役に立っている、ありがとう」など、本当に沢山の手紙が毎日のように日本政府に送られてくるようになった。それを読むたび、国とは人であり、戦っているのもまた人なのだと実感をさせられる。なのに、どうして戦いが無くならないのかは不思議でならない。


このように、まだまだ戦争は終わらないし、世界は平和になりそうもない。
それでも、きっと今日という日は、平和への第一歩として歴史に刻まれるであろう。


車が停車する。ノルウェーの首都オスロのオスロ市庁舎だ。
今日、ここで、ノーへル平和賞の授賞式が行われる。

もらうのは僕じゃない。
黒人でも白人でもない。
人間でも動物でもない。
それでも、誰よりも愛され、誰よりも献身的に、誰よりも愛を持って、全ての人の為に歌を歌い、たった一人の為に歌を歌い続ける、彼女が今日の主役だ。

赤いア〇ポッドを耳に突っ込む。もう、何百回、何千回と聞いたあの曲が流れてくる。
『♪ツチノコが言ってたんだけどね~』

あの日の彼女に。そして、世界中の彼女につぶやく。
「ミク、おめでとう。そして、ありがとう」           【2020年編 完】


(ボーカロイドと未来とツチノコの歌8【2504年編】へ続く)


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  • 非営利目的に限ります

ボーカロイドと未来とツチノコの歌7【2020年編パート2】

ボーカロイドと未来とツチノコの歌6【2020年編パート1】の続きです。全部で36000文字の作品です( ^ω^)

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投稿日:2011/07/25 14:15:20

文字数:3,570文字

カテゴリ:小説

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