【第十四話：正義少女と放浪少年】

　ムカつく。

　あんなに、リンに期待させておいて。
リンより、有力な相手が出てきたら、はいさようなら？

　ふざけんな。

　カラオケだって、レンくんとリンがもっと仲良くなったらいいって思ったから、誘ったのに。

　ミクさんも、ミクさんだよ。

　あからさまにあたしたちの態度見れば、行かせたくないの分かるでしょ?

　どうして皆、リンの邪魔ばっかりするの?


　私は今、あのカラオケ店の裏に居る。

　何かを盗もうとしてるわけじゃなくて。
待ってるんだ。

　「あの……ぐみ……？」

　来た。

　「レンくん、こっちこっち。」

　私は袴姿のレンくんに、手を振る。

　「で、話ってなんだい?」

　ちゃんとあたしの呼出には応じたものの、目は泳いでるし、心ここにあらずっていう感じだ。

　「今日、楽しくなかった?」

　「否、楽しかったよ。」

　違うでしょ。

　「楽しくなかったよね。考え事してたもんね。」

　「!?」

　レンくんは驚きに満ちた顔をあたしに向ける。

　「ミクさんのこと考えてたんでしょ?」

　「え…、と、否……、そ、の…」

　図星だ。

　「その、ミクさんのことばかり考えてたレンくんの顔を見て、どれだけリンが傷ついたか、しってる?」

　あたし、すごい嫌な人だ。
こんなこと、言って。

　「ミクさんのこと考えてたんだから、リンの顔も見てないか。」

　レンくんは目を伏せた。

　「≪憂鬱少女≫が、何よ…。」

　やめて。
もう嫌だ。

　リンの為だったのに。
こんなことしたら、両方を傷つけるだけだ。

　「中途半端にするなら、リンに近づかないで。」

　「そんな、中途半端…なんてことは…」

　「中途半端だよ!!!!!!」

　こんなに声を荒げたのは、初めてだ。

　レンくんは、固まってしまった。

　「優しいなら、優しいでいい。…でも、中途半端なら、それはリンを傷つけるだけだから。あたしは、リンに傷ついてほしくない。悲しんでほしくない。そうなるなら、誰も、もう好きにならないほうがマシだよ。また、リンが人を遠ざけるようになったらどうしてくれるの!?やっと、やっと、やっと笑ってくれるようになったのに!!?」

　とまらない。

　「リン…何かあったのかい…?」

　しまった。

　はっとして、あたしは、余計なことを行ってしまったことに気がついた。

　「……レンくんには、関係ないことだよ…………。」

　泣きそうだ。
大好きな友達の、好きな人に、こんなこと言うなんて。

　一番、幸せになってほしいだけなのに。

　あたしが、リンのあの穴を埋められるなら。
あたしが、あの人の代わりになれるなら。

　何度思ったことだろう。

　あたしには埋められない、代われない。


　「…リンを泣かせたら、許さないから。」


　そう最後に言った。





　だって。





　守るって、決めたから。