真っ白な紙がだんだん文字で埋まっていくように、少しずつ夜空に映える月も満ちてくる。そんな空の下を、僕とマスターは隣同士並んで歩いていた。
「カイトー、カイトー♪」
一方のマスターはというと、あれからすっかりきげんがよくなったみたいで、僕の腕をつかんでいた。
「・・・マスター、もっと腕、絡めていいですよ」
「ほんとに?」
そう言って、マスターは素直に絡めてきた。マスターにはずっときげんがいいようにしてもらいたいものだ。
「それで、どこに行くんですか?」
ふと気になったので、聞いてみた。
「んー。・・・開発中の公園!」
ごきげんマスターは、とても可愛らしく答えてくれた。
「え・・・でも、入れないんじゃありませんか?」
「大丈夫。世界電子化計画が実行されてるから、多分工事終わってるよー♪」
普段のマスターとは打って違って、楽観的過ぎる・・・。大丈夫と多分のセットは、あんまり出番ないはずなのに・・・。
「なんか、心配になってきましたよ、マスター」
心の中で思っていることをそのまま口に出すと、
「私はカイトの将来の方が心配だよー」
変わらない笑顔で、さらりとすごいことを言ってのけるマスター。
「・・・僕は、マスターの将来の方が心配になってきましたよ・・・」
「ん? 私の将来は、変わらないもん!」
「え・・・?」
何やら意味深な言葉に、僕は思わず聞き返すと、
「あー!!」
マスターは前を見て、ものすごく嬉しそうな表情で声をあげる。
「どうしたんですか、マスター?」
首を傾げながら、前に目をこらす。
「カーレッジきゅーーーーーーーーーーーーん!!!」
マスターの可愛すぎる声が、僕のライバルの1人・・・いや1匹の名前を呼ぶ。
「・・・マスター、びっくりしてますよ、その犬」
「あー、可愛いなー♪」
僕の言葉を無視し、マスターは固まっている犬のそばに駆け寄る。僕はため息をついて、マスターの後ろを歩く。
「ごめんね、驚かして。・・・私、カーレッジくんのことが、すっごく大好きなマスターです。分かりやすく言うと、この世界を少しずつ作っている人だよ」
敬語やらタメ語やら入り混じっているのは、多分気が動転するぐらい本当に好きなのだろう。そりゃ、実際には絶対に話すことが出来ないから気持ちは分かるけど・・・この複雑な僕の気持ち、説明書見れば分かるのかな?
「もしかして、あのマスターさんなの?」
ピンク色の可愛らしい僕のライバル犬は、何やら期待を込めた目でマスターを見上げる。・・・そんな目で見たら、マスターは絶対、
「そうだよ! 私の可愛い可愛いカーレッジくん!」
もう嬉しくて嬉しくてしょうがない、といった顔で、こくこく頷くマスター。・・・あの、その表情、僕見たことがないんですけど。
「ウサちゃんから、よく話は聞いてるよ。カイトっていう人のマスターさん・・・あれ?」
ピンクの犬は、そこまで言って軽く首を傾げて、なぜか僕を見た。
「・・・僕とウサちゃんがVCL放送局に来て、エレベーターのボタンが押せなくて困ってたのを助けてくれましたよね?」
「ああ・・・」
マスターと一緒だったから気づかなかったけど、そういえば以前そういうことをした覚えがある。
「え、カイト、カーレッジくんに会ったの?」
確かそのことマスターは知らない・・・というか、質問の着眼点が少しずれているような・・・。
「はい。とはいっても、去年の話ですけど」
「えー。いいないいなー。私もカーレッジくんに会いたかった―」
ぶーぶー文句を言うマスター。しかし、
「僕も、こんなに可愛いマスターさんなら、もっと早く会いたかったなー」
というピンクの犬の確信犯的な一言で、
「きゃー! カーレッジくんってば!」
文句もあっさりどこかに消え失せ、可愛らしくマスターははしゃいだ。
「・・・」
「それで、2人はここで何してたの?」
僕の殺意を込めた視線をものともせず、ピンクの犬はマスターに聞く。
「えーとね、私とカイトはこれから開発中の公園に行くところだったんだけど、可愛い可愛いカーレッジくんに会ったっていうことだよ!」
とっても甘い声ではしゃぎながら言うマスター。・・・さすが、説明言葉の筋は通っている。
「へー。そうなんだ。・・・もしかして、デート?」
「そうだy「ただのお出かけだよ!!」
頷こうとした僕を思いっきり遮り、マスターはばしっと言う。
「僕もお出かけ好きだよ、なんてね」
「ほんとに?」
マスターは滅多に見せない、というか、一度も見たことが無いほど優しい目で、ピンクの犬を見た後、首を傾げた。
「ところで、カーレッジくんは、何してるの?」
そう聞くとマスターはさらに首を傾げた。
「ウサちゃんに会いに行ってたの? でも、夜遅いよね??」
「・・・ウサちゃんが、今どうしてるか気になって、歩いていればウサちゃんが声をかけてくれるような気がして・・・」
うつむきがちに言うピンクの犬。
「そうなんだ・・・。その気持ち、すごく分かるよー」
マスターは何度も頷きながら言う。
「今日も会えなかったけど、また会えるよね。ウサちゃんの代わりにマスターさんに会えたから、今日はもう帰るよ。ばいばい、なんてね」
最後にはにかんだ笑顔をピンクの犬は浮かべて、くるっと背を向けて歩いていった。
「また会おうねー! カーレッジきゅーーーーーーーーーーん!!」
甘い声のさらに上をいくとろとろ声で、マスターは手をぶんぶん振って言ったのだった。
「さあ、マスター行きますよ」
「カーレッジきゅんに会えた、カーレッジきゅんに会ーえた♪」
僕がマスターの手を取ってみても、マスターは全く僕のことを見ない。あのピンク色の犬が歩いていった方をいつまでも眺めていた。
「マスター」
「・・・私って、幸せ者だよねー」
僕が耐え切れず声をかけると、マスターは僕を見てにっこりと笑った。
「カーレッジきゅんにも会えたし、カイトはそばにいてくれるし。ほんと、私って幸せ者だ!」
はっはっは、と笑うマスターの笑顔がなんだか悲しそうに見えて、僕は思わずマスターを抱きしめる。
「あ・・・」
笑い声が止まる。僕は言う。
「マスター・・・泣いてもいいんですよ」
何も返事はない。構わず、僕は言う。
「ここは、∞通りです。笑顔ばかり見るのも好きです。でも、僕以外、誰もいないから・・・その」
全く容量を得ない言葉。それでも、きっと想いは届くだろう。きっと・・・。
「・・・カイト」
今にも泣きそうな声。
「・・・泣いても、いいの・・・?」
か細い声が言葉をかたどる。
「・・・・・・でも、・・・」
マスターは僕から一歩離れて、にっこり笑う。
「もう泣かないって、決めたから」
「・・・そうですか」
その言葉と口調と表情に、僕は安心する。
「でも・・・、」
マスターは、あのピンクの犬に見せた表情をして、
「ありがと、カイト」
たったそれだけの言葉。だけど、すごく嬉しかった。
「さてと、もう夜も遅いし、帰ろっか」
何もかも元通りになって、マスターは僕を見る。・・・さっきのはどうやら一瞬だけだったみたいだ。でも、僕のメモリにちゃーんと保存してあるから、いつでも見れる。まさに永久保存盤。
「そうですね、マスター」
そう言えることが、とてつもなく嬉しかった。
「何にやにやしてるの? まーた変なこと考えてるー!」
「ちがいますよ・・・って、あ」
「・・・家に帰るまでなんだからね!」
僕の腕をからめたマスターは、ツンデレっぽく言ってそっぽを向く。
「どうせなら、家に帰ってもそのままがいいです」
この言葉は、さすがにさらりと言えなかったので、目を逸らして呟くように言う。
「・・・今度はさ、公園行こうねー」
スルーされた。でも、まぁ、こういう展開が、僕とマスターには似合ってるのかもしれない。そう思って、僕は空を見上げた。
そこには、すっかり夜に染まった空が静かに存在していた。
僕とマスターの物語は、まだまだ真っ白い世界を埋め尽くせてないみたいだ。
そんなことを、ふと思ったのだった。
【マスターとカイト】 飴、全部食べなきゃだめ? 【後編】
こんにちは、もごもご犬ですこんばんは・・・。
すいません、どうしても書きたくて、っていうか会いたくて書いてしまいました・・・!!><
問題があれば、メッセージにてお知らせ下さればなと思います。
でも、楽しかった! 後悔してない←←
ちなみに、後編、飴が全く出てきてないところは、あえてスルーでお願いしますww
ほんとは、もっと書くはずだったのに眠くて眠くて・・・。
次回も、お楽しみに!^^
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