欠けのない理想郷に 私は住んでいる
この世の美しさが 全てこの中にある


あれは幼き日の初夏のこと
私はまだこの世の中を知らなかった
「変わっている方が良い」 そう大人達の嘘を信じて
色のない群れに飛び込み そして潰された

「ミンナカワッテミンナイイナド キョコウニスギナイノデス」

醜い 疎ましい こんな花など
まるで存在そのものが罪のように 踏みにじられました
心まで土足で汚され その時私は気づいた、
自分と違うものなど 誰も求めていないのだと

光降り注ぐ庭で 踊りましょう 私と
でも誰も彼も手を差し伸べてくれる人はいないの
孤独に耐えかねて ある日 私
自分自身を切り払いました


それからというもの私はなぜか
皆に愛でられ褒め称えられました
もっと愛されたい その一心で自らを整え
やがてこの庭を造り 皆を楽しませました

「セカイノシコウノビニヒトビトハカンドウシタ、シカシ」

ある日 庭の隅に 生えた一本の木
まるで意志を持つかのように 自分の姿を曲げない
縛っても飾ってもすべて 拒むかのように元に戻る
私はその時に たとえがたい怒りを抱いたのです

そよ風薫る庭で 踊る 緑の獣たち
ここは〈緑彫ノ庭園(トピアリック・ガーデン)〉、選ばれた者の園
ものみなに愛でられる“美”とは すなわち
自らを世界の型にはめること


幾度 縛っても 曲げても
その木は望む形にならなかった
滋味あふれる水も 風を防ぐガラスの檻も 拒んで伸び続ける
ある冬の日とうとう 私は命じました

「それならば切り倒してしまいなさい、今すぐ」

雪花の振る庭で 傾いでいく 樅の木
やがて運ばれ飾り付けられて 祝祭の彩(いろどり)となった
だけども本当は知っていました
私は彼の姿に 嫉妬したのです

“至高の美”の庭で 望まれずとも なお
自分を貫き通せる彼の強さが憎かった
訪ね人はみんな 色のない操り人形(マペット)
誰かに従って言葉を繰り返しているだけ


完璧なる理想郷に 私は住んでいる
だけどもここには 愛が 愛だけがない

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

トピアリック・ガーデナー

「トピアリック・ガーデン」のもう一つの続編。
至高の美の庭を取り仕切る女主人の話。

彼女が型にはめられた美しさを強要しているのは、悲しい理由からだということが言いたかったのです。
“美しい”=“正しい”なんでしょうか。その基準は誰が、どのように決めているのでしょうか。“個性”と“美しさ”って両立するんでしょうか。・・・今の世界を見ていると、その答えが何か危うい方向に向かっているような気がしないでもないです。

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投稿日:2013/08/21 14:48:16

文字数:872文字

カテゴリ:歌詞

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