朝、起きてすぐに僕はリンをベッドの横のパイプいすに座らせた。
 きょとんとして僕の言うとおりに椅子に座って、リンはまたあの黒猫を膝の上においてなでながら僕の言葉を待っていた。
「今日もどこか行こうか」
 そう言って微笑むと、昨日教えたようにリンは微笑んで返した。やっぱりぎこちない微笑だったけれど、幼く可愛らしい微笑だった。
「私はどうでもいいわ。あなたについていればいいだけだから」
「そういわないでよ。海とか山とか動物園とかさぁ」
「此処にいればいいじゃない。わざわざ移動する必要が無いわ」
「じゃあ、海で。もうすぐ死ぬならデートくらいさせてよ」
 また微笑んだ。やはり、リンは機械的に微笑みで返した。
 ふと、リンは思った。『焦り』って感情の一つに入るのかな、と。

 まだ人気は少なく、まるで二人のために海岸一つが貸切にされたように静かだった。綺麗に輝く水面を見つめ、僕は隣にちょこんと座ったリンに話しかけた。
「泳いできたら?」
「服が濡れてしまうわ」
「水着なら売ってるんじゃない?」
「死期が近い人間にしか私は見えない。どうせ売っている人に私を見ることは出来ないわ」
「そっか、僕が買いに行くわけにもいかないし…。ちょっと残念」
 はは、と笑って見せるとリンは立ち上がって僕の手を轢いて、足首まで海水に浸かってしまう辺りまで連れてくると、白い手で水を掬って僕のほうへと投げた。思い切りその水を被った僕はきょとんとしてリンを見た。ぽたぽたと髪から水が滴った。
「こういうのがしたかったんじゃないの」
「なんで…?」
 なんでこんな古臭い青春アニメの殿堂みたいなものを知っているんだろうと思って、僕には一つ思い当たるものがあった。
「あのビデオ。病室で見た…」
「やっぱり…」
 あれは見せるべきではなかったな、と今になって後悔している。どうやらリンはあれを見たことで、ああいうのが人間の間では当たり前なんだと思ったらしく、ちょくちょくそういう臭いことをやってくる。ちなみに、あれの内容は一昔前の青春ドラマである。最終的に主人公とヒロインは結ばれるのだが、そこに至るまでが面倒くさい。そのワンシーンに『きゃっきゃうふふしながら水を掛け合う』シーンがあるのだ。恐らく、リンはそれのことを言っているのだろう。
「…やらないの?」
「えーと…ああいうのはドラマの中の話であって…。普通はやらないかなぁ」
 いうと、リンは覚えたばかりの不満そうな顔をした。
 もしかしてやりたかったんだろうか、と思って僕は問いかけた。
「やりたい?」
「…べつに」
「ああ、そう」
 やはり死神はよくわからないな、と思いながら僕は笑って水を掬い上げると、リンのほうに向けて放り投げた。黒いリンのワンピースに水がかかった。ポカンとしているリンを見て、僕はワイシャツの袖をまくり、先ほどより大量の水を救い上げるとリンのほうに投げた。今度は頭から水を被って、白いリボンもリンの金髪も濡れて白い肌を水滴が伝って落ちていった。
 しばらく無言の時間が流れた。
 何度かリンは頭の上のリボンから滴る水を眺めて目をぱちくりさせていた。けれど、リンはあのビデオの内容を思い出し、水の掛け合いをしていたことに気がついたのか、自分も腕まくりをして水をこちらへとかける。上手くかわして僕が水を掬い上げた…。

「――楽しかった?」
「楽しいという感情はまだありません」
「…リン、死神って皆そうなの?機械的で…」
「私はまだ感情を獲得するほど時間がたっていないだけです。時間がたてば自然に感情も生まれる」
 もう時間が無いのに。
 自分が感情を生み出してやることに理由や利益は何一つないが、ここまでくると僕としても意地になって、ついでに自棄にもなって彼女に何か一つでも感情を教えてやらねば、という妙な義務感に狩られた。
「あなたは死を拒まないのね」
「え?」
「多くの人間は死に怯え、醜くなるものだと聞いていたわ」
「…でも、きっとそれが当たり前なんじゃないかな。誰だって死ぬのは怖いんだろうし、生きていることに喜びを覚える人が殆どだよ。その人たちはおかしくないと思う。醜くても、それが人間の一面だと思うから」
「じゃああなたは。あなたはどうして死を拒まない。どうして自ら死を望むの」
 何時に無くその目は真剣だった。いつもが不真面目だというのではなくて、いつもはもっと無関心な光のない目をしていることが多くて、今日は何故か力の入った風だったから、僕は驚いた。
 けれど、しばらく考えてから僕はいった。
「…どうしてかなぁ」
 笑ってごまかそうとしたけれど、ごまかしきれなかった。やっぱりリンは真面目に僕を見つめていて、いつまでたってもその視線は僕から外れることが無かった。

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  • 非営利目的に限ります
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ものくろわーるど 8

こんばんは、リオンです。
今日も考えていた会話を再現してみました↓
レ「…リン、付き添っていてくれるのは嬉しいんだよ」
リ「うん」
レ「毎朝、定時に起こしてくれるのもすごく嬉しい」
リ「うん」
レ「でも、起こしかたをえらぼうね。起こし方を。」
リ「何かおかしなことをしたかしら」
レ「呪いをかけるような声で起こさないで下さい。
 毎朝おかしな夢を見るんだよ。喉に五寸釘刺される夢。
 リンは僕のことが嫌いなのかな☆」
リ「さっさと願い事を言えばいいだけの話…」
レ「なんかいった?」
っていうね(だから何
リンちゃんはちょっと黒いほうが可愛いと思うんだ(ぇ

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閲覧数:250

投稿日:2010/04/07 23:00:16

文字数:1,971文字

カテゴリ:小説

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  • 流華

    流華

    ご意見・ご感想

    リンちゃん!まだ気付かないの!?
    焦ってるのは、きっとレン君に死んでほしくないk(勝手に決め付けるな。

    レン君はなんで一昔前のビデオなんて持ってるんでしょうね?
    水のかけあいですか……。小学校のプール掃除のときにふざけて大人数でやりまs(それは違うから!

    リンちゃん。レン君の起こし方考えてあげて………。
    可愛い声で話しかけながら体揺するt(いい加減黙ったら?

    次も楽しみにしてます☆

    2010/04/07 23:32:39

    • リオン

      リオン

      流華さん、
      リンちゃんは鈍感だから…マセてるのは寧ろレンのほうだと思います。

      レン君って謎が多いですね。色々くだらない謎が。
      私は従姉と海で半ば本気で水の掛け合いやりましたよ。お父さんが呆れてました。

      リンちゃんは真っ白じゃないと思うんだ。ド真ん中に黒がぽつんと落ちてるような子だと思うんだ。
      それは多くの人が大量出血してしまう(鼻血的な意味で

      次も頑張りますねー♪

      2010/04/08 17:06:19

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