「よっし、できたっ!」


 ひとつの机に向かい合わせで椅子を置いて座り、編集作業を始めてから三時間ほどが過ぎ、やっとの事で最後まで編集が終わった喜びから、カイトが両手を上へと伸ばして伸びをしつつ、完成の喜びの声を上げた。


「手間取っちゃったね」
「提出が遅いやつらが悪いんだって」


 こまめに進めていた編集作業であったが、文集に載せる未来の自分への手紙や、学校生活を振り返っての作文などの提出がギリギリになる者が多く、結局締め切りとなっていた今日に作業がぐっと固まってしまったのだった。

 行事の際に取った写真を要所要所に配置して、寄せ書きなども入れて。

 作った人間が言うのもなんだが、随分と立派なものに仕上がったのではないかとミクは達成感に満ちていた。


「うーっし。あとはこれを提出すれば、やっと俺たちも冬休みだ!」


 一まとめにした原稿をファイルに入れて、開放感に満ち溢れた顔で笑うカイトを見て、ミクはふと疑問に思った。


「あれ? カイトくんって推薦とかで高校決まってたっけ?」
「え? なんで?」


 振られた質問の意図がわからず、不思議そうな顔をするカイトに、負けじと不思議そうな顔をしたミクが問い直す。


「だって、受験勉強漬けでしょ冬休みなんて。無いに等しいじゃない。みんなだって、ぼやいてたよ」
「あ~、勉強か。まぁなるようになるって」


 誰もが頭を抱えている受験という目の前の壁に対して、ミクはカイトから今まで特に何も聴いたことが無かったので、もしかしたら推薦入試ですでに決まっているのかと思ってしまっていたのだ。

 しかし実際は違い、あまり気にしていなかったらしい。

 カイトに対してしっかり者といった感じのイメージを抱いていたミクとしては、少し驚いてしまう。


「だってさ、いきなり詰め込んだ所で苦しいだけだし、無理して入った所では無理してやってかなきゃになりそうだろ? 俺はそうなるのがいやだからさ」


 だから普段から適当にやってるし、それ以上はやらないのが自分流だとカイトは言う。

 なるほど、それも一理あるなとミクは思うと共に、しっかり者のイメージを勝手に撤廃しようとしていた事にたいして、心の中で小さく謝った。


「そういや、初音ってどこ受けるの? まだ聞いたことなかったよね?」


 受験の話題になったので当然といえば当然なのだが、振られたその質問に、ミクは思わず身をこわばらせた。

 担任にしか海外へと行くことを告げていなかったため、カイトがその事など知るはずもない。


 知ったら、どう思うのかな――
 

 少し照れくさそうな顔をしているカイトを見て、心が怯む。

 この数ヶ月の間少しずつ。それでも着実に近づけてきた二人の距離が一気になくなってしまわないだろうか。

 そんな不安がミクの中で渦をまくのだ。

 しかし、もとより今日その事を告げようと覚悟を決めてきたミクは、その不安をぐっと堪える。

 机の上を無意識に走らせていた指が、そこに悪戯で小さく彫られていた傷に触れる。

 ガンバレ

 受験生の自分に向けてなのだろうか。何年も前の先輩達が残していったそんな落書き。

 それに背を押されるようにして、ミクはまっすぐにカイトを見つめて告げたのだった。


「私ね、転校するんだ」
「えっ……」


 もしかしたら一緒の高校だったらだとか。期待してくれていたのかもしれない。

 そうだったらどれだけ嬉しいだろうか。でもそれと同じぐらい、辛くもなる。

 予想もしていなかったミクの言葉に、どういうことかわからないと言わんばかりの表情をカイトは浮かべる。

n明らかにショックを受けた顔をされてしまい、ミクは胸の内が鈍く痛み出すが耐えた。


「で、でもさ。高校なら校区広いし。みんなが行く範囲の学校区内での転校とか?」


 親の仕事の関係で転校を繰り返しているということは皆が知っているので、理由は問われなかった。

 そのかわり、遠くへは行かないのだろうとカイトは期待を投げてよこしたのだが、ミクは首を振ることしかできなかった。


「じゃあ……どこへ?」
「……海外なの」


 そんな、と。脱力したカイトの呟きが小さく洩れた。

 足の指先から喉元まで。一気に押し寄せてきた悲しみを無理やりに押さえ込んで、ミクは涙を流すまいと歯を食いしばる。

 そして。今日言おうとしていたもう一つの事を伝えるために、精一杯の笑顔を作って浮かべた。


「だから、クリスマスの明日一日を、私にくれないかな?」


 今にも溢れそうになる悲しみも、ふとすれば取り乱しそうになる恥ずかしさも押さえ込む。みっともない所など見せていられない。

 気丈に振舞っているのがそれでも丸わかりなのだろう。そんなミクを見てカイトは指を入れて髪を掻いて、呆けていた自分に活を入れると、応えるように笑顔を浮かべて言ったのだった。


「ああ、喜んで」
「ありがとう」


 まだ、変わらぬ距離に居てくれる。

 その安堵が素直に言葉となってミクの口をついた。

 たとえそれが後一日だけだったとしても。その一日はかけがえの無いものなのだ。

 最初で最後の特別な日。

 それはミクにとっての、最高のクリスマスプレゼントであった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【小説】ありがとう、さようなら_4【初めての恋が終わる時】

アップする分はここまでで最後になります。
後は本にて。
すみません。
自分なりの歌詞部分までのプロローグはここまでなのですが、歌詞部分よりこちらのほうが力が入ってしまってなんともはやです(汗

閲覧数:320

投稿日:2009/02/20 15:57:55

文字数:2,206文字

カテゴリ:小説

  • コメント4

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  • No_rito

    No_rito

    ご意見・ご感想

    @たあさん>
    コメントありがとうございます。

    リンver聞いたこと無いですが、リンレン視点も面白そうですね!

    自分はやっぱりオリジナルのPVの印象が強かったんでミクになりましたね~

    彼ver。色々忙しくて4月ぐらいからになりそうですが、気長にお待ち頂けるとありがたいです。

    2009/03/07 04:35:02

  • @たあ

    @たあ

    ご意見・ご感想

    この小説読んでボーマス行けないのが悔しくてしかたありませんw

    最初に聴いたのがリンverだったのせいか、自分はリンレンで構成考えてたので新鮮でした。

    彼ver楽しみにしています!

    2009/03/06 00:22:06

  • No_rito

    No_rito

    ご意見・ご感想

    時給310円 さん>
    いや、むしろこちらこそサーセンw
    ボーカロイドマスター7に向けての急ピッチでの作業だったため、作品に余剰を用意する余裕がまったくなくてこんな結末に(汗

    雰囲気文章なので、もう少し手直しを入れて。相手をKAITOから「彼」に変更して、また書き直してみたいとおもいます。
    そのverはちゃんと最後までアップしますので(苦笑
    気長にお待ち頂ければと思います。

    一応、サイトなぞも立ち上げてみましたのでよろしければ
    http://songword.web.fc2.com/

    コメント励みになります。ありがとうございます。

    2009/02/25 02:58:05

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    本か……なるほど、そう来たか。かなり手練れの商売人さんとお見受けする。
    しゃーねえ、まんまと乗せられるとするかww

    冗談ですごめんなさい。やはり実力者は、それなりの活動をしているものですな。
    雰囲気の良い話なので、多くの人に読んでもらいたいですね。がんばって下さい。

    2009/02/21 13:18:20

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