!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
気が付いたら、涙が溢れていた。視界には、ぼやけた刑事さんの足とカイトの足。
「すまんかったな。おっちゃんたちが突っ込んだから見れなかったんだろ?」
「い、いえ・・・っ・・・」
屈んで私の頭を撫でてくれる刑事さんを見て、私は慌てて涙を両手で拭う。少し目の辺りが痛くなるぐらい擦ったけど、全然涙は止まってくれなかった。躊躇うように近付いてきたカイトも、私の隣にしゃがんで背中をさすってくれる。
「まあ、何にしても・・・二人とも擦り傷があるぐらいで大事はないってよ。
一応意識がなかったから病院に搬送されたんだがな」
豪快に笑いながら、大きな手が頭を撫で繰り回す。口では言わないけれど、泣くなと言われているようだった。
――知らなかった。私は、知らなかった・・・知ろうとも、していなかった。少し周りを見れば、心配して助けてくれる人がいたのに、ずっと俯いて一人だと思ってた。こんな自分を助けてくれる人なんてどこにもいないと思い込んでた。本当は・・・見えていなかっただけだったのに。
いつの間にか、安堵からの涙が嬉しさからの涙に変わっていた。ぎゅっと涙を堪えて零れたものを拭いさると、刑事さんはその様子を見て立ち上がり、私の頭から手を離す。見上げると、優しい笑顔を向けてくれた。
「今は意識も戻ってるしよ・・・二人とももうこっちに来るはずだ」
「そうですか・・・ありがとう、ございます」
それは喜ぶべきことだったのだろうけど、手放しには喜べなかった。司くんは何もしていないから大丈夫だとしても、あの人はきっと・・・罪に問われることになる。施設に入ることになるかもしれない。
今の私は、解放されることを望んでいたあの時とは違う。今回の離れ離れはきっと、以前よりももっと辛い。そんな風に、考えなければならないことはまだまだたくさんあるけれど、二人とも無事なら今はそれでいいと考えに区切りをつける。
その時、ちょうど高い音が鳴り響いた。インターホンだ。それは、安堵のせいで力が抜けていた私を、瞬時に玄関へと誘う。
バタバタと足音を響かせながら玄関へ向かうと、一足先にそこにいたルカさんが――もしかすると玄関でずっと司くんの帰りを待っていたのかもしれない――玄関の扉を開けたところだった。ルカさんは走ってくる私を見て少し目を見開き、ぶつからないようにと壁際へ寄ってくれる。
開いた扉の向こう・・・驚いた顔をした司くんとその人に、私は靴も履かずに抱きついていた。
後ろから静かな足音が近付くのは、刑事さんとカイトだろう。けれど、構わずにぎゅっと二人に抱きついていた。
涙が零れそうなのを堪えて、目を閉じる。頭にふってくる温かさと背中に回される腕の温かさはきっと、二人のもの。
「・・・律、心配かけたね」
「悪かったな、律」
降ってくる大好きな人たちの優しい声。
いいの、と言いたくても言葉が出てこない。私こそごめんね、と言いたかったのに何も言えない。言いたいことも伝えなくちゃいけないこともたくさんあったのに、何も言葉にならなかった。
「心配しました、マスター・・・ご無事で何よりです」
後ろから声がかけられて、私は自然と二人から離れる。
振り返ると、微笑みを湛えたルカさん。その後ろには、もう自分の出番は終わったとばかりに壁にもたれている刑事さんと、ルカさんと同じように微笑んでいるカイト。
司くんは私の頭をくしゃりと撫でながら、「心配したって割には平気そうな顔してるじゃねぇか」と軽口を叩いている。気を悪くした様子もなく笑っているルカさんにとって、それはいつものやり取りなんだろう。本当に仲が良い。
「お帰りなさい、隆司さん」
「ああ、ただいま」
私の隣をすり抜けてカイトの目の前まで行くと、司くんはそう言いながら拳を握って前へ突き出した。カイトはきょとんとそれを見たけれど、すぐにその意味がわかったようで自分の拳をそれに軽くぶつける。
何だか、二人の間には今までよりも深い信頼感が見える。気のせいだろうか。
首を傾げようとした時、ぽんっと肩に手が置かれて振り返る。そこには、あの頃と変わらない笑顔があった。
「話は中でしよう。待ってくださっているからお茶ぐらい出したいしね?」
優しい笑顔なのに、ズキンと胸が痛む。彼が会釈するその視線の先には、刑事さんがいる・・・たったそれだけのことなのに。刑事さんは構わないと言いたげだったけれど、促されるまま応接間へと入っていく。カイト、ルカさん、司くん、刑事さん・・・そして彼の後ろを歩きながら、どうしても聞いておきたいことがあったのに、聞くことはできなかった。
心の準備をするためにも、聞いておくべきだと思っていたのに、避けてしまった。『やっぱり離れ離れになるの?』と簡単に尋ねることができる勇気があればよかったのに。『私のことなら大丈夫だから、安心して』って言えればよかったのに。
席に吐きながら吐き出すため息に合わせるように、頭の中で何かが爆ぜる音がしたような気がした。
全員が席についたところで何の会話もなく、司くんとカイトが全員分の紅茶を入れている。時折陶器がぶつかる音がするのを除けば、聞こえてくるのは時計の音だけだ。それが心地良いと感じられるのは、どこか新鮮な感覚だった。長らく忘れていた安心感。
現実はこんなに甘いものじゃないと知っているけれど。
司くんとカイトが紅茶を机に並べて席につくと、そのタイミングで私の向かいに腰掛けた司くんが口を開いた。
「説明、竜一さんがしますか?」
気遣うように私の隣に座っている彼に言い、「もし話し辛いなら俺が話しますけど」と司くんは付け足す。心配になって視線を向けると、彼の横顔は優しい微笑みに包まれていた。
「自分で話すよ。まずは・・・自己紹介した方が良いかな?」
空気は凍り付いているわけではないけれど、誰も口を開こうとはしない。ただ、自分には関係ないというような表情の刑事さんが、紅茶を豪快に飲む音が部屋に響くぐらい静かだ。きっと刑事さんにとってもこの事件のことは苦い思い出なのだろうし、自分が口を出すことでややこしくなるのを避けたいからそうしているのだろう。
きっとカイトもルカさんも、この人の名前ぐらいは聞いているし、知っている。もしかしたら、真剣な表情をしているルカさんは司くんから私の過去のことも聞いているかもしれないけれど。
カイトは何か言いたかったようだけど、空気に呑まれたように黙り込んでいた。名前はもう知っているというようなことを言おうとしていたのかもしれない。
名前を知っている・・・けれど、名前しか知らない。私はカイトに何も話さなかった。私からカイトに話すことを望んでいるだろう司くんが話しているとは考えにくい。今なら私から話せるような気もするけれど、身体はきっとその記憶を言葉にして外に出してしまうことを拒む。もう竜二さんがあんなことをするわけがないとわかっていても。
テーブルに両肘をついて手を組んだ彼が視界に入る。
これから語られるのは、あの頃の話。今に続いた道。この人と事件と竜二さんと・・・もうここにはいない人の。
テーブルの下・・・太腿の上で祈るように繋ぎ合わせた両手がカタカタと震える。
「――僕の名前は、竜一。
僕の中のもう一人は竜二と言って・・・本当なら竜一であるはずの、僕の兄なんだ」
ドクッと心臓が跳ねた。
まだ幼くて何もわからなかったから、信じ続けていた、いないはずの一人。けれど、確かに彼は当たり前のように私たちと共にいた。竜二という一つの人格として。それは当然のことで、誰もその存在を疑わなかった。私たちにとってそれは異常なことではなく、呼吸をするのと同じように自然なこと。他の人の目にどう映っていたとしても、彼もかけがえのない存在だった。
カイトが首を捻り、ルカさんが目を細める。
わからなくても当然と言うように、彼が一つ息をついてからこう切り出した。
「胎児内胎児という言葉を、聞いたことはあるかい?」
この話はきっと、避けては通れないもの。全ていつかは話さなければならないこと。私たちの過去には、竜二さんのことを知ってもらう必要があるから。
きゅっと唇を引き結んで記憶の波に耐える。苦しいけれど、乗り越えなければと手を握りなおした。
→ep.42
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