♯11 【ずっと一緒に居たかった。】

 蝉が鳴いている。
空には、入道雲がそびえ立っている。

 私は今、電車に乗って彼に会いに行っている。

 彼は、とても優しくて、かっこよくて、素敵な人。
ただ、体は少し弱いけれど。

 でも、だいぶ前に病院からは退院した。
それからは、自宅治療だ。

 私と彼が出会ったのは、丁度桜が、葉桜になったぐらいの頃。

 友達の友達、というごくありふれた出会い方だった。

 告白は、私からだった。
いままで告白なんて経験、したことのなかった私の不器用な言葉を、優しく笑って受け止めてくれた。

 「早く…会いたいなあ……。」

 窓の外を見ながら、小さく呟いた。

 彼のことを思うだけで、心が弾む。
顔が火照ってくるのがわかる。

 彼も、私と同じ想いだったらなおさら嬉しい。

 心臓の鼓動が、速まっていく。

 出会ってから、2年と少し。
ほぼ毎日会っていたけど、一緒に居ないとやっぱり寂しい。

 そうして、彼の事ばかり考えていたら、いつの間にか駅に着いていた。

 私は駅のホームに降りる。
彼に会えるのだと思うと、足取りが軽い。

 鼻歌でも歌いたい気分だったが、周りに人がちらほらいたから、止めた。

 いつもより少し速足で歩くこと、10分。
彼の家に着いた。

 彼の家に来るのは初めてじゃないし、御家族も私のこと知ってる。
慣れた感じで、挨拶をする。

 「こんにちはー。」

 いつも元気よく返ってくる筈の、お母さんの声がない。

 お出かけ中かな、とも思ったけど病気の彼を置いていく筈がない。

 家に上がって部屋へ行くと、殺風景な空間が広がっていた。
テレビも、テーブルも、キッチンには冷蔵庫もない。

 「…?」

 不思議に思ったが家の事情なのだろうと思い、彼の部屋へ向かった。

 「来たよ―。調子はどう?」
そう言いながら、開けた彼の部屋のドア。

 でもやっぱり、彼の部屋も何もなかった。

 「ど…うし…て……?」

 いつも私が買ってきたものを置く白いテーブルも、本棚も、彼が寝ていたベッドも、もう何もなかった。

 「ここ…じゃ…なかったっけ…?」

 頭が、くらくらする。

 そのうち幻覚も見えてきた。

 それは、お葬式だ。

 彼のお父さんが唇をかみしめて、目を堅く閉じている。
 彼のお母さんは口元をハンカチで押えて、声をあげて泣いている。

 私も黒い服を着て、泣いていた。

 ふと、顔をあげる。

 自然に目が、遺影へと向かう。

  そこに写っていたのは…、

 「ぃやあああああああぁぁあああああぁぁあぁあぁぁぁぁぁ……!!!!」

 全てを思い出した。

 彼は、死んだ。

 死んでもう、1年になる。

 そして私がここに来た理由は、彼に会うため。

 私は危うい足取りで、お風呂場へと向かう。
手には、あるものを持っている。

 そうだ、今日のためにちゃんと用意してたんだった。

 「…忘れっぽいなあ…私って。最初っからこうするために来たのに。」

 あるものが、電気の光で鋭く光る。

 「今、会いに行くから、待ってて…。」

 私はあるものを、手首に当てた。

 それからは、ずっと目を閉じていた。
涙が、頬を伝う。

 どうして…。

 彼に会いに行くんだから、悲しくなんてないよ。
泣くなんておかしいの。

 「寂しいの、私…。」

 

 そう呟くと、だんだん意識が遠のいて、白いものに包まれていった。





 

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  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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幽霊列車

ミクさんですよお。

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閲覧数:126

投稿日:2012/06/03 16:58:44

文字数:1,466文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    ミク……

    まさかの展開!
    これは全員分あるんですね!w
    それは興味深いです!
    というか、まったく予想していなかった事態にわくわくすっぞぉww

    2012/06/04 08:58:40

    • イズミ草

      イズミ草

      全員分ありますねw

      まさかの展開に思ってもらえて光栄ですねww

      そういう感じにしたかったのでw

      そういえば、しるるさんのあの仮説は合ってましたか?

      2012/06/04 18:28:43

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