「ハク……」
「メイコ、俺も少し……がんばりすぎたようだな」
 あの爆発の後、奇跡的に助かったハクは、すぐさま病院に運ばれた。ほどなくして、体中に傷を負ったカイトが自らの足で病院にやってきた。ザツオンはすべて葬ったが、全身がボロボロになってしまった。メイコも額や腕に包帯を巻いていた。ハクは、ようやく意識を取り戻したが、自分の店を失った事で茫然自失となっていた。

「アイドルは顔が命だろ? 大丈夫なのか」
 顔に傷を負ったメイコをカイトが気遣った。
「大丈夫よ」
 メイコは元気よく言ったが、カイトはため息をついた。
「だけど、このまま戦い続けて、俺たちに勝機はあるだろうか」
「何よ! カイトまでそんな弱気な事言って!!」
「メイコ……やめて」
 ハクの言葉に、メイコは続く言葉を飲み込んだ。その時、病室のドアをノックする音が聞こえた。
「お取り込み中、すいません」
 3人の前に現れたのは、緑色の髪をした少女だった。

「また会ったね。覚えてる?」
「初音ミクね」
 メイコは反射的に緑色の髪をした少女を睨みつけた。
「そんなに怖い顔しないでよ」
 その後ろから、黄色い髪の少女が現れた。ミクの後ろから顔をのぞかせたのは、頭の上のリボンが印象的な少女だった。
「もう、いい加減に引退したら? もう、おばさんなんだから」
「何ですって!!」
 メイコは立ちあがり、リボンの少女につかみかかろうとした。
「リン、言いすぎだよ。一応先輩なんだから」
 その後ろから、同じ黄色の髪の少年が現れた。その声に少し冷静になれたメイコは、もう一度イスに座った。その少年の姿は、頭のリボンと髪形を除けば、リンとよく似ていた。
「いいの。こういうときは、現実を突きつけてやるのが一番なの。レン、わかった?」
 レンと呼ばれた少年は、口をとがらせて黙り込んでしまった。

「リン、レン、ここは病院よ。もう少し静かにしないと。それに、初対面なのですから、名前くらいは名乗りなさい」
 3人の後ろからピンク色の髪をした女性が姿を見せた。リンとレンの2人は「はーい」と、間延びした返事をして、
「私、鏡音(かがみね)リン」「俺、鏡音(かがみね)レン」
 と、そっけない自己紹介をした。
「はじめまして。私は巡音(めぐりね)ルカと言います」
 ルカは、そう言って頭を下げた。メンバーの中では一番落ち着きがあり大人だと感じた。メイコは立ち上がり、ミク達4人と対峙した。
「私達にどうしろというの?」
「もう、すべてを任せてほしいの。貴方達3人は、3年前の戦いで『ノイズ団』を壊滅させて、世界を守った。それでもう貴方達の役目は終わったの。この先は、もう私達に任せて。貴方には、戦う理由だってないはずよ」

「理由……」
 メイコの頭の中に、桜子の事が浮かんだ。
「そうでしょ? 今度の敵は、『ノイズ団』みたいに、音楽を消す事じゃない。音楽の力を利用して、人々に言う事を聞かせて、世界を征服しようとしている。貴方達は、狂った科学者」
「やめて!!」
 ミクの言葉をさえぎるように、ハクは大声をあげた。
「貴方だって、罪滅ぼしのために……」
「言わないで!! それだけは言わないで!!」
 ハクはベッドから降り、ミクに哀願した。
「ここじゃ話しにくいわ。場所を変えましょ」
「……そうね」
 メイコはミクの提案に従い、病院の外へと向かった。


 メイコとカイトが連れてこられたのは、病院から少し離れた雑居ビルの一室だった。だが、そのビルはこの付近では有名な幽霊ビルだった。テナントは何一つ入ってはおらず、文字通り、誰も出入りしない廃墟のようなところであった。しかし、不思議な事に電気や水道は普通に使う事が出来た。

「メイコさん、さっきも言ったけど、貴方には戦う理由はないはずよ」
 ミクはそう言って、暗に手を引くように促した。
「戦う理由は、十分すぎるくらいあるわ」
 メイコは桜子の事を話した。
「貴方達が何を考えているかは分からないわ。でも、私達は、カナデンジャーとして、どんな事があっても戦う。それだけよ」
 メイコの言葉に、ミクは笑みを浮かべた。
「おかしいか? 俺も、そのつもりだ。カナデンジャーとして、恥ずかしくないように戦うだけだ」
 カイトも4人に向かって言い放った。
「それに、理由なんて必要ない。桜子の事がなくても、音楽を世界征服の道具に使うなんて、絶対に許せないわ」
「そう……でも、今のあなたたちじゃ、絶対に……」
 ミクが言いかけた時だった。目の前の窓ガラスが砕け散り、6人はそのまま部屋の隅まで弾き飛ばされた。

「あれは!?」
 カイトがすぐさま窓の近くへ駆け寄った。
 すでに日が落ちた街中に、煌々と赤い炎が見えた。そして、道路にはザツオンの群れと、そこから逃げようとする人々が入り混じり、混沌とした状況になっていた。

「一体、あいつらは……『ノイズ団』とは何か違う……」
 メイコは立ち上がり、窓のそばに走った。ミクは、すぐに近くの窓から身を乗り出して様子をうかがう。
「『エビル・マニュピレイター』……私達はそう呼んでるわ。音楽家を拉致して、彼らを洗脳し、彼らの音楽を通じて人々を狂わせて、争いを起こさせる。最終的には自分たちの望む世界を作ろうとする者たち……」
「私達は、彼らの動きを察知し、2年前から準備を進めてきました」
 ルカは、平然と何事もなかったかのように立ちあがった。
「メロチェンジャーをもらって、今日のためにずっと頑張ってきたんだ」
 レンはそう言って、左腕のメロチェンジャーをメイコ達に見せた。
「メイコさん、わかったでしょ? 今のあなたたちじゃ、あいつらには絶対に勝てない。だから、おとなしくして……」
「嫌よ。それはお断りね」

 メイコはそう言って、もう一度ミクと向き合った。
「私達には、私たちなりに戦う理由がある。貴方達に指図される事はないわ」
 メイコはすぐさま左腕を前に突き出した。
「私の……ともに戦った仲間が、危機にさらされている。だから、私達は、私達の戦いをする。それだけよ。カイト、行くよ」
「OK! メイコ」
 メイコとカイトはすぐさま4人の方に向き直った。炎に照らされ、2人の姿は神々しい戦士に見えた。
「コードチェンジ!!」
 2人はカナデレッドとカナデブルーに変身した。そして、窓から飛び降り、混乱の続く市街地へと走り始めた。
 ミク達4人は、2人の姿が見えなくなるまで窓から眺めていた。
                                                           つづく

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

光響戦隊カナデンジャー song-03 真のヒーロー Bパート

カナデンジャー第3話までアップ終了です。
内容は、コラボにアップしたものと同じです。 

閲覧数:318

投稿日:2013/05/28 22:43:41

文字数:2,737文字

カテゴリ:小説

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