「さて、と。どこから回る?」

「お前の好きに案内してくれよ。ところで……」

俺は宿舎の隣にあった建物を指差した。

「ありゃなんだ?宿舎っぽいが随分こっちとは趣が違うな」

「ああ、あれは私たち亜種の中でも大人気な……いわばVIPの宿舎よ。見た目通り中もこっちより豪華だわ。一部屋に二人押し込められたりもしないしね?」

雑音の話によれば、宿舎は人間用のものもあり、そちらも同じようにランク分けされているらしい。

「ふうん……おっと、すまんちょっと待っててくれ」

俺のポケットが振動し始めた。雑音に一言言って俺は電話に出た。相手は勿論一人しかいない。

『キミの歓迎会が開かれるそうだね?』

「唐突に何を言い出すんだお前は……」

奴はまともな挨拶も抜きでいきなり言った。
つうかそれ俺もさっき手に入れたばかりの情報なんだが。一体どこから仕入れた。

『私も常に本業をやっていられるほど暇ではなくてね、全く嘆かわしい……っと、本題に入ろうか』

「手短に頼むぞ」

『歓迎会の際に恐らくはキミからのスピーチをやってくれと言われると思うんだよ?その時に是非我が組織の宣伝を「断る」

俺は携帯電話の通話を終了しポケットに放り込んだ。案の定すぐ着信があったが。

『ちょ、キミ、親にちゃんと人の話は最後まで聞くようにって教わらなかった?』

「生憎俺の親は子供の教育に関しては放任主義でな」

親の話をしたら久々に母さんの薄すぎる味噌汁が飲みたくなった。まあ、もう叶わぬ願いだろうが……

『のびのびと育て過ぎるのも良くないと私は思うぞ……ってそんなことはどうでもいい。まあ私も別にこれは強制するつもりはない。だからもしやってくれれば臨時ボーナスをだすつもりだ。あー後やるなら組織名の募集もしといて。断ると言うのならそれもいい。あまりお勧めはしないがね……ふっふっふ、はーっはっはっはっはげほっごほっ』

奴の高笑いが咳き込みに変わった所で電話は切れた。いまいち締まらないなあいつ……

「済んだ?」

「ああ。次行くか」

要するにやらなくてもいいんだな。
そう思って気楽に構えた俺は、後にそれが間違いだと悟る羽目になるとはこの時は夢にも思っていなかったのだった。

◆◆◆

俺と雑音が次に訪れたのは、野外ライブ会場だった。

「思った以上に広いんだな」

ライブ会場というよりは、東京ドームに近い雰囲気だ。

「まあ、ライブの他にもスポーツ大会とかに使われたりしてるしねー、実際はあんたの感じた通り、東京ドームとかに近いのかも」

「なるほど。しかし、なんというか物悲しいもんだな、誰もいない巨大施設ってのは……ん?」

視界の端に何かがちらついたのでそちらに顔を向けると、座席の裏に隠れるようにしゃがんでいる少女の姿が見えた。
ショートカットの黄色い髪に、動きやすそうなノースリーブとハーフパンツが活発そうな印象を与える。
仕切りに座席の向こう側の入り口を気にしていて、反対側から来た俺たちには気づいていない。

「あれって……鏡音リンじゃない。有名人がこんな所で何やってんのかしら」

「さあな、本人に聞いてみるのが一番だろ。おい、鏡音リン!」

「ひあっ!?」

可愛らしい悲鳴をあげ、リンはこちらに振り返った。

「だ、誰よあんた達!?」

「俺は語音シグ、こっちは雑音ミクだ。あんたこんな所でなにしてんだ?見たところ隠れてるつもりみたいだが、それじゃ頭のリボンが丸見えだぜ?」

「あっ」

指摘を受けリンはヘッドフォンを外した。一体化した構造になっているようだ。

「で、あんたは何から逃げてるんだ?」

「あんた達なんかに話す必要はないわよ……」

「そうか。なら……」

俺は大きく息を吸い込んで、腹の底から声を出した。

「あーあー、皆さーんここにかがm「キャアアアア!止めなさいよおおおおお!!」

途端に、リンが俺の腹に突っ込んできた。

「ぐほぁ!?」

倒れ、リンの下敷きになる俺。
俺の場所までそれなりに距離と高低差があったのに躊躇なく飛びやがった……このガキ予想以上にデンジャラスだ。

「とにかく話せないのおーーっ!!」

「わ、わかったわかった、てか今のお前の方が大声だぞ……」

「あっ、しまった……何言わせるのよおっ!!」

「ちょっ、落ち、つけっ!」

リンは俺に馬乗りになったまま顔にビンタを繰り出し始める。振り払いたいが体勢が悪く思ったように力を入れられない。

「あー、リン流石に止めてあげて。顔はまずいから……」

「あ、うん……」

リンは雑音の制止でようやく俺の上から降りた。

「ふう……全く、酷い目にあったぜ……近頃のガキはキレると怖い」

「怒らせた張本人が何言ってんのよ。で、まだリンから聞き出すつもり?」

「いや、やめとくよ。初日からいきなり動作不良に陥りたくないからな」

「ということだけど、どう?」

「……ありがと」

雑音の言葉に、リンは顔を少し赤くし、小さな声でお礼を言った。そういう仕草を見ると、こりゃ人気が出る訳だなと思わされる。

「……さて、そろそろ次に案内してくれ」

「命令するな。じゃーね、リン」

「あ、あたしがここにいるのは秘密だからね!」

後ろで叫ぶリンに俺は振り返らず答えた。

「安心しろ、俺たちはここでは何も見なかった。な、雑音」

「何格好つけてんの、気持ち悪い」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説【とある科学者の陰謀】第三話~黄色の二人、現る~その一

第三話にしてついにクリプトン公式ボカロ登場です。長かった……無駄に。

レンもちゃんと後半で出てきます。

閲覧数:189

投稿日:2011/05/18 21:25:21

文字数:2,241文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 絢那@受験ですのであんまいない

    いやまて…確かシグって三つ編みの女の子の姿だったはず…ってことは…
    俺っ娘か!いやぁ、萌えますn((黙れ

    てかびんぞこ気持ち悪いwwwしつこいwww
    私怨のために何をそこまでって笑っちゃうwww

    リン強いですね。ビンタって…女の子はそんなのしちゃダメですよ~。

    2011/05/18 21:51:50

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