車が工場の外で停車して、4人の外国人が入ってくる。
ジェシー達にとっては自分達の国の人間、しかしここでは異国の人間達だ。
「遅かったな」
そう言って身長が170前後で細身、三十代前半の男がやって来た客を迎える。
「ソーリー、ミスターオオグロ」
と流暢な日本語で返す異国の男。
「ブツの一部だ、確認してくれ。おい、遠藤」
そう言って右手を軽く上げて合図をする。
「はい。おい、こっちに来い」
大柄の男が大きなバッグを持って、フード付きのコートをスッポリかぶった人を三人前へと連れてくる
。フードを被った人は二人は身長がオオグロと似たような感じ、もう一人は子供のそれと変わりない。
「ヘイ、オオグロ。彼は?」
一人の男が小さな人に興味を示す。
「前に、あんたの国で騒がれてる奴の話を聞いてね。用意してみた。今日なんか役に立つかもな・・・」
「ホワット?」
オオグロはにやりと笑う。異国の男達は互いに顔を見合わせる。
静かに、そして次第に大きく歌声がこだまする。
『セイレーン』のオンステージだ。
狙われた人間達は騒ぎ立てる、しかしオオグロは余裕の笑みを浮かべていた。
「きたな、確かに話し道理厄介な歌だな・・・」
オオグロは小さなフードの人に目を向ける。そいつはフードを脱ぎ捨てた。
「レン!?」
リンの歌声は止まる。
「どうした!?」
リンの歌声が止まったのに出鼻を挫かれ、動けなくなるジェシー。
「私の同型のタイプのVocaloid、レン・カガミネです!!」
リンはあせったような口調だ。
「落ち着け!取り合えず作戦続行、フェーズAを維持」
「了解」
少しの歌が途切れたことにオオグロは満足を覚える。
「睨んだとおりだ、ボーカロイドに神経干渉音波・・・」
歯を見せてにやりとゆがんだ表情をする。それを見て異国の男達は逃げよとせず、オオグロ達と共に戦闘態勢に移行した。
歌がまた始まる。
「やれ」とオオグロが指示を出すと、こくりと頷きレンが口を空けて声を発する。
「あー」と只ずっと、声を発する。その声を皮切りに、オオグロを初めとする連中が動き出した。
そう、もうリンの歌は通用しないのだ。
リンが言うまでも無く、ジェシーにはそれが危機的だと察知した。
今までリンの歌があったからこそ、大勢の連中と立ち回ってきたジェシーだが今回今まで様に行かない。
「リン、フェーズB移行だ」
小さく言い放つ、「了解」と帰ってきた返事でジェシーは飛び出す。
パワードスーツの運動補助により、素早く動き回るジェシー。手近な奴から射撃して行く。リンはジェシーを援護するようにライフルを撃つ。
相手はなかなかの手練で、ジェシーの弾はなかなか当たらない。当たっても致命傷にはなっていないのが現状だ。
集中砲火を浴びるジェシー、一方リンは自分の位置をころころと変えて狙撃。ライフルがライフルなだけに、一発当たれば腕が、足が簡単に飛んでいく。それは人間もロボットも大差なかった。
ジェシーは時折物陰に隠れて銃を持ち替え持ち替え応戦し敵を撹乱して、リンがそれを着実にしとめるという形になっていた。
「今までとは、逆だな・・・」
苦笑いで無線に話しかけるジェシー。
「マスター、やはり私が下で戦います」
そんな言葉が返ってくる。だが、よく考えればそんな余裕はお互いに無くなっていった。
相手は二十数名、いくらリンが着実に減らしてくれていても現状十名以上は健在だ。
「なかなかやるな」
オオグロは以前楽しそうに戦っていた。仲間が死んだ事などおかいまなしだ。平和なこの国ではこのような騒動はそうない。武器を用意しても、それを外に売るのがせいぜいだ。それ故に、オオグロは現状が刺激的で楽しいものになっていた。
「客人さんよ、こっちで用意した他二体含めて使ってかまわないか?」
大きな声で言い放つ。
「オーケー!」とやはり大きな声が返ってきた。
「増員だ!セイレーンとかやら、今日はぱーっと行こうや!!」
どこに居るか解らない殺し屋に向かって声を上げる。
リンは直ぐにそれをジェシーに伝える。
「まじかよ・・・」とぼやくジェシー。
既に、居た二体のフード付きに四人同じような奴が姿を見せる。それらはコートを脱ぎ捨てると現れた姿は人とはいえない姿をしていた。それに加えて、今まで姿を隠し沈黙を守っていたモノ達も姿を現す。
戦闘用オートマトンと呼ばれるモノ達。それは戦闘のみに特化した特殊強化骨格に包まれ、頭には多種多様のセンサーが付き、目と思われる物は五つ存在する。
キョロキョロと辺りを見回したそれらは分散し、ジェシーに向かって襲い掛かってきた。
「シット!!」
ジェシーはすぐさまパワードスーツのオーバーロードスイッチを入れて対抗する。リンはジャンプして二階に上がってくるモノ達を着実に銃弾で叩き落す。
ジェシーは相手との間合いを出来るだけ詰めて、二丁のハンドガンを使って相手のもっとも脆いと思われる間接や頭部ユニットを狙う。ハンドガンの.45ACPが敵の一部に食い込んでいく。ジェシーの動きは無駄が無く、襲い来る敵と一定の距離を保ち立ち回る。ジェシーの姿は青白く光り、その姿はオオグロ初めとする人間達にはまるでダンスを踊っているかのように幻想的に映る。しかし、オオグロ達も只見とれているだけでは無い、前線をオートマトンにやらせては居るが、自分達はしっかりと後方から援護射撃していた。
何発かの弾がジェシーをかすめる、しかし止まれば確実に終わるのだ。痛みをこらえてジェシーは動き続ける。弾が切れると一丁を口で咥えて、マガジンを交換して銃を打ち続ける。
パワードスーツのエネルギー限界は15分。以前は5分と持たなかったのを、アマンダの手により延長させたのだ。おかげで今のジェシーは生き延びることが出来ていた。
しかし、それももう終わる。ジェシーのパワードスーツのエネルギーが切れて動かなくなった人工筋繊維がジェシーの体に重く圧し掛かる。ジェシーの全身は酷い筋肉痛で悲鳴を上げる。
直ぐに遮蔽物に身を隠し、息を整えるのと全身の痛みと戦う。ジェシーを襲うオートマトンは全滅していた。
「・・・リン現状は?」
荒い息で無線に話しかける。
「・・・」無線にはノイズが走り、応答が無い。
「リン!」大きな声で呼び掛ける。
しかし、返事が無かった。
ジェシーが戦闘している時、リンもまさに戦闘真っ最中だった。襲い掛かる敵に向けてライフルを放つ、飛んでいる相手を撃つのは簡単だった。しかし、足を付けている連中は違う。素早い動きでリンを翻弄する。各関節モーターが強化されているとは言え、相手は完全な戦闘用。リンが動きにおいて適うはずがない。ライフルのを近接用の打撃武器のよう使ったり、サブマシンガンで威嚇しながら、囲まれるのを防ぐように立ち回るのが精一杯。しかし、少しずつではあったが敵に有効的な一撃を加え、頭数を減らしていった。
それは、ジェシーの教えの賜物といえる。ジェシーは常に相手の動きを見ながら次の動きを考えるよう教えてきた、それが今まさに生きていた。相手は戦闘に特化しているとは言え、しょせんロボット動きが単純なのだ。その規則正しい動きに、リンは不規則な動きで相手を翻弄した。
しかし、多勢に無勢とジェシーが実戦に出さなかった経験不足により、ライフルは残弾に余裕を残していても銃身がひしゃげて使い物にはならなくなる。
サブマシンガンで立ち向かわなければならなくなったリンは、相手の関節部や頭部を狙う。
襲い掛かってきたロボットを全員倒すにいたるも、リンは左手を損出する痛手をこうむっていた。また、右足のモーターも激しい動きにより悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。
「はっはっはっは・・・、いや参ったね」
オオグロの大きな声が工場内を響き渡る。今ではオオグロを含めた人数は既に5人になっていた。後はジェシーとリンの銃弾の流れ弾などで死亡していた。
異国の男も既に一人になっていた。
「セイレーン・・・デビル・・・」そう呟いて体を震わせてる。
オオグロの仲間も恐怖を覚えていた。しかし、オオグロは楽しかった。それはオオグロの闘争本能にダイレクトに刺激したからだ。
「まぁ、あの動きは向こうさんの専売特許じゃないがな・・・」
と笑みを浮かべ上着を脱ぎ捨てるオオグロ。下に現れたのはパワードスーツだ。
「おい、野郎ども!さっきの動きを見る限りじゃ相手は死に体だ!さっさと、たたんじまえ!!」
と大きな声を上げる。それに鼓舞されるかのようにジェシーの隠れた場所に向かうオオグロの部下三人。
ジェシーは自分に向かってくる足音を確認する。サブマシンガンは先の戦闘で弾が切れたので捨てた。ハンドガン一丁も既に弾がない、残りの一丁からマガジンを抜いて残弾数を確認する。
(残弾5・・・相手は確認出来た頭数で丁度5・・・)溜め息が漏れる。
息は整ったが、全身からの痛みは以前ジェシーを苦しめる。
足音が近づいたの確認して、意を決して飛び出す。飛び出し際で相手を確認し、3発の銃弾を撃ち放つ。
しかし、全身に来る痛みと疲労で動きが鈍っているジェシーは3発で相手をしとめるも、飛びた銃弾が右足、左腕を捕らえる。痛みで飛び出した先で動けなくなるジェシー。
物陰から弱った、ライオンに向かうハンターの如く銃を構えた状態で姿を現すオオグロ。
「よくやるよ、あんた」
片言でジェシーの国の言葉を話すオオグロ。
ジェシーは必死に相手に銃を向けて一発を放つ。しかし焦点が合っていなかったのか、その弾はオオグロには当たらない。しかし、その弾は兆弾し物陰で脅えて居た者の命を奪った。
「おまけに、神様にも恵まれているようだ・・・」
オオグロは背後の者の気配が消えた事で、死亡したと認識した。
「今じゃ、残ったのは俺達とお前だけかな?それとも、まだ上での奴は出てきた俺を狙ってるのかな?」
にやけた笑いでジェシーに語りかける。
ジェシーは思った、こいつは出てきた時に二階からの攻撃が無かったのでリンがやられたのを知っていると。
ジェシーになす術は無かった、必死に銃をオオグロに向けたがオオグロは素早い動きでジェシーの銃を蹴りつける。ハンドガンは床に転がり、血だらけのジェシーも床に崩れ落ちる。
(終わった・・・、何もかも・・・)ジェシーは死を悟る。
「あばよ、異国の殺し屋さん」
オオグロはジェシーの頭部に狙いを定めてトリガーに掛けた指に力を入れる。
「マスター!!」
可愛らしい女の子の大きな声が辺りに響く。しかし、ジェシーはその声にこたえる体力も無くなっていた。
(ばかやろう・・・、出てくるんじゃない)心の中で願うも、それはリンには届かない。
リンが二階から飛び降りてきて、オオグロに向けてサブマシンガンを乱射する。
「おっと!」
オオグロは素早い動きでそれを回避する。ジェシーには解っていた、それはオオグロの姿を見た時に既に。オオグロはパワードスーツに包まれている、その為ジェシーのように素早く立ち回れるのだ。
「甘いんだよ!」
オオグロが持っていた銃を撃ち放つ。リンはそれを避ける為に、その場から飛んで回避を試みた。
その場に、オオグロのモノでは無くましてやリンのモノでも無い一発の銃声が響く。
リンは床に綺麗に着地する事無く、崩れ落ちるように床に叩きつけられる感じで落ちた。
「くそ・・・」
ジェシーからもれた言葉。そう、もう一人いたのだ。
それは暗闇に姿を隠し狡猾にその時を待っていた。
「出てこなくていいのに・・・」
オオグロが溜め息混じりに、もう一人に声を掛ける。
「危険度が上がったので」
そう言って暗闇から、工場に漏れる月明かりに姿を見せたレン。
ジェシーも、リンも戦闘に夢中だったので存在を忘れていた。リンは悔しそうな辛そうな、そんな表情を浮かべて立ち上がる。
「しかし、なんの因果で兄弟型の二人が戦わなきゃいけないのかね・・・」
オオグロが高らかに笑いながら再びジェシーに銃を向けようとした。
ジェシーは痛む体を無理やり動かし、持てる力を全て出すかのようにして投げ出された自分の銃に飛びつく。
「おせーよ」
ジェシーが銃を構えるより早く、オオグロはトリガーを引いた。数発の銃声とが辺りに響く。
「馬鹿やろう・・・」
ジェシーの悔しそうな声を上げたのと一緒にトリガーを引いた。
ジェシーの前で崩れる人影とオオグロの前で崩れる人影。
「やるねぇ・・・おたくも」
オオグロは苦しそうな声を上げて引くトリガー。
ジェシーは動けなくなり、床に寝転ぶ。
腹部からは血が流れていた。
「マスター・・・ごめんなさい」
弱い口調でジェシーの横に転がる少女。
一方オオグロの前にも転がる少年が居た。
リンは、レンとオオグロの弾をまともに食らい腹部から上半身と下半身が分離していた。一方レンはリンの銃弾を頭部に受けて機能を完全に停止させていた。
オオグロは、後に撃ったジェシーの弾を肩に食らい苦しそうな表情を浮かべるも、ジェシーに向けて銃を放った。
ジェシーはその弾丸を腹部に受けたのだ。
オオグロは肩を抑えて、ジェシーに近づく。ジェシーもリンも虫の息だった。
「ほんと、化けもんだなあんた達は・・・」
どこか、さわやかな笑顔でジェシーを見つめるオオグロ。
ジェシーの銃とリンの銃に弾が無いと確認するとその場を離れて行き携帯を手に取りどこかに電話をし始めた。
「けっきょく私、マスターを守れませんでした・・・」
ノイズ交じりでリンがジェシーに顔を向ける。
「いや、良くやったよ・・・」
血を吐きながらジェシーは普段リンに向ける笑顔で答えた。
「頼みがある、まだ動くならここから身を隠してくれないか」
そんな事を言われてリンは、驚いた顔をする。
「俺は、このままどうにかここから逃げてみせる。そうしたら必ずお前を迎えに来るから・・・」
そう言って、ジェシーは起き上がるしぐさを見せる。
「お前を今連れては行けない、あいつが目を離してる隙に俺はこの場を去るから・・・お前も・・・」
辛そうにも懸命に四つん這いになって動くジェシー。リンも物陰に向けて残った右手で必死に動き出す。
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