5~俺に出来ること・・・
「ごめんなさい!!無理です!!」
俺は叫び声にも似た声を上げる。
メイコちゃんはビックリして、少し体を後ろに反った。
少しの間合いをおいて。
「・・・そう・・・ですよね・・・何やってんだろ私・・・」
メイコちゃんは少し嬉しそうに、そして泣きそうに頬を染めて言った。
・・・気まずい。
「・・・さあ、もう行きましょうか」
場の空気を読んで俺が言う。
「ええ、本当にごめんなさい」
2人共すっかり酔いが冷めていた。
この後とても気まずい雰囲気の中、特に話をすることなく俺はメイコちゃんの家まで送っていった。
・・・次の日の朝。
本当に三久は家に帰ってこない。
「頭痛い・・・」
俺は水を飲みながらTVのリモコンのONボタンを押す。
朝のニュース番組の、エンタメのコーナーだった。
〈フォークシンガー、皆東学の娘の・・・〉
「・・・けっ、親の七光りかよ」
二日酔いの時は常にマイナス思考である。
しかし俺は次の瞬間、飲んでいた水を吹き出した。
〈皆東三久さんが歌手デビューすることになりました!!〉
「三久じゃねーか!!!!」
そこには、誇らしげに会見に臨む三久の姿があった。
いつもの服装とは違う、オシャレな服装。
・・・そういえば、ほとんど制服か部屋着だったな。
〈デビューは一ヶ月後、カバー曲でデビューするみたいです・・・えっと曲名はいちきゅー・・・何て読むんでしょうね・・・〉
「1925だっ!!」
TVに突っ込みを入れる俺。
・・・くそぉ、あいつ大御所の娘だったのかよ。
・・・皆東か、なんか聞いたことがあると思ったぜ。
もう駄目だ、やってらんねぇ。
床に倒れ込む。
もう、あいつは別物だ。もう帰ってこないかも知んねぇ。
一抹の不安が頭を通り抜ける。
・・・でも、もし帰ってくるなら俺に何か出来ることがあるんじゃないか?
・・・俺に出来ること。
俺はギターを握り締めた。
結局三久は2日、3日経っても帰ってこなかった。
「・・・もう限界っす」
「まだまだ!!しっかりやれ!!」
あの日から昼は工事現場でバイトし、夜はギターで1925の伴奏パートを練習する日々。
バイトの日給で携帯電話も契約した。
・・・これがきっと俺に出来ること。
俺は計画していることがあるんだ。
次の日の仕事が終わり、携帯電話でメイコちゃんを呼び出す。
喫茶店の二人掛けの席にメイコちゃんが壁側、俺は通路側に座った。
OLスーツのメイコちゃんが目の前にいた。
「ごめん、俺、メイコちゃんの気持ちには応えられない」
「えっ」
早速、話を切り出す。
メイコちゃんは戸惑いを隠せない顔をしている。
「俺・・・ほかに好きな人がいるんだ」
俺の決心だった。
メイコちゃんは、ほっとしたような顔で言った。
「別に・・・いいんです。私みたいな女と付き合うと損なことしかありませんし・・・それに」
メイコちゃんが続けた。
「本当の気持ち、言ってくれてよかった!!やっぱり三橋さんを好きになって良かった!!」
そう言って、メイコちゃんが走って店を出て行った。
オーダーを聞きに来た店員も唖然だった。
メイコちゃんを陥れたのは俺だ・・・良心が痛む・・・。
でも、いいんだ・・・。これでいいんだ。
日々はやたら忙しに過ぎていき、三久がデビューする2日前になっていた。
三久は名前の読みが“ミク”で、しかも1925でデビューすることから、ネット上で話題になっていた。
俺は三久の事をネット上でチェックし続けた。
三久は今、レコーディングの為東京にいるらしい。
〈東京~。東京です〉
「よし、来たぜ・・・東京に」
俺は新幹線からギターを持って降り、1人気合を入れる。
東京にいれるのは、2日。
明日には帰ることになっている。
それまでに三久を見つけなくては・・・。
誰も知らない街で人を探すことがどんなに難しいことだろうか。
とりあえず、鳩バスに乗り都内を廻る。
「くそっ、なんて広いんだ東京は!!」
地図を広げ、観光地を廻ってみる。
・・・どこにもいない。
この間まであんなに近かったのに、今はこんなに遠くなってしまったなんて・・・。
夜8時、俺は疲れ果てて秋葉原を歩いていた。
ギターの重さで、疲れも限界だった。
どこからか1925のメロディーが聞こえてくる・・・。
俺は無意識にそこに吸い込まれていく。
そこにあったのは1台のテレビだった・・・。
同人CDショップのプロモーションPV映像である。
1925のPVを見たとき、初めて見たのにもかかわらず涙がぶわっと出た。
三久との思い出が蘇る。
「三久・・・くっ・・・みくぅ・・・」
その瞬間だった。
足に強烈な痛みが走る。
「ちょっと、アキバのど真ん中で人の名前呼びながら泣かないでくれる?マジでキモいんですケド」
そこにいたのは三久本人だった。
俺は三久に抱きついた。あの時の逆だった。
1925から始まるストーリー~その5~
ここまでこんな駄文にお付き合い頂き、誠にありがとうございます!!
三久のケジメ・・・メイコを振る・・・レンが切なすぎます。
次回で最終回になりそうです。
お楽しみに!!
1925から始まるストーリー
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