帰命頂礼世の中の　定め難きは無常也
－きみょうちょうらいよのなかの　さだめがたきはむじょうなり－
　
　親より先立つ有様に　諸事の哀を止めたり　　　
－おやよりさきだつありさまに　しょじのあわれをとどめたり－
　
　一つや二つや三つ四つ 十よりうちの幼子が　
－ひとつやふたつやみつよっつ　とおよりうちのおさなごが－
　
　親の腕を放れては　賽の河原に集まりて　　
－おやのかいなをはなれては　さいのかわらにあつまりて－
　
大石運びて塚を築き　小石を拾ひて塔を積む　　
－おおいしはこびてつかをつき　こいしをひろいてとうをつむ－

　一重積んでは父の為　　二重積んでは母の為　　
－ひとえつんではちちのため　ふたえつんではははのため－
　
　三重積んでは西を向き　樒程なる掌合はせ　　　　
－みつえつんではにしをむき　しきみほどなるてのひらあわせ－
　　
　郷里の兄弟・我為と　泣々石を運ぶ也
－きょうりのきょうだいわれためと　なきなきいしをはこぶなり－
　
　手足は石に擦れただれ　指より出づる血の滴
－てあしはいしにすれただれ　ゆびよりいずるちのしずく－
　
　体を朱に染めなして　さも苦しげに歎く也　　
－からだをあかにそめなして　さもくるしげになげくなり－
　
　あら怖しや獄卒が　鏡照日の眼にて
－あらおそろしやごくそつが　かがみてるひのまなこにて－
　　
　幼き者を睨みつけ
－おさなきものをにらみつけ－
　
　鉄の榜苔振揚げて　塔を残らず打散らす
－てつのぼうごけふりあげて　とうをのこらずうちちらす－
　
　あら痛しや幼な子は　又打伏して泣叫び　呵責に隙ぞ無かりける
－あらいたわしやおさなごは　またうちふしてなきさけび

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かしゃくにすきぞなかりける－
　
　纔か一期に先立つて　父母に歎きをかくる事　第一重き罪ぞかし
－わずかいちごにさきだって　ふぼになげきをかくること　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だいいちおもきつみぞかし－
　
　父母の涙が責め苦になりて　童の身体に降り注ぐ
－ふぼのなみだがせめくになりて　わらしのからだにふりそそぐ－
　
　子故の闇の呵責也
－こゆえのやみのかしゃくなり－
　
　斯る罪科のある故に　賽の河原に迷来て　長き苦患を受くるとよ
－かかるざいかのあるゆえに　さいのかわらにまよいきて　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ながきくげんをうくるとよ－

　河原の中に流れあり　中に這出る子供等は　河原に捨てたる枯花を
－かわらのなかにながれあり　なかにはいでるこどもらは　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かわらにすてたるかれはなを－

　仏の前に這い行きて
－ほとけのまえにはいゆきて－
　
　地蔵菩薩に奉り　錫杖法衣に取付いて　助け給へと願ふ也
－じぞうぼさつにたてまつり　しゃくじょうほうえにとりついて　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たすけたまえとねがうなり－

　六趣輪廻の苦みは　唯是のみに限らねど長夜の眠り深ければ　夢の驚くこともなし　
－ろくしゅりんねのくるしみは　ただこれのみにかぎらねど

　　　　　　　　　　ながよのねむりふかければ　ゆめのおどろくこともなし－　　

　
　唯 願わくば地蔵尊　迷ひを導き給へかし
－ただねがわくばじぞうそん　まよいをみちびきたまえかし－

　積まれた塔から流れ出る　娑婆から放てし線の香
－つまれたとうからながれでる　しゃばからはなてしせんのこう－

　積まれた塔から染み出でる　供えられた甘し水
－つまれたとうからしみいでる　そなえられたあましみず－

　父母の願いぞ地蔵に届き　極楽浄土の光が届く　
－ふぼのねがいぞじぞうにとどき　ごくらくじょうどのひかりがとどく－

　墓に手向けし枯れぬ花
－はかにたむけしかれぬはな－
　
　童の手を引く天人と成りへ　賽の河原を後にする　
－わらしのてをひくてんしとなりへ（え）　さいのかわらをあとにする－