亘里さん

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バーサス・ボーカロイド|第二話《抗争インストラクション》④

 PCの駆動音が止んだ。  俺は重たい身体をベッドへ放り投げる。  目を閉じて思い出すのは、ついさきほどまでのミクとのやりとりだ。  《バーサス・ボーカロイド》。  何者かの思惑蠢く怪しげなネットゲームだ。  しかも深夜〇時に勝手に起動するという厄介なシステム付きだ。  負ければ契約相手、ボーカロイドを失い、ゲームをプレイできなくなる。  何が何でもやらなければならないという理由がある訳ではない。  ミクがこのゲームで求めている勝利も、そこに明確な理由があるという訳ではないらしい。  深刻に打ち込まねばならないという理由もない。  逃げるという選択肢も選べない訳じゃない。  だが、俺は知っている。  あの眼を、知っている。  真剣に何かに打ち込むときの、あの眼を。  ミクは真剣なのだ。  だからこそ、プレイヤーを大事にし、献身的にフォローする。  それは彼女が真剣にこのゲームをプレイしているからだ。  野球選手にとっての野球と同じように。プロゲーマーにとってのゲームと同じように。俺にとっての自慰がそうであるように、ミクにとってもこのゲームは大切なものなのだ。  そうと分かればその想いは無碍には出来ない。  その想いの価値を、重さを、俺は知っているのだから。  何より、ゲームは楽しむものだ。  まだ俺は何もしていない。  俺は《バーサス・ボーカロイド》を何も知らない。  あの、電脳空間で、俺は何が出来るんだろう。  ミクは何をするんだろう。  そこにはどんな光景が待ち受けているのだろう。  そんなことを考えていると、次第に俺の意識は夢の中へと引きずり込まれていった。  その日、俺は夢を見た。  俺はゲームをプレイしていた。  さきほど見たシーンと同じような領域。地下水道だ。  俺は水面に立っていた。  目の前には少女が倒れている。青色のツインテール。見るからにミクの姿だ。  ミクはぐったりとしている。息も絶え絶えといった様子だ。  手足は震えている。呼吸は細く、荒い。  なんでゲーム世界で死にかけているのか、なんて思いすら浮かばない。  思考がショートした。  俺の中で視界が惑乱する。  光景が、ダブる。  倒れたミクと、ベッドに横たわる少女の姿が重なって見える。  息が、止まった。  呼吸の仕方すら忘れた。  ――いやだ。  俺は思わず後ずさる。嘔吐感が沸き上がる。  気持ちが悪い。眩暈がする。  ――いやだ、いやだ、いやだ。  俺は腰から力が抜けた。  その場で跪き、視界からその姿を消すように俯いた。  それでも脳裏に灼きつく。頭にこびりついている。  助からない。  そんな言葉が胸を満たす。  何をしても無駄だ、と声が聞こえる。  声は続けて言う。 『足掻いても無駄だ。助かりはしない。目の前の少女も。あの時の少女も。覚えているだろう? そうだったよな? お前が何をしたところで、結局あいつは――』 「うわぁああああああああああああッ!!!」  悪夢だった。  ベッドの上で、俺は荒い息をしていた。  くっそ、ベッドで荒い息とか、響きだけならエロいってのに、ちっともそんなテンションにはならねえ。  見た夢が最悪だった。  結局俺は、何も変わってない。引きこもりのオタクでしかない。  あれから、変わったって気がちっともしない。  分かってる。分かってはいるんだ。  考えたってどうしようもないってことも。こうしていることが何のプラスにもならないんだってことも。  だけど、それでも――。  手を伸ばしても掴めないものがあるんだなって、そう思うだけで、どうにも打ちのめされるものがあるのだった。  俺はちょっとうんざりした気持ちで、カーテンを開けた。  眩しい日差しが、俺に起きろと言っているみたいだった。  翌日。  バカみたいに延々と繰り返されるつまらない日常は終わり、日は暮れ、夜がやってきた。 「準備はいいですか? マスター」  もはや聞き慣れつつある少女の声に、俺は少し辟易しながらも答えた。 「ああ。約束通り、十一時〇〇分、ちゃんと一時間前だぞ」  言うと、ミクはディスプレイの中央で頷いていた。 「ええ。ちゃんとパンツも穿いてますね」  見るとこはそこか。まあいい。 「けど、どうして一時間前なんだ? 準備するにしてもそんなに時間かけるものなのか? 設定なんざ十分あれば充分だろ」 「違うんですよ、マスター。深夜〇時に始まるのは《ランダムマッチ》。対して、これから行うのは《フリーマッチ》なんです」 「……説明よろ」  俺が匙を投げると、説明できることが嬉しいみたいにミクが顔を綻ばせる。ちくしょう、不意打ちだ。可愛い……。 「ハイ! 深夜〇時に行われるのは《ランダムマッチ》と言って、シチュエーション、相手などをほとんど選ぶことが出来ない対戦となっています。そのため、状況によって有利不利が激しく分かれ、事前の準備も困難なんです」 「……なるほど。それは面倒なシステムだな」  俺は顎に手を当てて溜息をつく。 「はい。ですので、通常はオーソドックスな兵装を用意して挑みます」 「極端な装備にして相性最悪だったら目も当てられないからな」 「そうですね。ですが、《フリーマッチ》の場合は話が変わります」 「それが今回始めるプレイの名称だったな。詳細頼む」  ミクはまた元気よく挙手して答える。律儀な奴だなしかし。 「ハイ! 《フリーマッチ》では、相手やシチュエーションを選択・指定することが可能なんです、マスター。例えば遠距離用の兵装を使って、同じような長距離用の兵装と戦うことも出来ますし、逆に近距離用の兵装の相手を選んで戦うことも可能なんです」 「相手は自由に選べる……。しかもいつでもプレイできる……。どちらかというとこっちのほうが普通のゲームっぽいな」 「そうなりますね。ただし、《ランダムマッチ》ほどポイントが獲得できる訳ではありませんし、あくまで補佐的な役割なんですけどね」  などと、ミクは言うが、利点はそれだけでもなさそうだ。  何より相手が分かるのはデカイ。練習にはもってこいという訳だ。  ……なんとなくミクの思惑が分かってきたぞ。 「つまり今回は対戦の練習をしよう、という訳だな」 「さすがですね、マスター! 話が早くて助かります。……という訳で今回はリベンジしちゃいましょうッ!」  ミクが何らかの操作を行ったのか、画面内を文字が錯綜する。  そして、表示された文字は……、  【《鏡音リン/レン》にフリーマッチを申し込みますか?】  【YES/NO】  その名前の横に、フェイスアイコンが表示されている。  昨日見た、金髪の少女の顔だ。  燃え上がる炎とマイクスタンドを抱えた姿が思い出される。  そして、ミクを背後から襲った少年の姿も。  俺はゴクリと生唾を飲み下す。 「準備はいいですか? ……マスター」  ミクは遠慮がちに訊いてくる。そんな気遣いは無用だってのによ。  前回、俺たちは負けた。  初陣だったから。それもあるだろう。だが、挟み撃ちという予想外の手を打たれたのだ。それこそが一番の敗因だった。  同じ轍は踏まない。  不意打ちなんてものは、出会い頭にしか成立しない。  ならば状況は今度こそ互角。  ミクは強い。それは前回の戦いで良く分かっているつもりだ。  あとは、このゲームのルールを把握すること。そして、ミクを信じること。  たったそれだけで、俺たちは勝てるのだ。  俺は信じることにした。信じて、そのボタンを押した。  【フリーマッチが承認されました。】  【バトルフィールドへダイブ接続します。】  メッセージが表示され、俺の意識が身体から離れてゆく。  幽体離脱するみたいな得体の知れない気持ち悪さを感じつつ、俺の視界にはノイズが広がってゆく。  点が走り、線が交わり、面が広がる。  俺の意識は再び、電脳世界へ旅立っていったのだった。

深夜0時にゲームが起動し、俺は電脳世界に誘われた。そこに現れたミクと名乗る少女は言った。『ようこそマスター、電脳世界へ! 私と一緒に戦いましょう!』一体何が何だってんだ……?|オリジナルストーリー第二話のパート4になります。

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投稿日時 : 2013/05/04 00:49

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