「……で、これがミクのスペックな訳か」
改めて見てみると、そこには身長体重などの基本スペックの他にイクイップメント、つまり装備の項目があった。
一番上には8/9という数字。ここにはキャパシティと書かれている。
その下には近接武装《ネギ・ブレード》との表示。他には遠隔武装《ハピネス・ポップ》。
あとその次に耐衝撃武装《オリジナル》と続く。
項目は……この三つだけか。
これがミクの現在の装備……ということだろうか。
「分かりますか? 今私が装備している《武装(アタッチメント)》は三つ。近接用の《ネギ・ブレード》と遠くから攻撃できる《ハピネス・ポップ》。それと、この服《オリジナル》です」
「へぇ……その服も装備の一つなのか……。なぁ、ミク?」
浮かび上がった疑問を、俺はぶつけるべきかどうか迷った。
だが、男にはやらねばならぬ時があるし、言わねばならぬ時がある。たとえいかなる犠牲を払ったとしても、だ。
だから俺は、危険を顧みず、堂々と訊ねることにする。
「……なんです?」
そんな思惑を知らずに、ミクはきょとんとした顔で振り向いた。なんでそんな何でもない顔で可愛いんだお前は。
俺の決意は若干揺らいだが、それでも意を決し、その先を告げた。
「その耐衝撃武装? 《オリジナル》……だっけか? それって外せないの?」
「え~っと、……それはどういう意味でしょうか、マスター?」
ミクは意味が呑み込めない、といった様子で目を丸くする。
「ああもう、だから……、お前の服を脱がすことは出来ないのかって訊いてるんだよ!」
理解が遅いミクに、思わず俺は声を荒げてしまった。
途端に時が止まったかのように、静止するミク。
そうか……やはり、無理だったか。AIにはある種の行動の制限が掛けられていることが多い。ミクの処理範囲を越えていたということだろう。つまり、出来ない。そういう結論に達した。
……なんだよ。せっかくのダイブ経験なんだぞ。どうせなら堪能したい。それもエロ方面で。
しかしこの分だと、他の方法でも欲求は達成できそうにない。何らかの作戦が必要だろう。
……などと、考えていた俺の正面で、いつの間にか顔を真っ赤に染め、思考停止状態に陥っていたらしいミクが喋り出す。
「もうっ! もうっ! 何を言っているんですか、マスター! 脱ぎませんし脱げません! だって、そんなことしたら……したら……」
尻すぼみになっていく口調に、俺はつい乗っかってしまう。
「……したら?」
「……何でもありません!! もう! マスターのエッチ!!」
びたーん!!
平手打ちで吹っ飛ばされた。軽く二メートルくらい吹っ飛ばされたぞおい。しかもめちゃくちゃ痛えし。
……というか、普通に通じてたんだな。改めて高度なAIだなと感心する。いや、まだ中の人説を完全に払拭できたわけではないんだが。
「ん? っていうかなんで痛いんだ? ダイブしているとしても痛覚やら触覚やらはまだ研究途中だったはずじゃあ……」
「ああ、それなら、簡単ですよ。公表されていないというだけの話ですから。感覚は既にほとんど実装できています。ソフトウェア側だけでも、充分なくらいに」
嘘だろ。だったらとっとと夢空間を作ってくれっての。ソフトウェア開発会社さんよ。
「ただ……、色々と問題点があって、現在ではまだ公表できないんです」
ミクはそこで《問題点》と言った。《不具合》ではなく。
俺はそこに少しばかり背筋が凍り付く思いを感じた。
何故なら俺はその、《問題点》を抱えた空間の中にいるのだ。
『中に誰もいませんよ……』的な状態ではない。『しっかりと中に人がいる』のだ。そしてそれは俺なのだ。
「それって、危なくないのか? 問題点があるんだろ……?」
「ええ。『基本的には』だいじょうぶです。だから、私の言うことをしっかり聞いてくださいね」
ミクは言った。実ににこやかな顔で。
なんか俺、もう人格把握されてないか……?
いや、まぁいいんだけどさ。そういう解釈でも。
「少し話が逸れてしまいましたが、これが私の《武装》です。キャパシティは装備できる最大量を表しています。《ネギ・ブレード》が3ポイント、《ハピネス・ポップ》が3ポイント、《オリジナル》が2ポイントで合計8ポイントです。キャパシティが9ポイントなのでわりとギリギリまで積んである状態ですね」
ミクが続けてそんなふうに説明をした。
これは、ある程度予想通りではあった。
ロボット物のゲームと大差なさそうな作りだ。しかも結構単純なやつ。
「それと肝心な使い方なんですが……」
ミクがそう口を開いた瞬間だった。
今までのノイズ状の背景が掻き消え、足下に水面が広がっていた。
俺とミクは水音を立てながらそこに着地し、辺りを見渡した。
「ここは……」
「《地下水道》ステージ、ですね……」
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