――――――――――#8

 いざよいまちりゅうそうけんじゅつおうぎてんのだん、こうりゅうついち。

 彼女の右手の長いほうの刀、左手の短いほうの刀。流れるように踊る右手の刀の裏側で、左手の短い方は水銀灯の光を照り返して、そのまま刺す様に思えた。

 だから、ずっと短い方の刀を見ていた。あれが、僕を殺すこうりゅうついちだ。

 「ふふ、ちょっとびっくりしちゃった」

 気が付くと、額にこうりゅうついちを突き付けられていた。体が全く動かない。僕に刀を突き付ける敵、女は、ただ笑顔を、不気味なくらいに爽やかな笑顔で喋った。

 「殺されると思った。もし君が銃を持っていたら、私は死んでたよね」

 言われて、僕は自分の手が、体が、どんな形になっているか始めて気付いた。前かがみ気味に背筋を曲げ、顎を引き、額を前に突き出して。手は、右手は銃を握って人差し指も握っている。左手は腹の高さで前に突き出て、足は左足が前に出て。

 確かに、人を殺す為の、形になっていた。手首から肘まで、垂直に反動を受け流す線の向こう側に、人間の心臓があった。

 「そして、君は生き残っていた。ふふ、あはは」

 刀を勢いよく引いて、彼女は両手をぶら下げて笑った。高笑いした。

 「あはははは、あはは、そう!そうなの!ただの!ただの!あははははは!」

 なんか刀を持ったままぶんぶんと回っている。それでもひゅんひゅんと、二つの刀は意思を持ったように僕の方を、見ている、気がした。

 「ねえ!今のって、もし実戦だったら、君は出来るの!?」

 突然の問いかけに、鏡音レンは驚く。彼女は楽しそうに回りながら、はしゃいでいる。

 「えっと、いや、多分僕は拳銃を構えてるだろうから、君が同じ風にするとは思わない、かな」

 殺されかけたという、怒りは沸き難かった。殺されかけたといえば、これが3回目だ。何となくだが、「戦場では死ぬ奴が間抜けでいい奴だ」という考えが否応無しに頭を侵食してる。

 「そうよね!銃があったなら地の段の――」
 「ねえ、君の相手は、多分僕じゃないけど?」

 AKITANERU――――――――――おう鏡音大佐なぜ教えた場合によっては軍法会議も
 KAGAMINEREN――――――――――左手、投げる気です。

 「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 『SUKONETEI――――――――――六十四月流操剣術師の三、師屍』

 短いほうの刀が空中を走って闇に吸い込まれていった。そこは水銀灯の柱の裏側で、意識しなければ気付かないような影の中である。何か中型犬くらいの大きさの生き物が落ちていったように見える。

 「うふふ。やっぱり、目も良いのね。褒めてあげる」

 妙に艶っぽい笑顔で刀を頬ずりしながら、レンを恍惚とした目で見つめている。そう言えば、名前を聞いていない。

 「私は、健音テイ。また会いましょう」

 レンの心を見透かしたかのように、名乗って、跳んだ。

 「一体、なんだったんだ」

 呆然としたまま、かろうじて口を動かした。

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機動攻響兵「VOCALOID」第6章#8

フラグ消化回

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投稿日:2013/11/05 00:40:00

文字数:1,289文字

カテゴリ:小説

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