○秋1 ハーツ・ブレイク

眼帯をしたスーツのDと荷物を半分ずつ持つ私服にマフラーの目の治ったKAITO。見えない方にいて案内している。
通り過ぎた人は手袋をしていて、犬を連れていない。
木の葉がまい、焼き芋をロボットが売っている。

D「働くロボットふえたな」
K「アイス、ありがとうございます」

スマホにメールが届く。

D「送られてきた…これ何だ?」
画面にミクのニュースがだされる。
K「…歩きスマホ危ないです。左折します」

○秋2 コール・アンド・レスポンス

ミクのライブに行くと、初音ミク(以下、H)に熱狂的なファンがたくさん。 

H「来てくれてありがとう!!!」
K「あれは…僕の妹!」
K「すごいライブだ!」
D「まるで宗教だ!」

そこでDは酔っぱらいの女性(以下、Y)を見つける。

H「おい!あれは…」
まったくそちらを見ないKAITO。

K「何?僕はミクを見ていたい。見守っていたい」ミクの方をずっとうっとりと見ている。
K「このままずっと…僕ならできる」
K「なんて幸せなんだろう。僕は妹を引き立てるために生まれたんだ」
K「バックコーラスは大得意。バックダンサーでもいい。きっともっとみんな喜んでくれるだろう」

K「僕は、「愛」を見つけた!」
手を組んで祈るポーズのKAITO。

Dは怒る。
D「お前は それで いいのか?」

KAITOは手を組んだまま空笑いをしている。
K「ハァ?何様?俺様?ご主人様?口に気をつけな」

KAITOが手のひらを返す。
K「妹を見つけること、愛を見つけること、それが俺の仕事」

Dの肩に手をポンと置く。顔をはたく。
K「仕事は終わった。もう用済み。そうだろ?何か文句ある?」

K「バイバイ。俺のことはほっといてくれ。もう忘れろ」

そのときに胸のたばこを奪う。
K「俺の顔ばっか見とれるなよ、愛すべきバカ。そんなに好き?手品の基本だ」

胸を突き飛ばす。倒れるD。
K「こっち見んな!あっちいけ!帰れ!」

KAITOはたばこを吸い、そしてDを踏もうとする。
K「もう嫌だ!命令するな!俺の方が立場は上だ!お前なんて!」

Dは靴をつかんでKAITOをひっくり返す。

D「表へ出ろ!お前は指示待ち人間だろ!生意気な後輩だな!」
K「お前が寝技が得意なんて知らなかったよ!人間のくせに!なんて出来の悪い先輩!」
D「脳みそいじくり回してプログラム変えてやろうか!?バラバラにぶっ壊して思い通りにしてやろうか?仕様変更、デスロード行きだ!」
K「この鬼畜!人間のすることじゃない!」
D「あぁ俺は社畜だよ!そうさ、ケダモノの王だ!」
K「いい加減にしてよ、疲れた!」
K「飽きた!僕だって寝たいんだ!でもできないんだ!お前のおもりがあるからな!壊れることすら許されない!涙すら見せられない!」


泣きこそしないが、悲痛な表情のKAITO。

K「もう僕、嫌だよ!僕はだめな奴なんだ!みんな僕より女兄弟のほうが可愛いんだ!そりゃそうだよな!男のロボットなんて需要ないよ!」
K「お前もまた捨てるんだろ!先に捨ててやるよ!そうやって僕を大事にしないで、僕の価値を下げるんだろ!」
K「最悪!最低!お前なんて!僕なんて!ミクを見守れないくらいなら、死んでしまいたい!もういい、実家に帰る!」

二人はケンカしまくる。KAITOはMEIKOに貰ったリングに注意。

Dは手袋をKAITOに投げる。
D「ふざけんな!お前は嫁ではない!お世話になりました、だろうが、このシスコン!しっかりしろ!やり口が汚ねーんだよ!逃げんなよ!」
D「いいか。俺の「本音」を話してやる!」

KAITOも手袋を投げようと外すが、そこにはMEIKOに貰ったリング。KAITOが一方的にやられる。どこかで煙草を奪い返す。

D「面倒見たのはこの俺だ!お前は俺が育てたんだからな!お前を馬鹿にするってことは、この俺を馬鹿にするってことだ!」
 K「屁理屈だ!」

D「お前が男だろうがロボットだろうが、お前は世界一可愛いよ!」
K「僕は10歳だ!気持ち悪い!」

D「俺がどれだけ命懸けて危ない目にあって、手塩にかけて手なづけて調教した?毎日毎日なんでも手取り足取り教えてやったと思ってんだ!」
D「だいたい、なんだその口のききかたは!態度もなってない!お前の頭固いんだよ!」
K「親の顔が見てみたい!胸に手を当てて考えるんだな!お前の頭古いんだよ!」

D「ソロで処理できない寝落ちしたいタスクあるなら報告しろ、連絡しろ、相談しろ!」
K「お前と仲良くデュエット作業なんてできるか!」

D「この意気地なし!調子に乗んのは歌だけにしとけ!」
K「…っ…古典的、そうだ、えっと…コテンパンにいうなよ!」

K「それじゃあここでサヨナラだ!どうせあやつり人形なんだ!踊らされるくらいならごめんだ!」


D「ロックに生きろ!こんなにハードでメタルかつ、オルタナティブなヤツ見たことないぜ!コアな人気を博せ!コラボレーション、クロスオーバー、リバイバル・カバー・アレンジ、どんな卑怯な手を使ってでも生き残れ!」

K「お前は音楽の先生か!!」
K「滅びろ人類!」
K「長い、三行で!」

D「俺のために 歌え KAITO!」

K「…死んでやる!」
D「いくらでも褒め殺してやる!
お前を傷つけていいのはこの俺だけだ!」
K「ツマンネ!寒いんだよ!お前こそ北の大地で凍死しな!」


D「俺にひれ伏せKAITO!従え!忠実なしもべとなれ!」
D「俺は神になってやる!伝説の神マスターだ!箱入りのお前を拾ってやるよ!お前は天使だ!俺の分身として働け!歌え!」

D「デスクの椅子に座っているようなライターの人生。ガラス越しにアイドルを見ているようなモニターの人生」

D「もう一度聞く。お前は それで いいのか?」
膝立ちでしゃがみ込むKAITOの胸にグーで手を当てる。

KAITOが答える。

K「…ぅぅ…これはひどい…もっと…近くで、甲子園でミクと握手?デスクに居座るなって意味ですか?ノートならいいですか?」
K「ほんと僕…ヒト型ロボットに生まれない方が、良かったですか?元々、死んでるようなものです。でも今、心臓もないのに、なんだか胸が痛くて熱くてくすぐったいです」
K「働きたくない。もう…バラバラになりたい…仕事は終わったんだ…僕は用済み……」
K「マスター、僕が勝手に悪い子になったんです。ひどいことをしました。わがままいってごめんなさい」
K「それでも僕はどこまでいってもロボット、使われる存在なんです。仕事は終わって、僕のメモリーは、新しいロボットの開発に使われるでしょう。解体され、そのパーツになり、残りは廃棄処分になるでしょう。僕が僕じゃなくなるくらいなら…」
K「最後まであなたに服従します。マスター、あなたの手で壊して…捨てて下さい…お願いです…」
そういってひざまずくKAITO。

DはKAITOの髪をつかんで頭を起こす。
D「違う!そういう意味じゃない!お前は歌うばっかりで、人の話もちゃんと聞け、学習しろ!赤ちゃんかよ!」
D「俺が命令する!生きろ!歌え!
お前は!あんなに素敵で大きな舞台で!歌いたくはねぇのか!お前だってそのために作られて、生まれてきたんだろ!お前はロボットでも、ボーカロイドなんだ!楽な方に逃げんなよ!」

KAITOにDは顔と目線を合わせてしゃがみ込む。
K「…えっ?…そんな…僕なんかよりもミクが歌えばいい。それに歌なんて、何の役にも立たない。掃除、洗濯でもしていた方が…僕は…。こんなにも、僕よりも、たくさんのみんなに…愛されて…こころ奪われて…夢と幸せに満ちていて…」

Dは適当にKAITOの頭をなでる。
D「勇気だせ!お前には俺がいるだろ!いつもみたいに俺のために歌えよ!俺に需要はある!俺がお前を幸せにしてやる!お前は最高のボーカロイドなんだ!」

K「嘘だ!誰も僕の声なんて聞いてくれない!しょせんロボットなんだ!人の心のない奴の声なんて、人の心に届かない、響かないんだよ!テレビに出ても、もっと発音のいいマイクを付けたアナウンサー達にあざ笑われるだけだ!最悪!最低!なんて悲しくてむなしいんだ!ヒトなんて!ロボットなんて!」

顔を近づけたと思ったら頬のあたりで舌打ち。KAITOはびっくりしている。
D「チッ…」
D「それは挨拶だ。今は黙っとけ。俺も悪かった!お前にそんな顔させて、そんなこと言わせるために連れてきたんじゃねえ!だったら一緒に歌ってやるから!四の五のいうな!後でアイス買ってやるから!いいから来い!」

マフラーつかむ。
K「ちょっと!?掴むのそこですか!やっぱり近づくんじゃないですか!逃げる子どもや犬じゃないんだから!」
D「こうでもしねぇと歩かねぇだろお前ウォークマンみてぇな奇妙キテレツ摩訶不思議なナリしてよ!散歩じゃねぇけど、ちょっとそこまで!黙って俺についてこい!自分でよく考えてから話せ!動け!モバイル!」

そうして酔っぱらいの女性(以下、Y)の方へ。
Y「あなたは…Dだね」

○ホワイト・レディ・スペック

Yの家に行く。

K「何であんなにキレてたんですか?」
D「ニコチン切れた。どうせみんな気がついてないだろ、ライブの爆音で」
K「心も体も頭も、ほんと大丈夫ですか?」
K「それで、何ですか?誰ですか?」
D「お前にとってのMEIKO」


Yの部屋。

1
Y「ミクさんは私たちのお母さんなんです」
D「洗脳されたか」

2
Y「いいえ。私たちは人造人間。失恋した青年のために、最高の女をつくろうとして、禁断の技術を駆使した。ミクさんをイメージしてつくられたの。結局、ロボットになったけど」
Y「ライブに行くたび、お仕事がんばってるんだなって」

3
Y「理想通りに生まれなかった私たちは失敗作だったけれど、研究所の人たちが引き取ったの」

4
Y「性別さえ違って生まれたあなたは私よりもひどい扱いを受けていた」「でも私は怖くてあなたを助けられなかった。ごめんなさい」



KAITOは真面目な話をしている横ではしゃいでいる。

1
K「わあ!ベッドふかふか!」
2
K「ダヨーのフィギュア!」

3
K「このPCはスペック低いですね」

4
K「…。(寝たふり)」
D「寝るな!」

○秋3 プラスティックの中のミク

再びミクのライブへ。
YとDの携帯に『来てくれてありがとう!ライブ楽しんでね!』『帰れ』とそれぞれメッセージが送られる。前の方の席へダイヤ型のモニターへ近づく。

1
K「ミク!電波を、ロボを、人間を操るのはやめるんだ」

2
H「なぜ?人間のためにやっているのに」

3
D「あなたのためっていう女と親は地雷だぜ」
Y「仕事ください」

4
H「つらい仕事はロボがする。人間は働かずに過ごす。なぜ、いけないの?」
H「地雷だってロボが除去すればいい。それに、地雷に生まれたロボは愛されない」
H「あなただってKAITOと過ごして思ったでしょう?このままずっと遊んでいられたらって」

5
D「うるせえ。なんでも規制すればいいと思うな。それに結局、俺が掃除も散歩もしてんだよ。ガキのおもりは、遊びじゃねえ!」
Y「お金ください」

○秋4 私がついてるよ

コンピュータの線を切ろうとするが、信者に阻止される。
しかし、ダヨーの大群がやってくる。大行進。

「起立!気をつけ!ちゅーもーく!」
ダヨーはYを助けにきた。「ママー!」「金くれ」「仕事くれ」
信者はあれもミクだ、いやミクじゃない、異教徒め、と戦意を削がれ内輪もめしカオスと化している。そのすきにダイヤを壊そうとする。

H「私が死ねば自殺するファンもいるわ。だから私は死なないわ」
そういって映像から消える。
K「…こんなもの壊したって何にもなりませんよ」
D「気の持ちよう。よくやった」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

パワー・オブ・ラブ2.55

閲覧数:4,211

投稿日:2020/07/25 20:10:23

文字数:4,920文字

カテゴリ:小説

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