二章 前編
レンは見慣れない街の中を歩いていた。隣の国、緑の国はとても豊かで綺麗な国だった。 レンは、きょろきょろと周りを見回しながら歩いていると、一つの看板が目に入った。 金属でできている、茶色のおしゃれな看板だった。そこには「Melt」と書かれていた。 レンはすぐさまその看板の店へと、入っていった。
モダンな造りの店内は、甘い香りで包まれていた。ショーウインドーのカウンターには、優しい緑色の髪をツインテールにしている少女が、笑顔をふりまいている。
レンはその少女を見たとたん、心臓をつかまれるような衝動におそわれた。
「いらっしゃいませ。」
レンは少女の優しい声にひかれるようにして、カウンターまで来た。
「見ない顔ね。名前は?」
少女は笑顔で、楽しそうに話しかけてきた。そんなこと普通なのに、なぜか嬉しくてたまらなかった。
「レン・・・です。」
うつむき、頭をかきながら答えたレンは、少し赤かった。ただ、一言だけなのに、言葉がのどに詰まって出てこない。
少女はそんなレンの様子に気付かないのか、胸の前で手を合わせて、嬉しそうに笑っていた。
「レンね。私はミク。・・・ところでレン。」
ミクはカウンターに腕を置いて、身を乗り出すように話しかせてきた。おとなしそうな印象だったが、どうやら元気で活発な人のようだ。
「ご注文は、なに?」
レンはすっかり忘れていて、なにも見ていなくて、決まっていなかった。慌ててショーウインドーを見渡すが、どれもおいしそうで決まらない。その様子をミクはおもしろそうに見ていた。上から聞こえる、クスクスというミクの笑い声に、レンは赤くなる。
リンにどれと言われていなかったから何でもよかったが、できればいい物をと思ったが、どれがいいのかわからない。あまり自分で、選んでこなかったから・・・。
「イチゴのショートケーキが、出来たばっかりだよ。」
よくわからないが、それがいいと思ってバッと顔を上げた。
すると、ミクが少し驚いたような顔をしているのが見えた。
「それでお願いします。」
レンの言葉を聞いてから、一泊の間を開けて、ミクは笑顔になった。
「イチゴのショートケーキね。ちょっと待っててね。」
ミクはそう言うと、かがんでショーウインドーを開けた。ショートケーキをおぼんに移すと、立ち上がった。おぼんをカウンターに置くと、箱をとるためにレンに背を向けた。
「レンって、どこの国の人?」
レンは突然投げかけられた質問に、すぐに答えることが出来なかった。
ミクは、黄の国をどう思っているのだろう。
そんなことを、考えてしまう。
「隣の・・・黄の国です。」
レンがそう答えたときには、もうミクがケーキを箱に入れ終わっていた。
ミクは驚いたように、えぇ~とつぶやいた。
「黄の国なんて・・・大変でしょ。」
ミクはそう言いながら、箱を手渡しした。
少し、気分が落ち込んだ。わかっていたと言えば、そうだが・・・、なぜか哀しい。
カウンターにお金を置くと、店を出ようと後ろを振り返り、戸の所まで行く。
「また来てね。」
そんな、商売でよくある言葉なのに、落ち込んだ気分が少し明るくなる。
「あら、なかなかおいしい。」
リンは相変わらずおやつに文句を言ってきた。それでも、ある物を食べていた。
レンも、いつものように紅茶を注いでいた。
「そうだ。レン聞いて!」
いつも以上に、リンは明るい声をしていた。レンは、ティーカップをリンのそばに置いた。「前に言ったよね。一目惚れしたって人。海の向こうの青の国の人で、カイトて言うんだって。」
レンには、あまり興味のない話であったが、一目惚れという言葉を聞いたとたん、ミクの顔が思い浮かんだ。
あまりにも突然のことで、レンは真っ赤になった。
頭に浮かんだミクを消すために、頭を振ったり、歩き回ったり、手をばたつかせていた。「あんた・・・なにやってんの?」
リンは、あきらかに変な人を見る目でレンを見ていた。
レンはそれに気づき、その場に止まった。うつむいた顔は、恥ずかしいあまり耳まで赤く染まった。
「申し訳ありません。」
恥ずかしいあまり、声は震え、小さくなり、少し裏返っていた。
リンは気にしないように飲みながら、あと一口のショートケーキにフォークを勢いよく刺した。
「ま、どうでもいいけど。」
リンはティーカップを置いて、最後の一口を口に入れた。紅茶でそれを流すように、ティーカップに手を伸ばし、一気に飲み干した。
「おいしかったわ。明日は違うケーキ、買ってきてね。」
しばらくレンは、メルトに通うことになった。どのケーキもおいしいらしく、リンは満足していた。
話しているうちに、お互いのことをよく理解してきた。
そしてある日、ミクから人を紹介された。店の常連客で仲がいいらしい。青い髪の人で、青の国のカイトという人らしい。
三人はすぐ仲良くなったが、リンにはこのことを内緒にしていた。
「ねぇレン。」
今日のおやつも、メルトのケーキたっだ。
レンはいつものように、紅茶を注いでいた。
「明日、一緒に緑の国に行くから。」
リンの思いがけない言葉に、レンの手が止まる。なんか・・・もやもやした、いやな物が胸の中で、渦巻く。
しかし、気のせいだとレンは、笑顔で許可をした。
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