四章
朝日がまぶしすぎて、リンは今まで以上の早起きをした。
リンはまだ起きたばかりで、あまり頭が回転しない。それでも、必死にもう一人いた誰かを、記憶の中で捜していた。もう誰かはわかっているのと同じだけど、本当に思い出したかった。
しかし、どんなに頑張っても、ぼやけて思い出せない。
自分が情けなくなって、膝を抱えて小さくなる。すると、カランと何かが落ちた音がした。誰もいない路地なのに、焦ってそれを拾った。
それは、ペンダントだった。それも、懐かしい。これは、六歳の誕生日前日に母様からもらった、あのペンダント。
リンはゆっくりとペンダントを開くと、きれいなメロディーが流れた。そして、中には写真があった。
笑顔で写っている、金髪の二人。
それを見たとたん、ぼやけていた記憶がクリアになった。
そうだ。レンだ。探していたのはレンだった。
なんで、早く言ってくれなかったのだろう。昔からそうだ。自分の気持ちを押させこんで・・・。
でも、私が気づいてあげるべきだったんだ。レンに謝らなきゃ!
リンはペンダントを首にかけ、走り出した。
どこに行けばいいのかなんて知らない。でも、行かなきゃわからないまま。
「王女が今日、死刑だってさ。」
「あぁ。知ってる。広場で・・・三時だったけ?」
聞き流せず、リンは足を止めた。足早にその話をしているらしい、集まりの中に近づき、一人の腕をとる。
「おじさん!それって本当?」
男は驚いたような表情をしていた。しかし、その表情には喜びが隠れていた。
リンは男に急に肩をつかまれて、一歩後ずさる。
「レンじゃないか!」
「え?」
レンって・・・言った?
リンは、まじまじと男の顔を見る。知らない顔のはず。
リンが不審な眼差しをおくっているのにもかかわらず、男も周りにいた人も笑顔で話してくる。
「何だ。この人だかりは?」
凛とした声が辺りに響く。みんなは声にした方を見る。リンも同じように向く。そして息をのんだ。
赤い鎧。茶色のショートカット。細い茨の装飾の剣。
城ですれ違った、あの女剣士。きっと城を攻めてきた方。
「レンじゃない。」
女はリンに近づいてきた。よくわからなくて、リンはぽかんとしていた。その間に女は何か言っていたけど、頭に入ったいない。
そんなリンに気づいたのか、女は顔を不思議そうにのぞき込んできた。
「どした、レン。しばらく会ってないから、メイコ姉さんのこと、忘れたか?」
メイコは可笑しそうに、笑いながら言う。まだ頭がパニックしている。ふと、メイコは時計台で時間を見て驚く。
「いけない。もう行かなきゃ!」
そう言って、手を振って走っていった。リンも時計台に目をやり、驚愕する。時針が・・・分針が・・・三時を今にも知らせようとしている。
リンは人だかりをかけ分けて走る。
広場に行くと、人がたくさん集まっており、死刑台が見えない。
他人(ひと)の文句なんか聞かずに、前へ前へ走る。
「レン!」
「あら、おやつの時間だわ。」
死刑台の前まで行くと、鐘の音と、レンの最期の言葉と、首を切る音が響いた。まるでレンの死に同調するかのように、ペンダントが首から滑り落ちる。きれいなメロディが今は、かなしい。
次から次へ溢れる涙は、止まることを知らない。リンは両手で顔を覆いながら、崩れ落ちる。写真の二人がうらやましい。
リンは震えた手でペンダントを拾うと、また何かが落ちる音がした。そこにあったのは、拾ったはずのペンダント。また落としたのかとおもったが、それはどうやら間違いらしい。手にはいまだに音楽を奏でる、ペンダントが乗っていた。
リンは不思議に手に持っているペンダントを閉じ、落ちている方を手に取った。開けてみると、同じようだが少し違う音楽を流し始めた。何年かぶりに開けた、自分のペンダントだった。写真はなかったが、折りたたまれているメモ用紙があった。
『まちはずれのみなとの海に おねがいをかいたようひしを 小さいビンに入れてながすとかなう』
これは、小さい頃に書いたメモだ。母様に教えてもらって、忘れないようにって、ペンダントに入れておいたのだ。
リンはそうだ!と思って、ペンダントとメモを握りしめて、駆けだした。
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ご意見・ご感想
紺スープ
ご意見・ご感想
がんばる!最終章楽しみに待っててね(^.^)/~~~
2008/11/17 18:57:18
marinn
ご意見・ご感想
どうも、こんにちは。
コメントを書くのはここが初めてですw
次回、最終章ですか;
悪ノ召使の小説ですよね。
とても良い曲だったのでこちらも涙がでてしまうかもしれません;
時間がなかったので今までのまとめてダウンロードさせてもらいました。
最終回楽しみに待ってます。
がんばってくださいw
2008/11/15 22:26:26