「私の仕事場に行きたいって!?」
ルカさんが目を丸くしてこちらを見つめる。
「どうして!? ゆっくり観光してればいいのに」
「その観光は昨日十分したからな」
「それに、なんだか今日嫌な予感がするんです。何かとんでもない事件が起きそうな…」
こういうときの私の勘って、三割ぐらいの確率であたる。
だから別に気にしなくていいかもしれないけど、念のためである。
「うん…でもお客人に悪いわよ。それに何かあったとき大変だし…あっ」
困ったような顔をしていたルカさんが、何かを閃いたような表情をする。
「そうだ…先生、今日一日、刑事として動いてみないかしら?」
「はっ?」
「えっ!?」
「補正もあるし、先生ならきっといい刑事になれるわよ!」
ちなみにここで驚いているのは私一人である。
昨日から思ってたけどさ、どうして神威さんはそんなに冷静なの?
その落ち着きはいったいどこからやってくるの?
「でも俺なんかが刑事は…」
『昨日の吾輩との組み手を思い出せ。あの力ならば、この町に来る犯罪者ごときに負けるわけなかろう』
「そうよ。それに凄まじい装備じゃない。犯罪者なんかケチョンケチョンよ!!」
「……まあ、別に構わないんだがな」
いいんかい。
でも確かに神威さんならなんでもやりそうな気がする。
そしてやってきたのは警察学校の射撃場。
…なんで?
「…あのね、いくらなんでも一般人に、普通に刑事をやってもらうわけにはいかないって…」
言いだしっぺのルカさんが少しだけ目を逸らす。
「でね、それなりの能力があるなら、手伝ってもらってもいいけど?ってさ…」
傍から見たらやめさせたい会話に見えるけど、この現場をじっと目を凝らしてよーく観察してみよう。
ルカさんの目に注目。『先生なら楽勝よね? ごめんね、うちの部下たちを説得してくれる?』と語っているよ!
すごく申し訳なさそうに視線で訴えているよ!
だからなのかい?周りを4,5人くらいの警官の方々が取り囲んでいるのは!!
「だからここで能力を見るというわけか」
「そういうことよ…。まず射撃なんだけど、これ使ってね」
そう言ってルカさんが渡したのは一丁の拳銃。
……拳銃?
待ってルカさん。『先生なら拳銃くらい普通に扱えるだろう』って顔してるけど待って。
そして神威さんも待って、『なんだそれくらい』って顔して普通に受け取るのやめて。
(※神威先生は一応 一 般 人 です)
「いくらルカさんの頼みであろうと、所詮は一般人なんだから無理ですよォ!!」
「そうですよ、何もできやしませんって」
「………………」
さてその一般人の神威さんは無言で銃を掲げ、マジマジと見つめて。
「……あの的か?」
誰に問うわけでもなく、ただ独り言のように呟いて。
弾倉に弾薬が入っているか確認して撃鉄を起こし―――
《パァン!!》
引き金を引いた。
結論から言えば、弾は的の中心に命中していた。
「ただの一発だ、まぐれだろう」
ああも的確に中心を撃ち抜いているというのに認めようとしない人がいた。
そこにちらりと目をやった神威さんは、
「ほう…いいだろう」
あっさりと言い放ったかと思えば。
《パァン!!》
的をろくに見ずに一発撃った。
その弾丸もまた、先ほどと全く同じ場所へ吸い込まれていった。
「……え?」
呆然と見つめる人々を尻目にもう一発、また一発と一分の狂いもなく引き金を引いていく。
拳銃というのは反動が少なく片手でも使用できるが、片手持ちの場合は射撃精度が低くなる為、通常は両手で構えるのが主流である。
だが彼は片手を白衣のポケットに突っ込んでもう片方の手で撃っている。しかも利き手は左なのに、右手で楽々と。
数回に分けた発砲音が鳴り止む。弾倉から空の薬莢を全て床に落とし、僅かな笑みをその表情に宿して彼が言う。
その笑みは決して柔らかくなく、むしろ背筋を冷たい指でなぞられたかのような。
そう、その笑みが私たちに植え付けたのは―――
「まだお気に召さないか?」
―――恐怖。
逆らえば、次に撃ち抜かれるのは誰の『的』なのか。
そしてその感情を警察官相手に与えちゃう神威さん。えげつないです。
いえもう十分です、失礼しましたと全力の謝罪を残して去っていく人々。
ただ舐めていただけだったようだ。
いや、私もすっごく驚いているんだけどね?
何がって、ここで演技やりだす神威さんにだよ?
「…あれだけで去っていくのか?ここの連中は」
「あれは悪いけど一般人に近いから…。多分先生の本気なら、大抵の連中は蹴散らせると思うわよ。普通ならね」
「そうか」
拳銃をルカさんに突き返す神威さん。
弓といいチョークといい、的を狙う系のものが得意な神威さんである。
(チョークはほとんどダーツである)
身体的能力…は補正でよくわからなくなっているが、多数の武器を操ったり、ロシアンさんの背後をとったりしているあたり、どう考えても一般人とは思えない。
なんでも完璧にこなせるように見える彼。
でもどんな人物にだって、弱点というものは存在する。
ましてや人間など、探せば隙というものはいくらでも出てくるのだから。
*
数時間後。午前十一時でございます。
ルカさんに「昨日強盗入った銀行の様子見てきて」といわれた神威さんは銀行に行きました。
そしてその銀行ですが、私も着いていきました。
で、現在の状況を一言でまとめますと。
「この袋に金全部詰めろや!!」
銀行強盗(2回目)に遭遇しました。
なにこの銀行運悪すぎでしょう。
ちなみに、この人たち一発撃って壁に命中してます。普通そこ天井じゃない?
さてこの銀行はどうなるでしょう。
ただし、神威さんはすでに戦闘準備を完了しているとする。
今回の強盗犯は3人。
全員が武器を持っている。
全て神威さんに任せるのは難しい。
袋にお金を詰め終わったらしく、強盗犯たちが油断したその一瞬。
猟銃を持った男に、一本の弓矢が飛んできた。
当然、猟銃は使い物にならなくなる。
困惑する男、その眉間へ飛ぶ拳銃並みの速さのチョーク。
一人目、気絶。
何が起きたか、ここにいる大半が理解していないだろう。
大丈夫です。人質のふりをしていた神威さんが、どこから出したかわからぬ弓やチョークでなんとかしてるだけです。
普通ありえない光景ですよねー。
次に、ナイフを持った男へ二本の投げナイフを放ち、一本が獲物を弾いて落とす。
もう一本は首筋へ当たり、こちらも気絶。
仕事が速いですよねー怖いです。こんな人が教師やるってどうよ。
「てめえ…素人でもあまり舐めた真似をすれば、ここにいる奴らがどうなるかわか―――」
《パァン!!》
「どうなるのかな?」
いつの間にやら取り出した拳銃を片手で発砲、弾は声を荒らげた(強盗犯)男の顔の横すれすれを飛んでいき、壁に当たる。
しかもその場所は、強盗犯が最初に撃った場所と一ミリのズレもない場所。
さすがにその場の全員が理解しただろう、彼は只者ではないと。
おそらく服装から素人と判断したんだろうけど、これは相手が悪いですよ皆さん。
それでもめげずに襲い掛かる二人の男。
二人がかりでの攻撃(ナイフ×2)を軽々とかわし、代わりにぽつりと呟く。
「いいか銀行強盗ってのはな普通はもっと警戒してるもんなんだよ、お前らにわかるかな?それを二日連続で狙えば必ずうまくいくと考えてたんだろうが残念だったな、そんなうまくいくわけないだろうが。お前ら社会を甘く見すぎだもっとちゃんと勉強してから出直してこいよ。おめえらにも親御さんや奥さん子供がいるだろうに悲しませたいのか馬鹿野郎」
『ッ!?』
マシンガントーク発動。いきなり言われたらびっくりして動き止まるよねわかります。
そして動きを止めた後、一人の顎に肘を入れ、もう一人の鳩尾に蹴りを叩き込む。
かなり強力だったのか、二人は泡を吹いて倒れた。
そのとき、最後の一人が神威さんの背後から襲いかかる。
その手には拳銃。通常ならやられてしまうだろう、だが――
《バチッ!!》
――電流が走る音。
彼の最後の武器、スタンガンが男の首筋に当てられていた。
崩れ落ち、体の自由が利かなくなる男。
全員が倒れたことを確認し、私は全員を拘束した。
え?縄があったからそれで手首縛っただけよ?
「さ、回収部隊を呼ぼう」
さっと携帯電話を取り出してどこかに電話をかける神威さん。
数分後、入り口から青いマフラーをなびかせた一人の男性がやってきた。
「やあ、ゆるりーさんとこのがくぽとルカだね?」
「ああ。で、こいつら捕まえたから運んでくれ」
「了解」
さっそくパシリに使ってるんだけどいいの!?
そしてカイトさんが何か音波術を使おうとしたとき。
「あ、少し待ってくれ。こいつらに聞きたいことがある」
「そうかい?」
スタンガンをくらった男に近寄り、ぼそぼそと何かを問いかける神威さん。
なんだろう、質問かな?
男が首を横に振る度に、神威さんが何かを延々と早口で呟きながら、胸倉を掴んで拳銃を突きつけ、男が青ざめて喋りだす。
このやり取りが2、3回続いた。何してるんですか本当。
何マシンガントークと拳銃のコラボで犯人脅してるんですか。
教師がやることじゃないよね。(※そもそも教師じゃありません)
話を聞き終えたのか、少し頷いた後、神威さんは超近距離でチョークを頭へ投げつけた。
そして男は気絶。なんでそんなに今日怖いんですか神威さん。
「カイトさんすまなかったな。こいつら運んでくれ、あと刑事さんを呼んできてくれるか」
「いいけど、なぜだい?」
「とにかく、すぐに頼む」
「……わかった」
そして「卑怯プログラム」という音波を使って強盗犯を運び出していったカイトさん。
いいのかな、めっちゃパシられてるけどいいのかな。
「何があったんですか?まずいことでも?」
「そうだ…俺たちとことん運が悪いぞ」
「ルカちゃん、先生!!」
『何事だ? 事件か?』
「事件はいつもでしょ」
ルカさんロシアンさん到着。
「二人とも、すぐにこの場の全員に危害が及ばないようにしてくれ」
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「……さっきカイトさんが運んでいった奴ら、俺の推測通り昨日の銀行強盗の仲間だ」
「だから二日連続って言ってたんですか…」
「それだけじゃない……そいつら、裏でヤクザと繋がってやがる。今からここへその集団が来るらしい」
『『はあっ!?』』
そりゃ緊急事態だ。
旅行に来ただけで何度も事件に巻き込まれる私たちって…。
だが今はそれより、街が危ない。
「街の人間は勿論、この建物を傷つけるわけにもいかない…だが相手は大規模な集団、銃撃戦にされたら厄介だ」
「私とロシアンを呼んだわけはそういうことだったの…」
「そうだ。だが今、ヴォカロ町メンバーはほとんど出かけてしまっているんだろう?だから俺たちで迎え撃とう」
『ふん。我輩だけでも良いが、ルカと神威もいるのなら一緒に戦ってやらんこともない』
「頼むわよ、ロシアン」
今はそれしかできないみたい…。
でも、ルカさんとロシアンさんと神威さんが手を組むって…とんでもないチームじゃない?
ヤクザくらいなんとかなるかもしれない!
……ん?でも、私は?
ヴォカロ町へ遊びに行こう 9【コラボ・ゆ】
がっくん無双。
どうもこんばんはゆるりーです超眠いです。
というわけでとことん運がない我が家の夫婦。
でも大丈夫!我が家のがっくん怪物だから!←
今回書いててわかったこと。
私にバトルは向いてない!
第8話:http://piapro.jp/t/LN_4
第10話:http://piapro.jp/t/RS_a
投稿:2014/04/29
コメント2
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ご意見・ご感想
Turndog~ターンドッグ~
ご意見・ご感想
だから何度も言ってんだろ、永住しろと(しつこい
1か月ぐらいいれば精神だって慣れるぜ今の時点で冷静なんだから(ええ加減に
うちの部下と書いてうちのバカと読むんですねわかります!←
普段からルカさんと接してるなら一目でこんな紫髪の白衣が超人なことぐらいわかろうぜ一般警察!(無茶を言う
そーしーてー!!
バトルが向いていないとは何だったのか(確信)
いや、書きやすさとかそういう意味ならまぁゆるりーさんの感じた通りなんだろうけど、
クオリティなら実にスピーディな情景がありありと脳裏に再現されたぞ!ww
きっと俺がバトル慣れしてるからだけじゃないぜ!
カイトはまぁ、こんな感じで十分だよカイトだし←
あとこの情景どうみても先生がヤクザ(言っちゃいけない
加えてきっと役者と同じぐらいヴォカロ町の刑事が天職だな←
盛 り 上 が っ て ま い り ま し た
ヤクザの皆さんご冥福をお祈りいたします(はええしかも殺すな
うえい腕が鳴るぜ!ww
2014/04/29 21:34:21
ゆるりー
永住してもルカちゃんの精神は慣れないんですよねえ…純粋すぎて。
その冷静さが逆に…。
その通りです←
超人というかただのアレです。
バトルはやっぱり私向いてないです!w
しかも今回の戦いはカオスっていうね。
カイトはどこでもカイトなんですねw
おや、やはり…実は私もそう思いまして(もちゅーん
やっぱり補正で強くなってますからね。
そして一日で返ってくるバトン。
2014/04/30 20:44:20
しるる
その他
これは不運というか、治安が悪すぎるだけじゃ…w
なるほど、これは普段ルカさんに休みないわけだ
てってってーてってててー
2014/04/29 19:14:31
ゆるりー
多分不運なだけです!w
ルカさんは仕事大好き人間ですからねえ…
てってってーてってっててー
2014/04/30 20:20:39