「ついに降るかー」
夜寝る前に、ウィンドウを開いて明日の天気予報を眺めていたレンがぼそりと呟く。
聞きとがめたリンはのそのそと這いより、のしりと後ろからレンにのしかかる。
「レンってば、年内は雪降らないって言ってなかったっけー」
「予想は予想だってのー」
からかい口調のリンに、レンは開き直った様子で後ろ頭でリンを押し返す。
「リアルの天気予報の的中率は、85%程度だそうですね」
「ってことは雨が心配だったら、傘はずっと持ってた方がいいって事かなぁ?」
ミクの疑問にルカは、安全性を高めるのであればおそらくはと、同意する。
「ね、ね。ミク姉、ルカちゃん。雪つもったら何作る?」
リンがうきうきとした様子でミクとルカに尋ねる。
「つもるほど、降らねーだろ」
朝方降る予定の雪は、昼には雨に変わると予報では出ている。
「予報は予報だもーん」
レンに話の腰を折られたリンは、ぶーと口をとがらせ先刻のレンの口調を真似て返す。
「いいかげん寝なさーい」
MEIKOの声に、四人はめいめい元気よく返事をして自室へと引き上げる。
KAITOとMEIKOが手を振る。
「「おやすみー」」
「「「「おやすみなさーい」」」」
「降った?」
「まだみたいだな」
折角早起きしたリンとレンだったが、雲の動きが遅れているのか、予報がずれ込んでいる。
「やっぱり予報は予報かー」
ちぇーっと呟くリンに対しレンはウィンドウを閉じ、立ち上がって、リンに向き直る。
「で、行かねーの」
レンの真面目くさった表情に、リンは目を大きく見開いてからにぃっと笑顔を作る。
「行くしかないしょ!!」
ざくざくと霜柱を踏み荒らしながらリンは公園内を駆け回る。
「ゆーきー、こーい! 雪ーっ!!」
リンを呆れたように見ていたレンはふいに思いついて口ずさむ。
「ゆーきやこんこ♪」
「っ! ちょっとそれ、アタシが犬みたいって事~!!」
むぅううと頬を膨らませたリンに、レンは考えすぎだろーとそっぽを向いて口笛を吹く。
「それにしても、みんなノリ悪いー」
家で待ってると言ったKAITOもそうだが、急ぎの買い物があるとMEIKOに連れられてミクもルカもそろって電子ショッピングモールに行ってしまうなんて。
「年末だし、忙しいんだろ」
肩をすくめたレンに、そりゃそうだけどとリンもわかってるけどさーとぼやく。
「ミク姉とルカちゃんは一緒に来てくれそうだったのに」
「降ったら連絡してくれっていってたろ」
振るかどうか少し怪しくなってきてしまったから仕方がない。
けれど、せっかくだから今日降って欲しいリンは、両腕を空に向かって伸ばし、早く雪降れーと再度唱えた。
モールを彩るイルミネーションはニューイヤー兼用でそのままだが、店に並ぶ品は大きく変わっている。
「お姉ちゃん、買わないの?」
縄や、松の飾りを売っている店を通り過ぎてしまい、ミクはあれと首を傾げる。
「後で買うわよ」
MEIKOの素っ気ない返事にも「そっか、かさばるもんね」とミクは納得する。
じゃあ何を買うんだろうと悩むミクに、ルカはもしかしてという風にミクに尋ねる。
「あの、今日はお二人の誕生日ですが」
「……ふたり? っあぇ、きょ、今日だっけ!?」
昨日からの雪騒動ですっかり頭から抜けてしまったらしいミクは日にち思い出して慌てる。
「おめでとうって言い損ねたー」
プレゼントもちゃんと用意してたのに忘れるなんてぇ、とがっくりと肩を落とすミク。
「後でゆっくり祝いましょ」
MEIKOは、メモ帳を開き、渋い顔をする。
「KAITOお兄さんからの買い出しの依頼ですか?」
ルカの言葉に、MEIKOは頼んでもイイかしら? と時計とミクとルカの顔を見比べる。
「ごめんごめん、途中で足りなくなっちゃって」
助かった、とナベとオーブンとテーブルを行ったり来たりと忙しなく動き回るKAITO。
一足先に帰ったMEIKOはどの食器がいいかしら、と食器棚とにらめっこをしている。
「KAITO、リンとレンのコップってどっちがどっちだった?」
新しくなったばかりのコップは、よく似たデザインをしている。
「あ、ミクわかるよ! こっちがレンくんだよね」
「いえ、ミクさん。そちらはレンさんが購入し、リンお姉様に差し上げた方です」
混乱したミクはルカに再度確認し、テーブルに並べる。
時間とリンからの呼び出しを気にしつつも、パーティを前にじっとしてなんていられない。
「お兄ちゃん、何か手伝えることある?」
「MEIKOお姉様、お手伝いすることはありませんか?」
「降らないーっ! なぜっなぜだーっ」
リンがあらかた踏み砕いた霜は気温が上がって溶け、地面をぐちょぐちょしている。
ココで転んだら大惨事だろうな、とレンは身を震わせ、悔しそうに空を見上げるリンに向かって声をかける。
「そろそろ昼だし、帰ろうぜー」
リンもがっかりした様子で振り返り、そうだねと呟く。
「お昼だもんねー……しかたないっかー」
「しかたねーよ」
そうとなったら急いで暖かい我が家に帰ろうと、リンもレンも公園の出口へと駆け出す。
ぬかるむ地面に慌ててスピードを落とし、抜け道がてら暖かいモールの中に入ってほっと一息吐く。
「MEIKO姉たち、先帰っちゃったんだろうなぁ」
「一声かけてくれればいいのにな」
大分長い時間寒空の下にいたレンとリンの鼻の頭はすっかり赤くなってしまっている。
「ねーレン」
「何だよリン」
「今日誕生日だって、忘れられてるのかな」
おめでとうってまだ誰もいってくれない、としょぼんとした口調で呟くリンに、レンはきょうだい達の顔を思い浮かべ、答える。
「忘れられてるわけねーだろ」
つか、オレが朝一で言ってやったじゃんとレンはぼやく。
当日うっかりは、マスターだけで十分だ。
「だよね!」
家に帰った二人がクラッカーで出迎えられたのはその暫く後。
夕方になってようやく降り出した雪を見物しに、改めてみんなで夜の公園に繰り出したのはまたその少し後の話。
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