悪食娘コンチータ 第二章 コンチータの館(パート8)
「やれやれ、これは参ったな。」
呆れた様子で、レヴィンがそう言った。翌朝のことである。いつまで経っても厨房に現れないヴァンヌの様子を図りに来たレヴィンとリリスは、ヴァンヌの部屋に残された、綱状に加工されたシーツが窓枠から外に投げ出されていることを目撃して、漸く彼女の失踪を知ったのである。
「どうするの、レヴィン。」
リリスがそう訊ねた。
「別の料理人を探すしか、ないだろう。」
「次は、もう少しまともな人を雇ってよ。」
うんざりするように、リリスがそう言った。その言葉に対して、レヴィンは軽く鼻で哂う。そして、こう言った。
「あの料理を作って平然と勤め上げるというなら、それは相当に頭がいかれた人間だろうね。」
レヴィンのその言葉に、リリスは軽い溜息を漏らした。それは自分自身への嫌味のつもりなのだろうか。ふと、リリスはそう思ったが、そのことは口に出さずに、代わりにリリスはレヴィンに向かってこう訊ねた。
「それで、この後どうするの?」
それに対して、レヴィンは一度頷いた。コンチータ様は、多分料理人の失踪を知ってもお咎めはされないだろう。レヴィンは軽くそう考え、そして軽い口調でこう言った。
「まずは何より、コンチータ様の朝食の準備だよ、リリス。確か昨日、虫がいくらか余っていたはずだ。」
「一体、どうなっているのかしら、レヴィン?」
朝食の席、ヴァンヌの失踪を告げたレヴィンに向かって、バニカは流石に苛立ちを抑えきれない、という様子でそう言った。レヴィンの予想とは異なり、どうやらバニカはコンチータ領に来て三度目になる料理人の交代に対する不満と、なにより仕事を放棄して逃亡したヴァンヌに対する怒りを強く覚えたらしい。
「私の、監督不足、です。」
思わず全身を硬直させたレヴィンは、しどろもどろになりながら、なんとか、という様子でそう答えた。そのレヴィンに対して、バニカは更に強い口調で続ける。
「しっかりして頂戴。私はもっと、もっと素晴らしい美食を堪能したいの。早く料理人を探して来なさい。」
「すぐにでも、今日中にでも。」
「そうすることね。」
バニカはそこまで言い切ると、唐突に席を立った。まだ、食事には一切手をつけていない。
「コンチータ様、これは・・。」
バニカが食事の途中で席を立つ姿を見るのは、レヴィンにとっては初めてのことであった。その態度に強い恐怖を覚えながら訊ねたレヴィンに対して、バニカはただ、まるで氷のような冷たい口調で答える。
「そろそろ虫食にも飽きたわ。それに、例の小瓶も。新しい料理人を早急に探させて、もっと美味しい、美味なものを用意させなさい。」
コンチータは怒気を含んだ声でそう言い放つと、荒々しい足音を響かせながら食堂より退出した。まるで防衛本能に駆られた亀のように、その首筋を思い切りに引っ込めたレヴィンに一瞥もかけることなく。
「どうするの、レヴィン。」
バニカの姿が食堂から見えなくなると、リリスが無理して明るく、そう言った。
「すぐに、探すしか、ないだろう。」
レヴィンは震える声でそう答えた。そう、最早誰でも構わない。とにかく、料理の腕などどうでもいい。自らの保身の為に、レヴィンに必要な存在は『料理人』という肩書きを持つ人間であった。どんなゲテモノ料理でも喜んで料理するような、そんな存在が。それには。
そこまで考えて、レヴィンはふ、と小さな笑みを漏らした。
「そうだ、リリス、良い考えが浮かんだよ。」
「良い考え?」
そこでレヴィンはにやり、と笑みを漏らした。そうだ、料理の腕にこだわる必要など、全く無かったのだ。ただ、あのような悪食に近い物を、普段からしている人間を料理人に仕立て上げれば。
「早速、街に出よう、リリス。この街にも、一人や二人、そんな人間がいるだろう。」
その後、形ばかりの片づけを終えたレヴィンとリリスの二人は、彼らにすれば珍しく久方ぶりに市街へと向かって歩き出した。主要街道から外れた、黄の国の中でも田舎の部類に入る地方都市ではあるが、それでもそれなりの人々の往来がある都市であり、この辺りでは一応中心的な街でもある。
「前みたいに、立て看板で募集するの?」
一度人通りの多い四つ辻に出たところで、リリスがレヴィンに対してそう訊ねた。それに対して、レヴィンは首を横に振った。
「あれじゃあ効率が悪すぎる。僕の目的はここじゃない。」
そう答えると、レヴィンは大通から一本離れた、街の繁華街へと歩みを向けた。それなりの都市ならば何処にでもある、腐臭漂う、暗部とも言うべき地区であった。
「ちょっと、レヴィン、一体何処に行くつもりなの?」
不安を感じたリリスがそう訊ねる。
「ああ、やっぱりいた。」
リリスの問いには直接答えずに、レヴィンはリリスに向かってそう言いながら、晴天の昼間にも関わらず薄暗い、建築物に挟まれた、細い隘路の一角を指差した。視界が悪い。そう思いながらリリスがその場所を凝視してみると、どうやら一人の人間が座り込んでいるらしい。身なりはぼろぼろで、髪も伸び放題、どうやら嫌な、腐ったような匂いすらしてくる。
「あの人が、どうしたの?」
「浮浪者だよ、リリス。彼らの食事は、僕たちの想像を絶しているだろうね。」
にやり、とレヴィンは哂うと、その男の前で立ち止まり、男に向かってこう言った。
「君、生きているかな?」
その言葉に、男がぴくり、と肩を動かす。青みかかった黒髪を持つ、まだ年若く見える青年であった。
「聞こえているなら、返事をしてくれ。」
「・・喋ると、余計な体力を使う。」
がさがさとした、疲労しきった言葉が投げ返された。その言葉にレヴィンは嫌らしい笑みを浮かべながら、こう答える。
「ああ、確かに正論だね。だが、それは体力を補給する手段に不足しているからだろう。」
そこで一度レヴィンは言葉を置いた。そのまま、すえた匂いを気にするように表情をしかめながらも軽く腰を曲げて、そして続ける。
「君に、良質の食事を提供しよう。」
その言葉に、その男は俯かせていた顔を漸く持ち上げた。見れば、想像よりも整った顔立ちをした男であった。
「なんのことだ・・?」
「仕事を与える、と言っているんだよ。君に。了承してくれれば、君が望むだけの食事と、風呂と、寝床を用意しよう。」
「冗談はよせ。」
「冗談ではないよ。」
に、と軽い笑みを漏らしながら、レヴィンはそう言った。そのまま、にらみ合いにも近い沈黙が流れる。
「断るなら、別の人間を当たるが。」
やがて、レヴィンがそう言った。それに対して、男は僅かに思索するように空を見上げる。やがて、ふ、と疲労を零すような重たい溜息をつくと、こう言った。
「確かに、飯にありつけるんだな?」
「無論。」
即座に、レヴィンがそう答える。それに対して、男は何かを決意するように、吐息を漏らした。そして、答える。
「了解した。」
「契約、成立だね。」
レヴィンはそこで年頃の、幼く見える笑顔を見せた。そして、訊ねる。
「名前だけ、先に聞いておこう。」
その問いに対して、男は重苦しく自身の腰を上げながら、こう答えた。
「シオンだ。」
小説版 悪食娘コンチータ 第二章(パート8)
みのり「ということで第八弾です!」
満「シオンと書くと分かりづらいかも知れないので一言入れておくと、彼は始音カイトだ。」
みのり「要はカイトね。」
満「そういうこと。漸く十五人目の料理人を用意できた。」
みのり「ということで、そろそろ本格的にグロい描写になるので気をつけながら読んでくださいね!」
満「それから、お知らせがある。」
みのり「言い辛いんだけど・・今連載中の、というか連載止まっている『ハーツストーリー』ですが、当面連載を休止することになりました。」
満「本当に申し訳ない。理由としては、長くなりすぎて世界観がレイジの中で崩壊したこと、それからボカロから離れすぎた、ということがある。」
みのり「楽しみにして頂いた皆さん、本当に申し訳ございません。」
満「その代わりと言っちゃなんだが・・数年前から構想していた異世界ファンタジーものの連載を開始した。オリジナル作品なのでピアプロには投下できないが・・。」
みのり「『黒髪の勇者』という題名で、TINAMIというサイトで連載中です!宜しければ一読ください!」
満「URLは下につけておく。」
みのり「ということで、今回は色々ごめんなさい!コンチータ様はまだまだ続くので、是非次回もよろしくお願いします。それではノシ」
TINAMIへはこちらから→
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wanita
ご意見・ご感想
ハーツストーリー休載……!同じ長編仲間として、実は少し前からハラハラしながら見守っていました。とりあえず今は、お疲れ様です。オリジナルの方、頑張ってください。
バニカさんの今後も、この話の主人公がどう結末にこぎつけるか、楽しみにしています。
2011/10/15 13:59:05
レイジ
コメントありがとう?。
休みがちだったからねぇ・・。
すんません。。。
結局長くなりすぎて設定にほころびが出来てきたのが原因かなぁ・・。
相当しっかり世界観固めないと長編はきついな、と身をもって体感したよ。。
コンチータはちゃんと完結できると思うので、よろしくお願いします!
2011/10/15 17:33:49