「・・・・また来ちゃって、迷惑じゃないですか?」彼女は心配そうに聞いた。
「いえ、そんな――全然っ・・・・うれしいぐらいだし」急いでそこまで言い切ると、自分が行ったことを理解して、顔がアツくなった。――“うれしい”とか・・・・何言ってんだよ。
 彼女は嬉しそうに笑った。頬が、ワンピースと同じ色に染まっている。
「あの――昨日の、本当にありがとう。気使ってくれて」僕はあのハンカチを出した。正直、ありがたすぎて使えなかったんだよね。
「そんな――いいのに・・・・」彼女はあせったように言った。「それ、あげます。また傷が出来たときに」
「でも――」
「いいの。そのハンカチ、黄色の薔薇の刺繍があるでしょう?私、色違いのピンクのを持ってるから」彼女はポケットから、あのハンカチと同じようなハンカチを取り出した。ピンクの薔薇の縫い取りがしてある。そういえば、同じようなのがあのハンカチにも。彼女はハンカチを見せて、僕にニッコリした。「ね、おそろいでしょ?片方は貴方が持っていてください」
 僕はさっきより、もっともっと顔がアツくなった。
 そのとき、がちゃっがちゃっという音が、かすかに聞こえた。やばい、アイツらじゃん!
「――隠れないと・・・・」僕は音のする方を見て呟いた。
「あ――明日、また来ても・・・・いいですか?」少し言葉を詰まらせながら、彼女が言った。
「もちろん――君も隠れなきゃ」僕は声を低くして言った。
「じゃあ――また明日、この場所で」彼女は少し柵から離れて、早口に言った。
 僕はニッコリ笑って頷いた。そして、くるりと向きを変えた――。
「またお前か!」今度こそ本気でやばいぞ・・・・昨日のヤツだ。「この――・・・・!」
 兵士が手をあげた。僕は目をぎゅっと閉じた。
「やめてっ!」あの子の声。「やめて、その人を傷つけないで!!」
「っ――あなたは・・・・将校の娘さんの」兵士は驚いて、呟くように言った。
 将校の娘だって!?それって結構おエラいさんじゃ――?それに、兵士がこんなにびっくりするってことは、本当に上級の兵士ってことじゃないか?
「あなたがこの人を傷つけたら、パパに言ってあなたをクビにします!言い訳なんて、すぐ考えられるわ!あなたが、ここにいる人たちを逃がすのを見たとかいえばいいんだから」
「しかしこいつは――」
「分かったら、どこかへ行きなさい」彼女はピシャリと言った。
兵士はさっさと逃げて行った。
 彼女は僕に向かって、少し悲しげに笑うと、さっと向きを変えて行ってしまった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

囚人―Prisoner―03#闇壁【後編】

お久しぶり?です。
私のマイペースな投稿に付き合ってくださってありがとうございますょー。
なんかちょっとリンの立場が無理あるかなーって思いました。
脅しちゃってますね、はい。
気になってもスルーーしてくださいw

閲覧数:730

投稿日:2009/05/21 18:57:45

文字数:1,057文字

カテゴリ:小説

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