ぱちん、と小気味のいい音を立てて携帯電話を閉じ、僕は隣にいるリンのほうに目をやった。膝に上に大事そうに抱えた黒猫をしきりになでたり、ベンチの後ろに聳え立つ街路樹の花の香りをかいだり。時折風に金髪がなびいて、鮮やかだった。
「だれに電話してたの」
「カイトに。どうせ死ぬんだから喫茶店なんか閉めて遊びにおいでよって」
「…こないと思う」
「くるっていってた」
「何故…?」
 今回はリンが突っ込みになってしまった。いつもは僕が突っ込みなのに、今日ばかりは…なんて考えながら、僕は閉じた携帯電話を見つめた。リンに出会ってから一週間たつまで、あと十二時間をきった。十二時間以内に、僕はどうやって死んでしまうというのだろう?最初、リンに出会ったときには『大恋愛の末に死にたい』などといっていたが、どうやらそれは無理なことらしい。ならば、どうやって死ぬのだろう?
 そんなことの予想を立てながら、僕はふと思った。
 僕が死んだら、リンはどうなるのだろう。死神なのだから、恐らく僕のような罪を背負った人間の魂を斬り続けるに違いない。それがどれほど悲しいことなのか、僕には理解することが出来ない。そして、今のリンにも理解できないことに違いない。おきてもいないことを恐れるほど、僕はやわな神経をしているつもりなどないが、少女であるリンがどう感じるかは分からない。
 感情を持たない今はまだいいのかもしれない。しかし、これから感情を持ち始めたとしたら苦しいだとか、悲しいだとか、そんなことも思うようになるのだろう。人の魂を着ることもそうだが、人の死に際を終わり無く見続けることはどんな責め苦よりもつらいはずだ。いや、死神なのだから見た目の年齢や顔つき、体つきなどに性格や感情が同じように伴うかどうかは分からない。もしかしたらすごく冷酷な性格になって、人の魂をきることなど大したことではないと思うようになるかもしれないし、もしかしたらものすごく情が厚くなって、人の魂を一つ切るごとに身を裂くような思いをするかもしれない。
 勿論、どちらにしても僕には関係の無いことだ。なにせ、僕は今日のうちに死んでしまうのだから。ただ…。
 ただ、それだけで済ますことは出来ない。人をひきつける、何かが、彼女にはあるのだ。
「カイトがくるまで、何してようか?カイトの店から此処まで、結構あるよ」
「なんでもいいわ」
「じゃ、何か話してよう。んと、話題は…」
 二人で共通する話題などどこにあろうか…、僕は頭を悩ませた。大体、人間と死神が請うほのぼのと話をしていると言うのは、どうなんだろう。
 死ぬと言うことが分かっているのに何もしないと言うのもどうかと思うが、それ以上にこんな和やかに死神とデートしているのもどうかと思うのだ。いや、実際はデートではないのだが、まるでデートのような風景じゃないか。
 海にいって水を掛け合って、次は動物園に来て二人でベンチに座っている。…それだけで、デートにいっているという事実には十分だった。
「感情って…どんなものなのかしら」
「え、急にどうしたの?」
「あなたがしきりに私の感情を気にするのはどうして?感情とはそれほどの価値があるの?」
「価値とかそういうことじゃなくて、感情がないと人形と同じみたいじゃない」
「どうして?価値が無いのならどうして必要なの?どうして感情が無いと人形なの?」
 前のめりになってきょとんとした表情で僕に迫るリンは可愛らしかったが、同時におかしな恐ろしさも感じさせた。
「うーん…。ほら、リン、今日動物を見てすごいと思ったでしょ?でも、それって見たからって言って何か価値になるわけじゃない。でも、すごいと思った。人形は感情が無いからすごいとも思わない。…そういうことだよ」
「よくわからないわ」
「感情を持ったらすぐに分かるよ」
 まあ、そのころには僕は生きていないんだけど、といおうとしたが、やっぱり言わないでおいた。納得しそうになっているリンの邪魔をするわけにはいかないし、この雰囲気をぶち壊すのは自分としても気が引けるからだ。
 あと一日で感情を生み出してやることは、無理だろうという結論にいきついた僕は、無理に感情を教えることはしないで、彼女が自然と感情を覚えていくのを待つことにした。
 人に教えられるよりその身で体験したほうが、よほど豊かな感情を持つことが出来るに決まっているのだ。
 そうやって、彼女の姉達は感情を学んだように…。
「感情は…苦しいものなのかしら」
「苦しい?たしかに苦しいものもあるだろうけど…」
「このごろ、胸の奥がきゅって締め付けられるような気がするの」
「胸の奥がきゅっと?…それは、恋に近いのかなぁ」
「恋?でも、それは死神には無いはず…」
「それによく似た感情があったってかしくないよ」
「そうかしら…」
 まだ納得していない様子ではあったが、リンはとりあえず反論はしてこなかった。

 かれこれ三十分ほど感情とは何たるかと言う談義に花を咲かせ、話の収拾がつかなくなってきたころ、丁度よくカイトがやってきた。
「ごめん、待った?」
「そんな彼女みたいな台詞は要らないよ。…それに、待ったのは決定的でしょ。現地から電話してるんだから」
「それはどうもすみませんでした」
 ぺこっと頭を下げてみせる。思い切りその頭を殴ってやろうかとも考えたが、あまりにも理不尽でかわいそうだと思って、我慢しておいた。勿論、後ろにはあの栗毛の女性が立っている。
 リンと栗毛の女性が軽く会釈をしているところを見ると、死神にも上下関係が成立するのだろうか。
「…じゃあ、どこいこうか」
「どこいくか決めても無いのに呼んだの」
「どうせ暇だろうと思って」
 あは、と笑って僕は歩き出した。後ろからリンがついてくる。栗毛の女性もついてきて、…あの青いのはどうでもいい。
 せめて死ぬと分かっているのならくいの無いように、と言う建前の元、遊びほうけてやろうと僕はもくろんでいた。が――。

「きゃあっ」
「助けて!」
 とおくから聞こえてきた声に、僕らは振り返った。ずっと向こうが薄ぼんやりと紅く染まり、黒い煙をもくもくと立てているのが見えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

ものくろわーるど 10

こんばんは、リオンです。
今日もちょっと早いです。
ことの発端をちょっとだけ書いて終わらせてみました。
後、余談ではありますが、
どうやらレンはカイトが嫌いなようです。
少し前からカイトを露骨に否定してます。
…今日は裸マフラーじゃなかったらしいですよ。
栗毛のお姉さんが全力でアッパーかまして止めたそうです。

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閲覧数:282

投稿日:2010/04/09 23:19:46

文字数:2,547文字

カテゴリ:小説

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  • lunar

    lunar

    ご意見・ご感想

    すいません、三回目の投稿です(自重しようか、君

    えーと・・・、ネタ、提供しておきながら、自分の所にそのネタであげました。ごめんなさい。すいません。よし、ちょっと青木ヶ原樹海逝ってきまs(ry

    ・・・宜しければ、見て下さい、駄文ですが。
    すいません、関係のないことで。では、失礼します。

    2010/04/10 20:54:14

    • リオン

      リオン

      こんばんは、またまた会いましたね。

      いえいえ、ネタを考えたのは私じゃありませんから、謝る必要なんて無いですよ!
      …自殺しようとしてません!?はやまっちゃらめぇぇぇえええええ!!!

      じゃあ、お言葉に甘えて見せてもらいますね♪

      2010/04/10 20:57:25

  • lunar

    lunar

    ご意見・ご感想

    こんにちは。また送ります(またかよ

    あ、そう言えば前にネタなんかありますか、て言ってましたよね。
    桜はどうでしょうか。
    私が知っている話によると、「桜の花びらを捕まえて願いをかけると願い事が叶う」 との事です。本当かは分かりませんが(←
    それを知ってリンが渋ってるレンを外に引きずり出して、一緒に桜の花びらを捕まえようと・・・
    的な。あ、リンはその事をレンに教えずに・・・て感じで!
    ・・・どうでしょう・・・か・・・? あ、これもありがちなネタ・・・だな・・・うわ・・・
    すいません、こんなネタばっかで。
    では、また。続き楽しみにしてます!


    2010/04/10 18:20:55

    • リオン

      リオン

      こんにちは、また会いましたね(何

      はい、ネタなくなりました。四月とかわけ分からん(え
      桜ですかぁ…。うちの桜はいまだに咲いてくれません。室内の桜はすべてしおれてしまった…orz
      へえ、なんかロマンチックですね!
      結局桜を取るのはレンなんですね。よーく分かりますよ(笑
      ありがちですか?私は好きですけどね、こういうの…。
      ありがとうございます、ってかすみません、ちゃんと考えろよって話ですね。
      今日も頑張りますねっ!

      2010/04/10 18:25:30

  • lunar

    lunar

    ご意見・ご感想

    こんにちは。また送らせて頂きます。
    ・・・うおぉぉおおおぉい!? え、後十二時間でレン死んじゃうの!?やべぇ、リンちゃんどうするよ!?(どうしようも無いだろ
    おー、リンは感情持ち始めたかー、・・・ん? それって・・・恋じゃないの?・・・そうかそうか、とうとうリンも恋する感情が分かる様になってきたのか(黙れ
    いやー、何か、そんなだったらレンがもしこのまま死んじゃったらリンはボロボロ涙流してそうですね。勝手な予想ですが。
    それで何で自分が泣いてるか理解できないで泣いてるとk(ry

    ・・・すいません、勝手な想像して(それを人は妄想と言う
    これからどんな風に話が進んでいくのか楽しみです。頑張って下さいね!

    2010/04/10 18:06:40

    • リオン

      リオン

      こんにちは!
      後十二時間でご臨終ですね(清々しいほどの笑顔
      リンもレンも青春ですね☆(うぜぇ
      あ、いいですね、それ。そういう案を出すと、軽々しくパクるタイプの人ですよ、私。
      そのリン可愛いなぁ…。

      大丈夫です、私はいつでも妄想してますから!(胸を張るな。自重を覚えろ
      応援ありがとうございまっす!頑張ります!

      2010/04/10 18:13:43

  • 華龍

    華龍

    ご意見・ご感想

    こんばんわ~!
    レン、あと12時間だよ…?!!
    リンとデートしているのには、何も言いません!!
    が、レンが死んじゃったら元も子もないよ?!!
    死なないでぇぇぇぇ><

    リン!!!感情について話すようになってきたって事は、
    少なくとも以前よりは興味を持ったって事じゃない?!!!
    しかも、恋っぽい感情まで?!!!(≧艸≦)
    ちょっと、これは…色々期待できそうですよ!!!

    わわわ!!巻き込まれそうな事件発生ですよ~!!!!Σ(゜□゜ノ)ノ
    逃げて、逃げて~!!!!
    次回、どうなるんでしょうか~??(゜△゜)
    おお…!!!!栗毛のお姉さんが動き出しましたね★GJ!!
    でわ、楽しみにしてます!

    2010/04/10 03:37:59

    • リオン

      リオン

      こんにちは、毎度毎度返事が送れて申し訳ない…!
      あと十二時間です!
      それでもデートしてるのを突っ込めるやつは、心が汚れてるんですね。
      レンが死なないように…リンがどうにかしてくれるんじゃないですか(他力本願
      死んじゃらめぇぇぇえええ!!!(じゃあどうにかしろよ

      そうですね、感情そのものに興味を持ったって言うより、
      レンが感情を気にすることに興味を持ったってカンジでしょうか。
      リンがレンに恋をするのもレンがリンに恋をするのも、可愛いですよね…。
      期待していただいたら最終的に気落ちする気もしないでもない…。

      巻き込まれること、決☆定!
      皆、逃げても無駄だし、暴れまわっておいで(おい
      今日も頑張りますから!多分!
      流石に栗毛のお姉さんも耐え切れなくなったようです。
      では、今日もめちゃくちゃにしてやります(違

      2010/04/10 17:07:37

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