この物語は、一人の少年と手違い(?)で届いたVOCALOIDの物語である。
*
「カイトが帰ってこないんだけどどうなってるんだ」
イクト宅。クオは炬燵に足をつっこんで、不満そうな顔でイクトに聞いた。
イクトはクオの向かいで同じように炬燵に足を突っ込んでいる。
リンとレンはテレビゲームをしている。イクトはそれを見ていた。
そして、そこから視線を外さずにクオの言葉に返事する。
「お前がまた変な事、言ったんじゃないのか?」
「言ってないっ!…買い物に行ったっきり二週間だぞ?
だれかの家に世話になってないとこんなに長い間居なくなる筈がない」
「…まぁ、そうだな。ってか、お前カイトに買い物任せてるのか?」
「……アイツがアイスが食べたいって言ったから二百円渡しただけだよっ」
クオはさらに不貞腐れて毛布に顔を埋める。
そんなクオにイクトは苦笑しながら口を開いた。
「リン、レン。なんかクリ○トンから連絡来たか?」
「いーえ、何も。」
「重大なニュースは何も」
テレビから視線を外さずリンとレンは答えた。
「ほら。どっかで迷子になって、誰かに保護されてるんじゃないか?」
「…犬じゃああるまいし。」
その時だった。
ピンポーンと、チャイムが鳴らされた。
「…誰だ?」
扉を開けに行く暇もなく、どたどたと廊下を走る音がする。
「イクト、クオ、大変だ!」
飛び出してきたのは、三週間前にメイコをクオの家において言った青年だった。
カイトはクオの友達と思っていたことを誰も知らないが。
イクトが声を上げる。
「なんだなんだ、人の家に勝手に入って」
「勝手じゃないぜ、ちゃんと鍵があるから」
と、青年は指に引っ掛けた鍵をくるくる回した。
「…その鍵はいつ盗んだ…」
「気にすんな。…それより大変なんだ」
「何が大変なんだよ…早く用件を言って」
と、その時青年の後ろからメイコが現れた。
そして、メイコが説明を始める。
「クオさん、イクトさん、実験過程中の巡音ルカが脱走した事は聞いていますよね?」
「知ってる」
とクオが返事して、
「知らない」
とイクトが返事する。
その返答にメイコの鋭い視線がテレビゲーム中のリンとレンに向かう。
「リン、レン!連絡は行った筈よね?!」
その声にテレビ画面から
目を離さずにレンが答えた。
「だ、だけどさっ、すぐ捕まると思うからマスターに言うまでもないって言われた」
「…」
メイコは溜息をついた。
「それがね、捜索中に同時に事件が起こったのよ」
「…?事件?」
「そう――何者かが、巡音ルカのプログラムを、
最終チェック中の初音ミクに入れてしまったの」
巡音ルカのプログラムを、ミクに入れる―――、
初音ミクは既に完成したプログラムであり、そこに未完成の、別のVOCALOIDのデータを入れると、どうなるのか。
「…それで?」
「勿論拒絶反応が起こって、プログラムは停止したわ。…だけど、その後に
変な反応があったらしいの」
「変な反応!?」
「って、どんな反応?」
「…それはわからない。そのルカのデータを入れられた初音ミクは
脱走した巡音ルカを追うように研究所を脱走したらしいの。
これが二週間前に入ったニュース。そしてさっき入ったニュースによると、
この町に巡音ルカを保護した人物がいるかもしれないらしいの」
「…ってことは」
「そう―――、暴走した初音ミクもやって来る」
しばし沈黙が続いた。
ゲームのSEも聞こえないほど。(いや、それはおかしい。)
「それで、俺たちに初音ミクを捕獲しろと?」
「もうひとつあります。これを見てください」
メイコが持っていた鞄からDVDを取り出した。
リンとレンのゲームなどお構いなしに入力画面を切り替える。
リンとレンが叫びをあげたが、
「黙りなさい!」とメイコが一喝して、リンとレンは渋々ゲームを片付けた。
そして、DVDに全員が注目した。
『ガ・・・ガ・・・ キ…コエ、マ…スカ?…ガ・・・ガ・・』
そんな音が黒い画面から聞こえ、次の瞬間
映像が映った。
それに全員が目を見張る。
『こちら、カイトです』
「カイトっ!?」
クオが声を上げる。
その映像にはカイトが写っていた。
後ろの建物は廃墟のようなものである。
渋い声で、「カイト、現場の状況を詳しく知らせよ」
と見えない誰かがカイトに命令している。
カイトはそれに頷いて、建物の中へ入っていく。
カメラががたがた動いて見えずらいのは素人の撮影だからだろうか。
クオはそれをただ黙って見ていた。
メイコやリン、レン、イクトが何か入った気がするが、クオの耳には
実況を説明するカイトの声しか入らなかった。
やがて、廃墟の奥なのか、光が射してない暗い場所にやって来た。
『ここが、暴走した初音ミクがいたと思われる場所です。
見てください、ここにネギが落ちている』
カメラがカイトの足元に落ちているネギを映した。
そのときだった。
ガチャーンという音が聞こえた。
『何だ!?』
カイトではない、何処かで聞いた声がした。
カメラを持っている人物だろうか。
カメラが音がした方向を映す。
そこに映されていたのは、初音ミク、
いや、初音ミクと瓜二つだが、違う何かが映されていた。
衣装は初音ミクそのものだが、髪の色、服の色、イメージ、
顔までが何か違った。
『ミク!?』
コオオオオオ…と何か恐ろしい音が鳴る。
『っ、逃げろ、神――、』
カイトが言いかけた次の瞬間、
爆発が起こった。
そこで、映像が切れた。
ザー…と、音が鳴る。
「…これは」
イクトの質問に、メイコが静かな声で返す。
「これは、初音ミクに入れられたプログラムが
異常をきたし、物を破壊する機能を得た可能性があるそうです。
一刻も早く初音ミクを保護しないと」
「保護って言うか、捕獲って方だと思うけどな」
レンが冗談まじりにそんな事を言うが、誰も反応しなかった。
「…どう、して」
クオが口を開いた。
「どうして、カイトが」
「其れは、それがしがかいと殿に頼んゆえにだ。」
全員が後ろを振り返る。
そこにたっていたのは神威がくぽだった。
だがその服は彼方此方が破けていた。
「がくぽ…」
記憶によみがえる、先ほどの映像。
カメラを持っていたのは彼だったのだろう。
「弐廻り前、 かいと殿は、初音みく捜索に合力してくれると申した!其れは、弐廻り前の映像だ。」
訳をメイコがしようとしたが、不必要だった。
「…カイトは、カイトはどうなったんだよ」
クオが立ち上がる。
「かいと殿は、それがしを、逃がす代わりに、 初音みくに捕ゑられたでござる・・
あの時あなしなければ、 両名とも破壊されてござったであろう」
「そんなの、唯の言い訳だ!―――何が侍だよ、神威だよ。
カイトを見捨てて逃げてきたくせに!」
「クオ」
青年がクオを止める。
「神威…がくぽ、だっけ?とりあえず家に来てくれ。お前、
あのDVDを見る限りまだマスターとかいないんだろう?」
「…そなたは?」
「俺?俺の名前は颯。」
「残念ながら俺の弟だ」
イクトが溜息をつきながら続けた。
「はいはい、不良な弟で悪ぅございましたね」
颯は鍵をクルクル回しながらイクトから視線を逸らした。
「…はやて、殿」
「やだなぁ、殿なんて付けなくていいんだぜ?」
「というか、むしろ呼びすt…だっ!」
颯が笑いながら、余計なことを喋り掛けたレンを裏拳で黙らせた。
「呼び捨てでいいの、呼び捨て呼び捨て」
「しかし…」
「大丈夫よ、マスターは心が広いから。」
メイコがそんな事を言って
がくぽを引っ張る。
「じゃあマスター、私は先に帰って彼に何か作るわ」
「あー、頼むよ。」
颯はメイコに鍵を投げる。それをメイコはキャッチすると
がくぽを引き連れてイクト家を出た。
「…それで、どうするんだ?」
クオが視線を颯に向ける。
「まず、巡音ルカを保護している人物の所へ行くべきだと思う。
そして事情を話して協力してもらう―――初音ミクの、捕獲に」
「すでに捕獲になってるね」
リンの呟きに、誰も反応しなかった。
「まず、初音ミクがルカを襲う前にルカの保護者と遭遇して、話を付ける。」
「…あては?」
「そんなもんねぇよ。唯、ルカの髪の色はピンク色だってから、
目立つから、ミクにすぐ見つかって襲われるんじゃないかと思って」
「ちょっとまってくれ。」
レンが声を上げる。
「ルカさんは、プログラム・インストール中だったんだろう?
――そして、脱走した。ルカさんは、初音ミクに狙われているって知ってんのかな」
「あ」
そうだ。とクオは思った。
情報をキャッチする機能がボーカロイドにはある(らしい)が、
プログラム・インストール中なら、その機能が入れられているのかは全く解らない。
入れられていないのなら、その保護者もその事実を知らない可能性が高い。
知らないなら、町をルカと一緒に歩いていて、初音ミクに襲われているかもしれない。
「じゃあ、もう手遅れ!?」
リンが声を上げる。
イクトも、颯もその結論に黙り込んだままだ。
「それはないよ」
クオが力強く答えた。
その声にイクトと隼人が同じ表情でクオを見やる。
―――何故そう言い切れるのか、と。
「アイツがなんとか初音ミクがルカを襲うのを阻止しようとしているはずだ。
…確かに俺はアイツの全部を知ってるわけじゃないけれど、でもアイツは、
人が困る事とか、見逃す奴じゃない。…だから、ルカを探そう」
「…そうだよ」
リンが呟いた。
続いてレンが叫ぶ。
「たしかにあのバカ兄はヘタレで馬鹿でヘラヘラしてて
馬鹿だし全然兄っぽくないけどな」
リンが馬鹿って二回言ってたよ、とレンに突っ込んだがレンは無視して続けた。
「でも、いくらヘタレだからっていって大変な事件を放置するとは思えない」
「そうだよ!レン。それにお兄ちゃんが暴走した妹を放置すると思えないもの」
イクトと颯は何も答えなかった。
「俺は諦めない、絶対ルカを探し出して、カイトも、初音ミクも助ける」
床においていたリュックを引っ手繰る様に背負うと、
クオは脇目も振らず玄関にはしった。
続
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