02
「これは、お前たちが生き残るための戦いなのだ」
 導師は僕らに常々そう言い聞かせてきた。
 このソルコタという国は、西側のコダーラ族によるソルコタ政府と、東側の導師の率いるカタ族による東ソルコタ神聖解放戦線に分かれ、僕らが生まれるずっと前から争い続けている。
 その理由は、僕には難しくてよくわからない。だけど導師が「あの政府は堕落した西洋の文化に染まった愚かな集団だ。あのような者たちにこの国の行く末を任せるわけにはいかん」と言っていたから、そうなんだろう。
 間違った政府を打ち負かして、この国を導師のものにしなければならない。
 銃も地雷も爆弾もいつだって身近にあって、兵士も戦闘もテロリズムも、同じように身近にあった。
 それらは僕らの日常だった。
 ここに無いものと言ったら平穏とお金と食べ物と水で、平和なんていう単語は、平和なんていう概念は最近まで知らなかった。
 それは僕らにとって非日常で、夢物語だった。
 僕らは知らない。
 戦争をしている訳を。
 いがみ合っている理由を。
 平穏が訪れる方法を。
 平和を実現する手段を。
 それでも僕らは、僕らの村でその日をなんとか必死に生きていた。
 メルカ村という、電気も通じていない、のどかな村だった。
 中央の広場には大きな木があって、それによじ登って遊ぶのが大好きだった。
 けれど、コダーラ族はなんにも悪いことなんかしていないメルカ村を焼き討ちにし、逃げ出すことができた数人以外を皆殺しにした。両親も親戚も友だちも、みんな奴らに殺された。
 遠目にあの木が燃えているのを見て、僕らは泣いた。
 でもすぐに、泣いている余裕なんてなくなってしまった。
 逃げ出した僕らも食料なんてなくて、必死に逃げる中、一人また一人と死んでいったのだ。
 なんとか東ソルコタ神聖解放戦線の元にたどり着いたとき、生き残ったのは僕と二歳年上のソフィアの二人だけだった。
 二人とも、餓死寸前だった。
 僕らは復讐を誓い、導師は僕らの復讐を手助けしてやると約束してくれた。
 武器の使い方を教えてくれて、ご飯も寝るところもくれた。
 東ソルコタ神聖解放戦線は、僕の家になり、導師は親となってくれた。
 東ソルコタ神聖解放戦線に参加し二年後、ソフィアは自爆テロに参加して死んだ。導師の側近と結婚し、子どもを生んだばかりだった。
 彼女は政府の重役一人と外国人五名を仕留め、大金星を上げた。
 素直に羨ましいと思った。
 奴らに一矢報いることができたソフィアに。
 僕もソフィアに負けていられない。
 復讐を果たすために。
 コダーラ族を根絶やしにするために。
 この国を導師のものにするために。
 これは、僕らの独立戦争なのだから。

ライセンス

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イチオシ独立戦争 2 ※二次創作

第二話

最早恒例の背景説明回。
ただし、主人公の把握している限りの範囲での話ですが。

こんな状況が“当たり前”になっている人たちが、世の中には存在しています。
その現実に、なにか感じるものがあればいいなと思います。

閲覧数:24

投稿日:2018/08/25 18:09:51

文字数:1,139文字

カテゴリ:小説

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