注意:実体化VOCALOIDが出て来ます。
オリジナルのマスターが出張っています。
カイメイ風味が入って来ると思います。
苦手な方はご注意下さいませ。
最初はメイコだけだった。
一週間経って、カイトがこの家にやってきた。
そしてそれから半年して、初音ミク、鏡音リン、鏡音レンが家へと招かれ。
更にその五ヶ月後、巡音ルカもまた、この家の一員となった。
ヒトのための歌を歌うために、ヒトに限りなく近く作られたVOCALOIDたち。
三年ほど前のメイコを初めとして、最終的に六名のVOCALOIDを次々に迎え入れたマスターの名前を、西原紫苑、という。
双方共に音楽家であった両親を亡くし、歳の離れた妹と別々に暮らしているマスターは、まるで「家族」であるかのようにVOCALOIDたちと接している。
ただ。メイコとカイトに対しては、マスターである紫苑は特別の思い入れがあるようで。
梅雨も最中のある蒸し暑い日。新曲の練習に熱中して、防音の練習室にこもりっぱなしだったメイコは、夜も遅くなってからその部屋を出た。少しだけ考えて、水分補給のために居間の奥にある台所を目指すことにする。
メイコが居間のドアを開け放つと、ふわっとアルコールの香りがあふれ出してきた。
「うわ……」
思わず呟きながらも居間を覗き込み、目に映った光景に、メイコは思わず眉根を寄せる。
居間にはメイコの「家族」が勢揃いしていたのだ。予想外すぎる状態で。
「……なにこの宴会状態」
「あ~、お姉ちゃん~、おつかれさまでぇすっ」
無意識の内にこぼしていたメイコの声に真っ先に反応したのは、緑の髪の歌姫、初音ミクだ。居間の中央にあるテーブルにぐったりともたれていた身体を引き起こしてメイコの方へ向き直る。
金の髪の歌い手たち、鏡音リンと鏡音レンは、居間の隅でクッションに埋もれて寝ている。お互いの手を握り合っている辺りが微笑ましい。
青い髪の歌い手、カイトに至っては、大の字になって床に倒れていた。
「っていうかカイト大丈夫なの?!」
「ああ、単なる飲みすぎだ。寝ているだけだから安心しろ」
隣からミクを不安そうに見守っている桃色の髪の歌姫、巡音ルカが、メイコに向けて言葉だけを投げる。
「おつかれさま、メイコ。あまり気を張り過ぎなくても良いよ?」
そして、メイコに新曲を与えたマスター、西原紫苑が、テーブルの奥から声をかけた。
「あ、いえ、……歌いたかったもので」
「ならば良いけれどもね」
マスターである紫苑の笑顔につられるように、メイコもテーブルに近付く。カイトのそばを通る時にその顔色をうかがって、安堵のため息を落としてから、空いた場所に腰かけた。
ミクが嬉しそうに空のグラスを掲げる。
「おねーちゃんも、のみまっしょ~!」
「……ミク。それじゃただの酔っ払いだ」
「む~、なんですか~、私が飲んでいるのはジュースだって言ったのはルカじゃないですか~」
「まあ、そうだが。とりあえず落ち着け」
「わぁたぁしぃはっ、落ち着いてますよ~だっ」
テーブルを叩きながら力説をはじめたミクはどう見ても平常ではない。ルカが困惑した表情でメイコに目線を投げる。メイコも苦笑しながら紫苑に視線を移した。
リレー形式で助けを求められた紫苑は、軽く笑ってからルカに顔を向ける。
「ルカ。ミクを部屋へ送って行ってあげなさい」
「ま~すた~までぇ、私をのけものにするんですか~? ひどいですよぅ」
ミクがくちびるを尖らせて訴える。紫苑が柔らかく細めた眼差しでミクを見た。
「のけものではなくて、お前を案じているのだよ。メイコはミクの分も合わせてわたしがたっぷりねぎらっておくから」
「う~……」
「ミク。リンもレンも寝てるし、夢の世界で三人で遊んでらっしゃい」
メイコの言葉にミクが顔を輝かせ、隣のルカの袖を引いた。
「じゃあ、ルカも~」
「私もか?」
「一緒に寝ましょうっ」
「っ……そ、うだな」
少しだけ躊躇ってからルカが立ち上がり、ミクに手を伸べる。ミクは嬉しそうに笑ってルカの手を借りて立ち上がった。
「ルカ、大丈夫?」
唐突なメイコの言葉に、ルカは驚いたように目を向けつつ、足元の覚束ないミクを抱き寄せる。
「まあ、本当に飲んだわけでなし、大丈夫だろう」
決められた台詞をなぞるようなルカの声。立ち上がろうとしたメイコを目線で制して、小さく首を振る。
「メイコはカイトの心配をしてやれ。私は、大丈夫だ」
「ルカ……」
「ミク、歩けるな?」
「はぁいっ、ばっちりです!」
「良し。マスターもメイコもほどほどにな」
断ち切るように目線を外して、ミクと共にルカは居間を辞した。ぼんやりと見送るメイコの耳に小さな硬質音が届く。
「梅酒で構わないかな?」
慌てて振り向いたメイコの視界に、グラスに氷を落とし込んでいる紫苑が映った。
「っあっ、すみません自分で……!」
「いやいや、良いよ。ただしばらくはひとりで飲んでいてくれるかな?」
「え?」
琥珀色の液体が注がれ、氷が踊ってグラスと歌う。涼やかな音色にメイコが瞳を細めて聴き入る。
「カイトは流石に無理だけれど、リンとレンは運べるからね。このまま目を覚ましたらレンがどっぷりと落ち込むだろうし」
「……あ、確かに……」
氷の音と共にグラスを差し出し、紫苑が優しく笑う。メイコも微笑みながらグラスを受け取る。
「では、お言葉に甘えますね」
「ゆっくりしていなさい」
紫苑が立ち上がる。リンとレンの繋いだ手を間近で見て、少しだけ間を置いて。
「あ、メイコ」
「はい?」
「さっきの今ですまないけれど、少しだけ手伝ってくれないかな?」
きょとんと見返すメイコに、紫苑が手伝って欲しいことを口にした。
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