注意書き
■リンレンリン。
■単にいちゃいちゃしてるだけ、そんだけ。







 キッチンから聞こえてくる音と香ばしい匂いで目が覚めた。
 今朝はレン、コーヒー淹れてるんだな。
忙しい朝はインスタントの粉にお湯を注ぐようなことが多いが、今日のように何も予定の無い朝はこうして彼は丁寧にコーヒーを淹れている。
「おはよ」「おはよ」
 レンはちらっと私を見て、もうすぐ出来るから座ってなよと言って、私に背を向け冷蔵庫を開けて牛乳と卵を取り出す。牛乳はほうろう引きのミルクパンへ、卵は割られて軽く混ぜられ黄色いフライパンへ。
 私はカウンターに両肘をついて顎をのせ、その作業を見ていた。
「ひとが料理してるの見てて楽しいの?」とレンには不思議がられるが、私はキッチンで何かしている彼を見るのが好きだ。特に今は。
 あの日、キスされて以来、まともに彼の顔を見ていられない。だからこんなふうに私に背を向けてくれてるほうがいい。そしたら私は私の好きな彼をずっと見ていられるから。
 それにしてもあんなふうにキスしておいて、レンはいつもどおりだ。私のこと好きって言ってたよね、あの日私のベッドの上で。肩越しに見えた夕焼けの空の色も湿った唇の感触も息の柔らかさも憶えてる。こんなにしつこく思い出してるのは私だけなの?レンはああいうの慣れてたの?

 「出来たよ」
 目の前にマグカップが置かれて回想が中断された。もっと小さい子供の頃から大事に使ってる、ピンクのクマがついてるいつものマグカップ。
「ありがと」
「どうしたの?朝から難しい顔して」
あの日のキスのことを思い出してたなんて言えない。
「えー?難しい顔なんかしてないよ」
「そう?ならいいけど」
他愛も無い会話。いつもとおんなじ。私は出来たてのカフェオレの入ったカップに口をつけて、
「あつっ」
「まだ熱かった?」
レンは私のマグカップのカフェオレを一口飲んだ。
「あー、ごめん、まだ熱かったね」
「ひどいー、私が猫舌なの知ってるくせに。熱いよぉー」軽くすねてみる。
 すると、彼は立ったままもう一口私のカフェオレを少し口に含んだ。そして私の頭の後ろに手を回して私を軽く上向かせて。
「!」
 口に甘い液体が入ってきた。
 口移しでカフェオレを飲まされたと気づくまでにたっぷり5秒はかかった。
「これでちょうどいい?」唇と唇が触れるか触れないかくらいのところで彼に囁かれた言葉。私は小さく頷いた。
 ものすごくどきどきしはじめた。なにこれ、これもキスなの?甘くて柔らかくて頭の芯がとろけそう。
「もっと飲む?」
 私は目を閉じたまま、もう一度頷いた。
「ちゃんとオレを見て言ってよ。もっと欲しいって」
「…だめ…」
「言ってよ?」
 促されて、恥ずかしいのを堪えて彼を真正面から見た。私今どんな顔してるんだろう。
「…もっと飲ませて?」
 それから、私は一杯のカフェオレを、マグカップを持つことなく飲み終わってしまった。何回したんだろう、キス。もう数えていられなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ちょうどいい温度

私はブラックしか飲めないけどね…。
格好つけてるんじゃなくて、甘い飲み物全般が苦手で飲めないだけです。

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4-320さん、ご堪能いただいたとのメッセージ、嬉しいです。ありがとうございました。
アルコール含め甘い飲み物は飲めない私ですが、甘めの妄想を文章にするのは大好きです。ふと我に返るととても恥ずかしいですが…。

閲覧数:4,351

投稿日:2009/01/17 07:14:08

文字数:1,259文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • 軽蛾

    軽蛾

    ご意見・ご感想

    ちょ///めちゃドキドキしてしまったやないですか!ww
    小説作るのほんとうまいんですねー(^^
    感心しちゃいました☆

    2010/05/05 01:34:25

  • 4-320

    4-320

    ご意見・ご感想

    『手紙』とつづけて読ませていただきました。
    甘いの苦手なんて嘘だ!! ……あ、飲み物だけか。
    甘い二人を堪能させていただきました

    2009/01/17 08:26:21

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