僕の学校は、非常に変な形をしている。
芸術家の人が設計をしたという校舎は何故か半円形で、それに合わせて教室も区切られているから、まぁ、はっきり言って使い辛い。
1組の隣が3組だったり、大きな特別教室の前にぽっかりと謎のスペースが空いたりしていて、色々謎の多い部屋配置がされているのだが。
当然、トイレも妙な場所にあるのだった。
特に1階、食堂の近くにあるトイレは、校舎の一番奥に半ば壁で隠れるように設置されている。あまり人が訪れないので、昼間でも灯りが消えていることが多い少し不気味なトイレだ。
必然的に、そのトイレには色々と妙な話があって、僕は今までそれらを、話半分に聞き流していたのだけれど…
あまり人のいない日曜日の校舎を、僕は足早に歩いていた。
新着図書の仕分け、という、気乗りのしない仕事を何とか終えた後だった。
最近入ってくる本はラノベばっかりだよなぁ…まぁ、ラノベは面白いけど、図書室がラノベばっかりになるのは、何か、どうなんだろう…?
何とも言い難い気分になりながら、僕は同時にかなり焦っていた。
…トイレに行きたかったのだ。
膨大な量の本を整理している間は、忙しさのせいであまり気にしていなかったのだけれど、終わった瞬間トイレに行きたくなってしまった。
一番近いトイレは…あそこか…
場所を思い出しながら、少しためらってしまう。
食堂近くのトイレ。僕も入学してから1回しか行ったことのない、薄暗いトイレ。
特に今日は日曜日だ。食堂も閉まっていて、当然灯りも消えている。
あんまり、行きたくはないよなぁ…
迷うが、迷っても一番近いトイレはやっぱりあそこだったし、他のトイレに行く余裕は正直なかった。
僕は仕方なく、その怪しいトイレに向かう。
近づいてみると、何故かそのトイレに至る廊下も灯りが消えていて、不気味極まりなかった。
内心うわぁと悲鳴を上げながら、迫る尿意に急かされるままにトイレに急ぐ。
怖すぎるので廊下の灯りをつけて、思わず男子トイレだけでなく女子トイレの灯りもつかながら、トイレの中に足を踏み入れる。
中は、当然だけれど、普通のトイレだった。
むしろ他のトイレよりも清潔で、場所がこんなに奥まっていなければ普段から使いたい位だ。
本当、場所が悪いんだよな、場所が。
思いながら、小便器で用を足す。ほ、と体の力を抜く。
すると、不意に、奥の個室でカラカラとトイレットペーパーを巻く音がした。
あぁ、誰か入っていたのか。何気なく思って、瞬時に背筋が凍りつく。
…誰が、入っているというんだ?
僕が入ってくるまでトイレの灯りは消えていた。
僕が入った後も、誰かが入って来た気配なんてなかった。
…誰が、いる?
僕はノロノロとズボンを直すと、ゆっくり後ずさる。
個室の中を確認する勇気なんて…ある訳がない。
じりじりと下がって行く。じりじりと、ゆっくりと、音を立てずに。
足がトイレの出入り口に差しかかった、その時。
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!!!
「…っ!!!!!」
突然、個室の中で激しい音が響いた。凍りついた僕の目の先、水を流す「ジャー…」という音も聞こえてきて、
カタン…
…鍵の開く、音がした。
その音を聞いた瞬間、まるで呪縛から解放されたかのように自由になった足を動かして、僕は一目散にトイレから飛び出す。
後ろは決して、振り返らなかった。
…後日、怪談話に詳しい先輩に話を聞きに行くと、彼女は少し考えて、こう言った。
「…あのトイレについては、色々と妙な話を聞くけど…後輩君みたいな話は初めてね」
「…他にもパターンがあるんですか?」
「パターンっていうか、ね。まぁ、これはあくまでも私の推測なんだけど…」
先輩は僕の顔をじっと覗きこむようにして、淡々と言葉を続けた。
「あのトイレは、入った人によって違った怪談が起こる…そういうトイレなんだと思うの」
「え…」
「むしろ、良かったね。ちょっと驚くくらいで済んで」
言葉を失った僕に、先輩は優しそうに唇を吊り上げた。
食堂奥、昼間でも人の寄りつかない不気味なトイレ。
僕がその後、あのトイレに決して近づかなかったのは、言うまでもない…。
<FIN>
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