「戦場の歌女神」のおまけ話です。
今回は三人称でカイミクというか、アホの子兄妹みたいな話ですが…。
ピコピコと白と緑が揺れている。
隣に座ってネギを振るう妹を、カイトは目を細めて見ていた。マスターのミクへのお土産は、食用ネギが三種類とネギを模した玩具だった。ミクは特に玩具が気に入ったらしく、先程から振ったり撫でたり抱きしめたりと忙しい。
「お土産、良かったね」
「うん、とっても可愛い。お兄ちゃんもそう思うでしょ?」
蕩けるような笑顔を向けられ、ネギの可愛さは正直微塵も理解できなかったがカイトは躊躇なく頷いた。
「うん、すっごい可愛いね」
ミクが。と、胸の中で付け足すシスコン・ボーカロイド外見年齢二十歳過ぎ。
第三者が見ていたら、生温い笑顔で見守るか、頭痛を覚えるしかない光景だ。
幸い、メイコとマスターは台所でツマミを制作中だ。作りながら呑んだりしているので、まだ居間には戻る気配がない。
「カイトお兄ちゃんも、アイス沢山で良かったね。でも食べ過ぎたらお腹壊しちゃうから気をつけてね」
「ははは……ありがとう、気をつける。痛いのは、嫌だしね」
答えるカイトの前には、既に空のカップが三つ転がっている。ホームパックも一気食いできた過去を思えば、腹痛の恐れはなかったが、同時にその時メイコに貰った拳骨の痛みは今も戦慄を呼び覚ます。
「……う、思い出すと古傷が疼く」
そっとカップをゴミ箱に片づけたカイトは、妹の様子に首を傾げた。
ご機嫌でネギをピコピコさせていた筈なのに、しょんぼりと俯いている。長い翠の髪が横顔にかかって、表情がわからない。
「ミク? どうしたの、もう疲れちゃった?」
ミクは小さく頭を振るが、俯いたままだった。
考えてみれば、ミクは初めての実戦だった。張り詰めていたものが切れて疲れが急に出たとしても不思議はない。
気遣いが足りなかったと狼狽えて、カイトは妹の肩に手を添えた。
「部屋に戻って休む? それとも、具合が良くないならマスターにチェックしてもらう?」
不意に、小さな手がカイトの袖を掴む。
「……ごめんなさい」
言われた台詞よりもその声音が滲んでいた事に、カイトは酷く動揺した。
「え、ミク何処か痛いの!? ケガしてるの!?」
焦って顔を覗きこむと、潤んだ翠から滴が零れた。
「わ、私じゃなくて、お兄ちゃんにケガさせちゃった。ごめんね、痛かったよね」
「……へ?」
ぽかんとしたカイトの袖口を握りしめたミクが、泣きながら訴える。
「私が、ちゃんとしてたら、お兄ちゃん痛い思いなんてしなくて良かったのに、ごめんなさい」
翠の視線を追うと、自分の肩口にぶつかった。真剣にメモリを探ってカイトは妹が何を言わんとしているのかようやく理解した。
「……あ、ケガってあの掠り傷?」
今日の戦闘で確かに肩にかすったが、治療もいらない位の軽症だった。コートは自己修復機能により傷も残っていないし、カイト自身もほぼ完治している。
「あれなら、平気だよ。たいした怪我じゃないし、何なら肩見てみる?」
ミクは大きな瞳をまるくして、こちらを見ている。返事はないが、とりあえず涙が止まった事にカイトは胸を撫で下ろした。
「痛く……ないの?」
「うん、全然」
答えた瞬間、翠の双眸からまた涙が溢れた。
「って、ええっ!?」
再びパニックに陥ったカイトの胸に、小柄な身体がすがり付く。
「よ、よかった、お兄ちゃんずっと痛いのに我慢してたのかと思って、私のせいだからどうしようって」
しゃくりあげながら告げられた言葉に、蒼い瞳が細められた。
「ごめん、心配させたんだね。僕は本当に大丈夫だから」
そっと背中を抱きしめると、腕の中でミクが小さく頷く。カイトは妹が泣き止むまでずっと、腕をほどかなかった。
ちなみに、あれだけ騒げば当然ばれる。一部始終をばっちり見ていた二人に、何故カイトが怪我を我慢していたと思い込んだのかと問われたミクは「お兄ちゃんが、古傷が痛むって」と原因を語った。
「……なるほど、元凶はあんたね」
メイコの笑顔は凄絶に美しい。背後に焔が垣間見え、カイトは後ずさったが生憎すぐに壁だった。
「よし、ミクはレッスンするか。俺が見てやるからな」
「え? でも、お兄ちゃんとお姉ちゃんが」
「あの二人なら大丈夫。マスターの言うことを信じなさい。ほら行くぞ」
「は、はい、マスター」
マスターに連れられ、カイトの希望が消えていく。
「めーちゃん、落ち着いて。ほら、そんな怖い顔したら小皺が増えるよ」
自ら墓穴を掘った事に気づいたのは、姉のこめかみから何か音が聞こえた後だった。
久しぶりに鉄拳制裁フルセットを喰らったカイトは、真の恐怖がどのようなものか身を持って実感したのだった。
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