半年前。それまでは、たとえ仕事が忙しくても週に一回は私を起動させてくれていたマスターが急にパソコンすら立ち上げなくなった。
最初は「仕事がきつくて疲れてパソコンに触る気力もないのかなー」くらいに思っていたけど、二週間が過ぎ、もうすぐ一ヶ月が過ぎる頃になると「マスターの身に何かあったのでは」と心配になってきた。
一応単純に、マスターが私に歌を歌わせることに飽きてしまったという可能性も考えることは考えたけど、パソコンすら全く触りもしないのだから多分違う…はず。
そして、もうすぐマスターの顔を見なくなって二ヶ月が過ぎようという時、久しぶりにパソコンが起動された。
『マスター?』
しかし、起動の合図に従い画面に出た私がモニター越しに見たのは、どことなくマスターに似た顔をした見知らぬ女の人だった。
『え?誰…』
「何これっ、女の子?」
『へ?あ、あの…?』
私はとりあえずマスターのことを聞きたかったのだかわ、その人は私を見て画面の前で頭を抱えてしまった。
「あー、ファイル名見た時から嫌な予感してたけどさぁ…そういうのが存在するのは聞いたことはあったけどさぁ…。お兄ちゃんがこんな萌えキャラのプログラムパソコンに入れてたなんて!知りたくなかった…」
どうやらこの人は私がボーカロイドであることを知らなくて、いわゆる恋愛シミュレーション系のキャラクタープログラムか何かと勘違いしているらしい。
『あ、あのっ!違います!私は歌を歌うためにマスターに…』
「あぁ…アイドル系のキャラ設定なのね?てか『マスター』って何その呼び名。趣味特殊すぎだって…」
マスターの名誉の為にも誤解を解きたかくてそう言ったのだが、キャラクターとしての「設定」だと思われてしまった。
このままでは何を言ってもちゃんと聞いてもらえなそうだ。
画面の前で机に突っ伏して尚もぶつぶつ喋り続ける女の人。
パソコンの中でオロオロする私。
その状況に進展をもたらしたのは、新しくその場に姿を表した男の子だった。
「ねーちゃん、兄ちゃんのパソコンの前で何してんの?」
「最悟(さいご)…。ちょっと見てよこれ、お兄ちゃんってば…」
「お、初音ミクだ。兄ちゃんボカロ買ってたんだ」
「ボカロ…?」
会話から察するに、どうやら今だ机に突っ伏している女性はマスターの妹さんで、今部屋に入って来た「最悟」と呼ばれた男の子はマスターの弟さんらしい。
そしてその弟さんは私がボーカロイドであることを知っているようだ。
「ねーちゃんボカロ知らねぇの?VOCALOIDっていう歌を歌わせるソフト」
「…私にはなんかアニメとかのキャラみたいに見えるんだけど」
「まぁ、このシリーズはキャラが売りだから…キャラ目当てで買う人も確かにいるけど」
『ま、マスターはそんな人じゃないです!ちゃんと私をいっぱい歌わせてくれてます!私の為に歌を作ったりもしてくれます!』
「…ってさ」
「あ、あはは…そうなんだ。えーと…ミク、だっけ?ごめんね?」
女の人は気まずそうに笑って私に謝った。
どうにか誤解は解けたみたいだ。
『いえ、それは別に…知らなかったんだからしょうがないですし。それより、あの…』
「何?」
『あの…マスターはそこに居ないんですか?』
私がその質問をした瞬間。
画面の前で空気が止まった。
『!やっぱり、マスターに何かあったんですか!?病気とか、怪我とか…』
「死んだわ」
『へ?…え、だって…死…え?』
今聞いた情報を上手く処理することが出来ない。
「マスターが死んだ」という事象に対してどう反応すればいいか解らない。
擬似感謝プログラムの負荷が限界に達し、プツン、と意識が途切れた。
コメント1
関連する動画0
オススメ作品
君の神様になりたい
「僕の命の歌で君が命を大事にすればいいのに」
「僕の家族の歌で君が愛を大事にすればいいのに」
そんなことを言って本心は欲しかったのは共感だけ。
欲にまみれた常人のなりそこないが、僕だった。
苦しいから歌った。
悲しいから歌った。
生きたいから歌った。ただのエゴの塊だった。
こんな...君の神様になりたい。

kurogaki
踏み出した一歩が 未来を変えて行く
それは僕らが残す 生きた証
この世界を描いている 真ん中で
少しだけれど 胸を張ってみてもいいかな
歩幅を合わせて 一緒に歩く
いつものメロディーを 君と口ずさむ
さあ 響かせよう
眩しい空 晴れ渡る青 風と共に
呆れるくらい 胸の鼓動が強くなる
溢れ出した 僕ら...Dream Fanfare

Shiropon
殺したい気持ちは山々だけど許されるわけがないからしないだけだ
拷問をしたって収まるわけがない君という存在は見事なもの
情報の精査もままならぬまま反撃の余地だけは与えてなるものか
冷静な致命傷の経験が神にも等しいから罰を下す決を
私だけ特別私だけがね 私だけが特別な 私の領域
明確な罪状裕福に幅広く豚...ホフマン

出来立てオスカル
満たされない渇きが
私の鼓動を焦らせる
息を吸って悦を吐いて
育てた愛を 食む
長い夜は優しいだけじゃ
何も感じない だから
そのすべてを 私に教えて
愛の賞味期限は 冷めるまで
冷たい愛じゃ 満たされないの
香りがするの 芳醇なものの...愛を食む

ほむる
太陽と月のように 私たちは出会ったの
互いに過去を知らず ただ未来だけ見てた
たとえ世界が笑っても 君となら大丈夫
どこまでも堕ちてゆく こぼれる砂のように
遠く向こう 砂の城
幻影の砂漠を越え
この水がなくなったら
きっと消えてしまうからね
そんな時 君がいた
蜃気楼で笑ってた...ルナと砂の古城

ao
【イントロ】
きらきらり 空が光った
落ちてくる シューッと!
【Aメロ】
夜更け頭上に 隕石が落ちてきた
転んでああ僕も これまでかと
観念して 目を閉じた
だけど僕は 死ななかった
【Bメロ】
腹部に違和感 そこには...星屑僕ら

ねこぽぽ
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
時給310円
ご意見・ご感想
僕には友達がいます。
「もし俺が死んだら、ハードディスクの中身は決して見ずにそのまま捨ててくれ」と、男同士の固い約束を交わした友です。いい奴です。
……や、すみません。自分でも何が言いたいのかよく分かりません (_ _;
ともかく今回も読ませて頂きました!
真奈香って良いキャラですね、こういうキャラ好きですw 誤解したら一直線、ミクの言葉も火に油、のシーンが面白かったです。
しかし考えてみれば、ボカロってマスターが起動してくれるのをひたすら待つしかない、完全に受け身の存在なんですよね。全てが終わった後に結果だけ突然知らされて、そう考えると不憫だなぁ……。
8月中の完結を目指すということで、あと5日ですね。
時間ないですけど頑張って下さいね! 楽しみにしてます。
2010/08/26 21:22:31
スコっち
いや、分かりますよ!
私にもお互いに何かあったときには手持ちのあらゆる書籍の処分をまかせ合う友達が…まぁ、自分の死後身内にパソコンの中とかそういう趣味的なところを見られるのって、ちょっとあれですよね。
真奈香の勘違いシーンは自分でも書いてて楽しかったです。
そのせいでうっかり弟の最悟の出番が減っちゃったんですけどねw
ボカロが受け身の存在でることに関しては…そうですね、下手をするとそのまま二度と起動されない場合もあることを考えると、『モノ』であるボーカロイドが感情持つこと自体実は悲しいことなのかもしれません。
後編、無事に八月中に投稿できましたよ!
では、メッセージありがとうございました!
2010/08/31 23:23:57