一方、沢口は雅彦から借りたライブのデータを見ていた。データの名前からすると、ライブのデータは数年前のものらしい。ライブは音楽だけでなく、映像も併せて見ないといけないため、小説を書きながら平行して見るという訳にはいかなかったが、沢口はそんな半端な気持ちで見てはいけないものだろうと思っていた。ライブは始まる前の映像から始まっていたが、最初に見た印象は、確かに緑色のペンライトは必要であるということだった。客席を覆うように緑色のペンライトが見えたからだ。しばらくすると、会場からミクを呼ぶ声が聞こえてきた。沢口はミクのコンサートだから、ミクが出てくるのは当たり前なので、ミクを呼ぶ必要はないと思っていたが、雅彦からのメールには、これはミク召喚の儀式で、ミクのライブには必ず起こるものであると書いてあった。だから、そういうものなのだろうと考えた。そうしていると、やがてミクが出て来た。その様子は、世界を股にかけるスターの名にふさわしいものだった。
(ミクさんは全然違って見えるな)
雅彦と一緒に喫茶店で会った時に抱いた印象とは全然違う。喫茶店で会った時は、少女の面影を残していたが、ライブの会場では歌手であり、同時にスターでもあり、さらにエンターティナーの一面を見せていた。さすがにプロだと、沢口は感心した。会場ではミクは色々と衣装を変えていた。バリエーションも様々である。雅彦からのメールによると、これはホログラフィーを使った技術で、実際に着ている訳ではないらしい。しかし、会場で色々と動くミクに合わせるため、かなり高度な技術を使っているとメールにはあった。
(あと、観客の動きも面白いな)
メールには、一部の曲は観客も歌に合わせて合いの手を入れる曲があるとのことだった。実際にライブを見ても、合いの手らしき音声が入っているのが確認できた。ライブは事前にどの曲が流れるかは秘密らしい。ということは、その場で曲に合った合いの手にしないと駄目だということだ。沢口は、ミクファンの知識の豊富さに驚いていた。
そうこうしているうちに、ライブ映像は終了した。しばらくぼーっとする沢口、沢口はライブの映像を見るのは初めてだった。昔から本一筋の生活であり、音楽とは無縁の生活だった。しかし、ミクのライブを見て、音楽というのも良いものだと思うようになった。生まれてきて音楽にほとんど触れていなかったのがもったいない気がした。それに、ライブも新鮮だった、映像でこれだけ凄いのなら、実際にライブにいった時は凄まじいだろう。そう考えると、沢口はがぜんライブが楽しみになって来た。
(もっと、ライブを見たい)
沢口は最初は今日はライブを一つ見たあとは、本業である小説の執筆に戻ろうと思っていたが、ライブを見たあとは、その予定が消し飛んで、また他のライブも見たくなった。幸い雅彦が貸してくれたライブのデータは一つではない。もっと見れば、もっと楽しいだろう。そう思い、次にどのライブの映像を見るか物色し始めた。沢口も完全にミクの魅力に取りつかれたようだった。
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