「さすがカイトさん。ご賢明な判断です」
「それで、俺はどうすればいい?」
嬉しそうなカムイに、ぶっきらぼうに話すカイト。
「私達の言う事に従っていただければいいだけです。どうぞ、こちらへ」
さして気にする様子などなく、カムイは手を差し伸べた。
ルカはカムイから離れ、暗がりから何やら取り出し、準備を始める。
警戒しながらも、二人に近付くカイト。カムイが差したところには、先ほどまで暗がりで見えなかったが、よく見ると床に赤いラインで不思議な絵のようなものが描かれている。
そのさらに外側に設置された燭台に、ルカが火をつけてく。
「そのサークルの中心に立って下さい」
言われるまま、カイトはその場に立つ。
カムイは懐から、彼の手のひらに収まるくらいの大きさの本を取り出した。
「これから、神の力を宿す儀式を行います。カイトさんは心を安らかにしていてください」
そう言って、本を開く。
「これが終わったら、どうするんだ?」
「終わった後にお話しします。今は、私達の研究にお付き合いください」
カイトの質問に、やや口調がきつくなるカムイ。真剣そのもの、といった感じだろうが、ルカ同様、異様な雰囲気を漂わせている。
「カイトさん、これを持って下さい」
火を灯し終わったルカが、カイトに古びた杯を手渡す。中には薄い紅色がかった透明な液体が入っている。
「これは?」
「お酒です。聖水のようなものとお考えください。合図をしますから、その時に飲み干して下さい」
「……」
疑いのまなざしで、その酒を見つめた。水面には自らの顔が映り込んでいる。
「では、始めよう」
カムイの言葉にルカはうなずき、カイトから離れた。二人は描かれた円の外側で、カイトを左右から挟むような形で立ち、向かい合う。
ルカも本を取り出し、開く。そして、二人は同時に何かを呟き始めた。
(な、なんだ?)
祈りの言葉のような、しかし言葉とは程遠い音で、歌いあげるように紡いでいく。まるでそれに反応しているかのように、燭台の炎が揺れ始める。
その異様な音に、カイトは少し寒気を覚えた。
(……気分が、悪くなる……)
紡がれ続ける音を聞き、だんだん心がざわついてくる。
そして、唐突にそれが途切れた。
「……?」
思わず二人を交互に見る。虚ろな目が、カイトを見つめていた。
そして、ルカがあいてる手をすっと伸ばす。手のひらを返し、合図をする。
(これを、飲めということか)
杯に目線を落とす。カイトは毒でも入っているのではと疑ったが、それを飲ませる為にこんな手の込んだ事をするとは思えない。
「――」
勇気を出し、目をつぶって一気に飲み干した。
酒独特の香りと刺激が口内に広がり、鼻を抜けていく。液体の冷たさが喉を通っていくのが分かる。
カイトが酒を飲んだのを見届け、二人は再び歌いだす。
「!?」
その瞬間、急に喉が熱くなった。
カランッ
乾いた音を立て、杯が床に落ちる。カイトは両手で喉を押さえた。
「う……ぐ……」
二人の声がどんどん大きくなるにつれ、カイトの心がかき乱されていく。さらに、身体中が熱くなり、まるで火の中にいるようだった。
「や、やめろ……!」
その音を聞くまいと、両耳をふさぐ。しかし、それはますます大きくなるばかりだ。
「うぅ……あああ……!!」
ボタボタと汗を振り乱しながら、カイトは膝をつき、苦しむ。
頭の中で、二人の声がガンガンと反響する。
意識が、精神が、何かに浸食されていく恐怖が襲う。身体を突き抜けんばかりに、心臓が脈打つ。
身体の異変に、カイトはもう何も考える事は出来ず、もがいた。
「うあああああああああああ!!!」
カムイ達の声をかき消すかのように声を上げ、カイトはそのまま倒れ込み、意識を失った――。
まぶたの上から照らされる光に眩しさを覚え、ゆっくり目を開ける。
「ん……?」
霞む視界に、赤い光が差し込む。
目をこすり、身体を起こした。ふわっと、手触りのよい赤い絨毯が広がっている。
立ちあがって、辺りを見回した。
「ここは……?」
細かい細工が施されたステンドグラス。赤で統一された広い室内。差し込む光は強く眩しいが、温かさは感じられない。
「さっきの場所じゃないな……」
ルカとカムイの姿がない。カイトは自らの身体を確認するように、足先から手のひらまで視線を流す。
「生きて、るよな?」
両手を握ったり、開いたりし、感覚を確かめる。
すると、遠くで音がした。
「――誰だ? ……え?」
振り向くが、誰もいない。しかし、ハッキリと声がする。
「まさか、そんな――」
周りには誰もいない。姿も、音もしない。
だが、カイトには〝それ〟が聞こえていた。
「……本当に、神なのか……」
独り言のように、語りかける。まったくの無音だが、カイトは対峙する神と会話をしていた。
「――……、そうか、そういうことか……」
驚きの顔から、悲しみ、そして憎しみへ――。
「ああ、望むよ。その力を、あの世界へ!」
剣を抜き、差し込む光へと掲げる。
ガガァァン!!
閃光と共に爆音が鳴り響き、カイトの意識は再び闇へと沈んで行った。
その昔、まだ神と人が共存していた頃。精神を共有し、心を繋げる事が出来る人間達がいた。
神の力に依存し、生活していた人々だったが、やがてその力を脅威と捉えるようになった。そして、神々に対抗するため、神の力を盗み出す事にした。
心の欠片を贄とし、神にささげることで忠誠を誓い、空いた心にその力を宿したのだ。
そうして多くの神の力を手に入れた人々は、神に反旗を翻し全滅させ、人類だけの世界を作った。
「まさか、それが実現できるとは思っていなかったよ」
手にした書物に目を通しながら、カムイは嬉しそうに言う。
「全滅した神は、人々に物理的な干渉が出来なくなったと言うだけで、精神世界では健在であるという仮説も、証明できましたね」
ルカはノートに何かを書きこみながら、答える。
インタレアにある、二人の研究所。所狭しに古い書物や文献がならび、または散らかっている。
ノルクトンにて、カイトを協力させることに成功し、無事に神の力も宿す事が出来た二人は、インタレアへ帰還していた。
「君の功績が認められる日も近いな」
カムイの言葉に、ルカはふふっと笑う。
「これで、作戦が順調にいけば、言う事ありませんね」
「そうだな。ヴェスリトンは間もなく落ちるだろう。あとはカイトが上手くやってくれれば、だな」
手にした書物を閉じ、棚へと戻す。
「しかし、人と言うのは恐ろしいな。驚異的な力を手に入れた途端、ああも変わってしまうのだからな」
儀式が終わり、意識を取り戻したカイトは、まるで別人のような目つきをしていた。手に入れた力を目の前で披露し、哄笑したのだ。
「礼代わりだと言ったが、すんなり私達に協力してくれるとは思わなかったよ」
「すんなりしすぎて、ちょっと怖いですけど」
明るく話すカムイに対し、書いている手をとめ、少し不安をのぞかせるルカ。
「メイコさんの事を知ったら、私達殺されるのではないでしょうか?」
カムイへ振り向いて問う。
「漆黒の民族でも見つけない限り、危険な気がします」
伝説では、神の生まれ変わりを魂に宿した漆黒の民族のみが、神の力を手にした人間を打つ事が出来たと言われていた。しかし歴史上で、その民族は絶滅している。
「大丈夫。そこは手を打っているさ」
そう言ってルカに近付く。
「今回の作戦はまず、ノルクトンで特に勢力のある第一騎士団の特別隊と一番隊を、それぞれ時期をずらしてヴェスリトンの応援に出発させ、ノルクトンを手薄にする。次に、カイトに特別隊を殲滅させてから、ノルクトンへ進撃を開始する」
「ええ、そこまでは知ってますわ」
「ノルクトンへの進撃は、カイトも同行させる。一番隊が戻ってくる頃には、カイトの裏切りが知れ渡るだろう。そうなればノルクトンはカイトを集中的に攻撃してくるはずだ。その時、こちらからもカイトを攻めれば……」
「なるほど。いくら神の力を持ってしても、それはひとたまりもありませんわね」
安心したのか、ふっと笑みをこぼすルカ。
「特別隊はそろそろ、ヴェスリトンの国境付近に到着するはずだ。カイトは任務を遂行し次第、こちらに来る。それまでゆっくり過ごそう」
そういって、カムイはイスに座っているルカを後ろから抱き締める。
「カムイ様……」
頬を赤らめ、ルカはカムイの腕にそっと手を触れた。
耳元に、彼の吐息が当たる。
「……んっ……」
反射的に身体を縮こませ、声を漏らす。
カムイはルカの頬に指を滑らせ、そのまま顎を引きよせた。
コンコン
「!」
二人の唇が重なるのを、ノック音が遮る。
「……誰だ」
カムイはルカから離れ、不機嫌に扉へと声をかける。
「お仕事中に失礼します。お手紙をお持ちしました」
扉を開けると、若い兵士が一人立っていた。
「手紙? ……御苦労だったな」
「はっ。失礼いたしました」
若い兵は手紙を渡すと敬礼し、素早く立ち去って行った。
カムイは扉を閉め、封を開けて手紙に目を通す。
「……!」
「どうしたのですか?」
ルカは立ち上がり、手紙を見つめるカムイの傍に寄る。
カムイは手紙から目をそらさず、
「……カイトだ。もう、終わったらしい」
「え? いくらなんでも、早すぎませんか?」
「ああ。直接、話を聞こう」
そう言うと、カムイは手紙を懐にしまう。
そして二人はそのまま外へと出て行った。
一瞬のことだった。
「貴方の仰せのままに、全てやり遂げた。これで満足だろう?」
言葉を交わす時間などなく、ルカはカイトの剣で切られ、カムイは彼の力をまともにくらい、地面に倒れ伏していた。
「……ど、どういう……ことだ……」
見上げた先には、その手に剣を携えたカイトの姿。
「特別隊を全滅させた。一番隊も後から付いてきている。もたもたしていたようだったから、ついでにヴェスリトンも破壊してきた。満足だろう?」
月明かりを背にし、シルエットだけが浮かぶ。表情は読み取れないが、その声に感情はない。
「なぜ……私達を……」
弱弱しく、カムイは問いかけた。
「……気づいていないのか」
ふっと、カイトが笑ったような気がした。
「俺は神の力だけじゃなく、神の意志も宿している。その時全てを知った」
一歩、カムイへ近づく。
「貴方達は素晴らしい研究者だ。ほぼ真実に近い答えを導き出していた」
また一歩。
「俺に神の力を与える儀式も、一つも間違わず順序通り行われた。よくあそこまで調べ上げられたものだ」
また、一歩。
「メイコを贄とし、祈りの言葉をささげ、その血を飲むことで神に忠誠を誓わせる」
「!?」
カムイは愕然とした。儀式の説明は、カイトにはしていない。
(何故――?)
「神が教えてくれた。全てを」
彼の疑問に答えるかのように、カイトは言う。
「知っていたのか……なら、どうして……」
「礼だと言っただろう? それに、貴方の作戦に乗った方が、スムーズにこの世界を壊せると思ったからだ」
そして、一歩。
「元々この世界は、神々が作り上げた場所。インタレアや人間どもが制覇すべき場所ではない」
「く……」
カムイは必死に身体を動かそうとするが、手足に感覚はなく、立つこともできない。
「メイコのいない世界など必要ない。俺が神々に返してやる!」
カムイの頭上で、カイトは剣を構える。
「死の世界で、メイコに謝罪と償いをするんだな!」
そして、カムイの背中へ剣を突き立てた!
「ぐあぁ……っ!!」
抵抗する事も出来ず、カムイは絶命した。
「……」
剣を抜き、カムイの隣に倒れているルカを見る。
腹から血を流し、すでにこと切れているようだ。
「安心するがいい。しばらくは貴方達の作戦通り、行動させてもらうよ」
二人の遺体に背を向け、
「さあ、帰ろうか。ノルクトンへ――」
輝く月の方角へ。カイトはゆっくりと歩き出した。
[二次創作小説] Lost Destination 「6.神の力」(2/2)
150P様の「Lost Destination」(レン&KAITO Ver)http://www.nicovideo.jp/watch/sm17436670 に聴き惚れ、PSP版DIVAでエディットPVを作成し、それに付属する小説も書いてしまいました。
※自分の妄想突っ走り小説なので、歌詞の本意とは異なります。
よろしければエディットもご覧下さい。http://www.nicovideo.jp/watch/sm18860092
長いお話ですが、よろしくお願いします。
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