翌日。
独房に三人の看守が入り込んできた。
そして突然二人が僕の両腕を拘束すると、もう一人が何かを探し始める。
数分としない内に、その看守はベッドの下が不自然である事に気が付いた。
「ここか…」
彼女の紙飛行機(テガミ)を全て掘り出し、僕の目の前に持ってくる。嫌な予感が胸をざわつかせた。
「こんなもののせいで…っ!」
ビリッ、ビリリッ!
するとあの子の紙飛行機が乱暴に破り捨てられた。小さくなった紙片がはらりはらりと舞い落ちる。
「止め…ろよ……僕の……僕の……!」
一つ、また一つと破り捨てられていく僕の紙飛行機(タカラモノ)。
看守達の嗤い声が鼓膜に響く。
「止めろって言ってるだろぉ!!!」
ボグッ!
拘束を振り払い。目の前の看守を殴り飛ばす。
「返せ! 返せよぉ! あれは僕のたった一つの幸せだったんだ!! あの子ともう一度会う為に必要な紙飛行機(モノ)だったんだ!!」
!!
看守に後ろから頭を殴られる。激痛に意識が飛んでしまいそうになったが、僕は拳を握り締めてそれを留まらせた。
「僕は……僕は……――――あの子を待つと約束してるんだ!!!」
◆ ◆ ◆
翌朝。
看守に腕を掴まれ、僕は為す術無く連行される。
どうやら遂に“僕の番”が来たようだ。
――――そう、『人体実験』の対象となる番が。
この実験を受けた者で、今も生き残っている物は一人としていない。体に多大な悪影響を及ぼすらしく、実験はそのまま“死”を意味していた。
◆ ◆ ◆
実験が終わり、再び独房に戻された僕は床に倒れ込む。
「――――ゴホ……ッ! ゴホッ、ゴホゴホッ…ガ…ハッ…!」
口元に手を当て、思いきり咳き込むと、舌と喉に鉄の味が広がった。恐る恐る手を離し、そこにべっとりと血が付着しているのを認める。
やっぱり僕は死んでしまうのか……。
君と会う資格を失くした今、もうこの世に未練なんて無かった。死んでこの苦痛から逃れた方が楽で良いかもしれない。
そう思っているのだけど、何故だか心の奥底から叫び声が聞こえてくる。
まだ生きたいと。
もう少しだけ生きていたいと。
霞みゆく視界。徐々に力を失っていく手足。意識は半ば朦朧としていた。
「……?」
ベッドの下に何かがある。
僕は両腕を無理矢理動かし、そこまで這いずった。
【こんにちは
私も会いたいです。
明日、ここで待っています】
一つだけ残っていた小さな紙飛行機。
僕は溢れ出す雫を堪えられなかった。
あの子は遠い所へ行ってしまったから、しばらくは会えない。
いつかまた、ここに来てくれる日を待っていよう。
僕は出られないから、あの子の手紙をその日まで大事にするんだ。
――――あぁもう、そんな事はどうだっていいじゃないか。
ただ、会いたい。
純粋に、会いたい。
今すぐ、会いたい。
君に、会いたい!
君がくれた紙飛行機。
君がくれた柔らかい笑顔。
君がくれた喜びを分かち合う時間。
その全てが脳裏に甦っては、暗闇の淵へと沈んでゆく。
それら一つ一つが、僕の生きる糧だった。
死も同然の生涯に、君が生きる喜びというモノを与えてくれたんだ。
ここは冥い闇に覆われた世界。
汚い雑草ばかりが生えている、畢りの世界。
君はそこに咲いた、綺麗な一輪花。
生きる世界がまるで違っていたんだ。
――――だけど。
僕は手を伸ばさずにいられなかったんだ。
「…………ねぇ……お願い……」
冷たい涙が頬を伝う。絞り出したその声は掠れていた。
「……もし、これが…………最期なら……」
小刻みに震える手で紙飛行機を握り締め、
「一度だけ、あの子と話がしたいんだ……!!」
何よりも強い想いを吐き出した。
たった一度でいい。
僕は君に訊きたい事がある。
僕は君に伝えたい事がある。
「だから、あの子に会わせてよ…!」
しかしその声は誰に届くでもなく、僕しかいない独房に切ない響きを残す。
「ガハッ、ガハ…!」
吐血が止まらない。胸も息も次第に苦しくなってくる。
僕は天井を見上げ、もう光が映らない視界に君の姿を思い浮かべた。
ごめん…………ごめんね……。
約束、何一つ守れなくてごめんね。
嘘ついた事、黙っていたままでごめんね。
――――君の名前、
一度も呼んであげられなくてごめんね――――
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彼らは、絶対に負けることがない。
だから、彼らは天才と言われていた。
そして、天才の彼らとの勝負で賭けるモノ。
それはお金ではない。
彼らとの勝負で賭けるのは、『自分の大事なモノ全て』。
だから、負けたらもうおしまい。
それ...イカサマ⇔カジノ【自己解釈】
ゆるりー
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