「……………はっ!!?」
突然ルカが山の向こうを見つめて立ち止まった。
「? ルカ、どうしたの?」
「……ミクおねえちゃんが……危ない……!!」
「え!? ……あ!?」
ようやくメイコも気づいたようだ―――――山の方向、町はずれから異様なほどの音の波が襲ってくることに。
「行かなきゃ……行かなきゃ!!!!」
『え、ちょ、ルカさ……じゃない、ルカ!?』
まるで弾かれたようにルカが走り出し、それを慌ててリンとレンが追い始める。
その後ろに、メイコ、カイト、そしてグミが続いた。
「……カイト、グミ。あんたたち、気づいてたんでしょ?」
「……まぁ、ね。だけどあの時はミクの音の波が優勢だったから、心配ないと思っていた……」
「だけど今は……リュウトの音のほうが遥かに響いている!! どういうことなの……!? あの劣勢を本当にひっくり返したっていうの!?」
「事実ひっくり返されてるんなら、ミクの身に何かあったに決まってるじゃない!! 早く……くっ、間に合えっ……!!」
祈るような面持ちで、メイコはさらにスピードを上げた。
その頃。
「がぁっ!!!」
呻き声をあげて、ミクの体が弾き飛ばされた。
その体には最早力は入らず、ほとんど音波を使うことすらできない。
そのミクに向かって―――――上空からリュウトの拳が襲い掛かる。
「おおおおおおおおおおおっ!!!」
「くぅ……ら、『Light』!!」
力を振り絞って『Light』を発動させると、すんでのところで拳を躱す。
しかしミクの体はいつものように空へ飛びあがることなく、小さな弧を描いた後、地面に叩き付けられた。
「うぐ……!!」
「これは……どうなってるんだ?」
地面から拳を引き抜いたリュウトは困惑の面持で地面にはいつくばるミクを見つめている。
傍に近寄ってきたいろはも同様の表情だ。
「ねぇ、リュウ……ミクさん、いったいどうしちゃったの?」
「わからない……普通に考えるなら、身体に何か不具合が起きたってことなんだろうけど……それにしたって、突然こんなに動きが悪くなるなんて……」
だがそんなことは正直リュウトにはどうでもよかった。
いま大事なことは―――――
「……だが、これは勝機だ……! 今ならミクさんを……殺れる!!」
「え……でも、ミクさんは私の良心回路を直してくれるって……」
「……僕が君を連れて頼みに行けばいいさ。この人たちを殺したという事実なしにいれば、きっと君は奴等に殺される……!!」
今この状態も『TA&KU』に筒抜けであるとすれば―――――ここでミクを倒さなかったり、介抱したりすれば、即座にいろはの自爆プログラムは起動されるだろう。
「君を守るのは僕だ……ミクさんたちじゃない!! ここでミクさんを倒す……!!」
徐々に体に力を溜めこんでいたリュウトが、勢いよく空に飛びあがった。
『―――――ドラゴラム!!』
途端に弾ける緑色の閃光。
形成される竜の骨格。
筋肉がそれに巻き付き、リュウトの体が巨大な頭部に収納される。
そしてのその眼に一瞬野性の赤い光が宿ったかと思うと―――――その光は一瞬で理性の深緑の光に塗りつくされ、光は瞳へと変わった。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!』
ドラゴンの咆哮が――――――響き渡る。
いろはが慌ててその肩に飛び乗り、リュウトはそれを支えるようにいろはの体に鬣を一本巻きつけた。
リュウトの変化を見て、ミクは一層焦りを覚えていた。
(まずい……早く逃げないと……なのに体が動かない……呼吸ができない……! 力も……使えない……!)
『……随分と辛そうだね、ミクさん』
「!」
ミクが上を見上げると、すぐそこにリュウトの巨体が迫っていた。
「あ……あ…………」
『大丈夫。心配しないで。絶対に苦しませはしない。一瞬だ』
「いやぁ……やめてぇ……」
『……普通の人なら『散々痛めつけておいて』とかいうんだろうけど、僕らはそんな事は言わない。むしろ、こんなにも強く素晴らしい人と戦えて光栄だったよ』
ゆっくりと拳を振りかぶり、腕に力を溜めていく。
『さようなら、ミクさん。決してあなたの事は忘れない……忘れないから……!!』
ビキッ……と筋肉が軋む音がした瞬間―――――恐ろしいスピードで拳が振り下ろされた!!
(いや……いや……いや……!! 助けて……誰か……誰かあ……!!)
―――――――――――――――ルカ姉、助けてぇっ!!!!―――――――――――――――
『龍旋鞭っっ!!!!』
突如伸びてきた鞭がミクの体を絡め取り、リュウトの拳がぶつかる寸前で力強く引き寄せた。
「わ……!?」
訳の分からぬままミクの体は宙を舞い、地面に落とされた。
『大丈夫!?』
顔を上げると―――――そこには一つの人影。
桃色の髪、鞭を持った両手、煌びやかな衣装―――――
(……ルカ姉?)
『―――――ミクお姉ちゃんっ!!』
それは―――――未だ幼児化したままだったが、両手に一本ずつ鞭を持ったルカの姿だった。
「ルカ……ちゃん……?」
「……!! 体の調子、悪いの!?」
「う……」
もはや答えることもできないほど憔悴したミク。
そこに、ルカの後を追いかけてきたリンとレン、そしてその後ろからメイコたちも現れた。
「ミク姉!?」
「ミクちゃん!? どうしたの!? ……リュウトぉっ!!! あんた、ミクちゃんに何をっ!!?」
『ちっ……面倒な誤解を招かれたな……勝手にミクさんが自滅したんだよ!! それを僕らのせいにされてもね……だがまぁいい、ミクさんが無力化された今、あなたたちを葬るのはたやすい!!』
牙をむいて吼えるリュウトの前に、ルカの怒りは頂点に達していた。
「……ミクお姉ちゃんを苦しめた罰だ……!! ぶっ潰す!!!!!!」
「!? ルカ、待ちなさい!!」
リュウトに向かって走り出すルカを、慌ててメイコが制しようとしていた。
今のルカは身体能力が著しく落ちている上に、手が小さくなったおかげで片手に一本、すなわち二本しか鞭を持てていない。
勝ち目はない―――――リュウトの拳の前に、一捻りにされて終わり。そんな未来しか見えていなかった。
「ルカさんも共に潰されるがいいさ!!」
遠心力の付いたリュウトの拳が、ルカに向かって襲い掛かる!!
――――――――――――――――その瞬間。
「巡音流乱舞鞭術!! 龍念鞭・弾!!」
力いっぱい振った鞭が―――――突如凄まじい勢いを得てリュウトの拳を弾いた。
そのパワーはそのまま―――――リュウトの体を宙に浮かせた。
『う……おおっ!!?』
リュウトの体はそのまま背中から地面に叩き付けられた。地響きが山々に響き渡る。
「……っ!!?」
メイコたちも茫然としていた。今のルカのどこにそんな力が。
だがそう思ったのは一瞬だけだった―――――もしも『普段のルカの持つ音波は全て使える』と仮定した場合、唯一つだけ、相手の体重も本人のパワーも関係なしに相手をねじ伏せることのできる力がある―――――!!
潜在音波―――――『サイコ・サウンド』!!
「考えてみれば……今のルカちゃんは背が縮んだ分だけメモリ容量に空きができ、『サイコ・サウンド』を自在に使えるようになっているはず……今のルカちゃんは背丈も何も関係なしに、全ての敵に対し近・中・遠距離から有利に戦えるんだ!!」
「でもっ……でもでも、まさか今の背丈で『サイコ・サウンド』を巡音流乱舞鞭術に活かせるなんて……!!」
「すっげぇ……たとえ小さくなっても、ルカさんはやっぱりルカさんだぜ!!!」
グミにリン、レンが大はしゃぎしている中で、メイコは一人考え事をしていた。
今のルカはおそらく、元の姿に戻るため空きメモリを複製している状態だろう。そんな状態でも、『サイコ・サウンド』でこれほど戦える。
(――――――そんなルカが大人の姿に戻ったら……身体能力も抜群で、鞭も八本を持つことのできる大人の体に戻ったら―――――この子、いったいどんな超人になっちゃうのよ……!?)
その時が恐ろしくもあり、楽しみでもあるメイコだった。
「龍念鞭・刺!!!」
二本の鞭が鋭くなり、易々とリュウトの腕を貫通した。
しかしそれだけでは止まらず、貫通した鞭は『サイコ・サウンド』によって伸び続け、リュウトの首に巻き付く。
鞭の高い弾力性は、リュウトの両腕を首に固定する形となった。
「龍念鞭っ……!!」
『う……うおお!!?』
『サイコ・サウンド』はリュウトの体にも作用し、巨体が軽々と浮き上がった。
「……背負!!!」
二本の鞭を両手でしっかりとつかんだルカは―――――そのまま一本背負いの要領で、リュウトの巨体を地面に力強くたたきつけた!
「……はぁっ……はぁっ……」
流石に限界が来たのだろう―――――鞭を回収したルカが肩で息をしながら大きく飛び去ってきて、地面にへたり込んだ。
ゆらりと立ち上がるリュウト。……しかし、どこか様子がおかしい。
「くっ……なんであんな小さな体でっ……………リュウ?」
『ぐ……ギギ……なンデ……ドウジテ……!』
『ナンデ……ジャマヲスルンダァアアアアァアァァァアァァァアァァァァァアアアァアァアァアアァアァアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!』
リュウトの眼から知性の光が消え―――――赤い野性が瞬き、大地を揺るがすような咆哮が上がった。
「ぼ……暴走したぁ!!?」
「なんてこった!! リュウトは完全に力を使いこなせたわけじゃなかったのか!!!」
暴れ狂うリュウトを睨みつけ、再び立ち上がろうとするルカ。
―――――だが。
「そこまでよ、ルカ」
「え?」
ルカが見上げた先には、メイコの姿が。
その表情は―――――怒りに満ち溢れていた。
「あんたはよくやってくれた……こっからは――――――――――」
背中から取り出したスタンドマイクを伸ばし、地面に突き刺す。
そしてリュウトを、炎が揺らめくような眼で睨みつけて――――――――――
「あたしがあいつらぶっ潰す」
――――――――――失われていったリュウトの理性が、消える寸前最後に捉えたのは。
怒り狂う『ヴォカロ町の迫撃砲』の、再起動音だった。
仔猫と竜と子ルカの暴走 Ⅴ~ルカちゃんの本気~
キャールカチャーン!!
こんにちはTurndogです。
小さな体で巨大な存在を投げ飛ばすのはロマンです←
ルカちゃんカッコイイよルカちゃん!!
結婚しよう!!!(おまわりさんこいつです
―――――かつて、ヴォカロ町最強はめーちゃんでした。
今やその時代の事を知るのは、最初から見てくれているしるるさんを含め数人。
いつしかミクやルカさんがその強さを表し始め、リンやレン、カイトが新たな音波を手に入れ始め、ついこないだミクとルカさんも潜在音波を手に入れ、めーちゃんの強さはいつしか陰に潜んでしまっていました。
しるるさん、そして昔のめーちゃんを知る皆、お待たせ。
『あの頃』のめーちゃんが、あの頃を超える圧倒的な力と一緒に帰ってきましたよ。
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