「あーもうっ、あの子たちったら!」
 居間にずかずかと入りながら盛大な愚痴をこぼすメイコに、ソファで楽譜を眺めていたカイトは視線を向けた。いたずら好きというよりお祭り好きな弟妹たちが何かやらかしたのだろうなと見当をつける。
 空気に冬の名残が色濃い四月一日、窓の外からは夕暮れの日差しが忍び込んできている。メイコはふくれっ面のままカイトの隣に勢い良く腰掛けた。予想以上に弾むスプリングに、カイトは楽譜を閉じてメイコに気遣わしげな視線を送る。
 無音のままソファに沈み込むことしばし。やっとのことでカイトの視線に気付いたメイコがカイトに向き直った。訊ねるように軽く首をかしげるカイトに深々とため息をついて見せる。
「や、まあ、あの子達に悪気がないのはよぉく分かってるけどね……」
 カイトが深く二度頷く。
「嘘だってのも分かってるんだけどね……」
 メイコの眉間に皺が寄っている。どんな嘘を吐かれたのか気になりながら、嘘と分かりつつも動揺せずにはいられなかったのだろうメイコを思い、カイトは唇を緩めた。メイコから視線を外して正面に向き直り、隣に座るメイコの手の上に手を重ねる。
「? カイト?」
 突然の感覚に目を丸くするメイコ。カイトはメイコに横顔を見せながら緩んだ唇を更に緩めて、言葉ではなく声を紡ぎ出した。
 ゆったりとした調子の長い音。先ほど言葉に振り回されてきたメイコにはその言葉のない旋律が心地良い。カイトの声がメイコのささくれて乾いていた部分に柔らかくしみ込んで強張りを解く。メイコは力が抜けるままにソファに身を埋め、重ねられた手が離れていかないように、せがむように、握り止めた。気付いたカイトが声を止めずに優しく握り返す。
 そういえば今日はカイトの言葉を一度も聞いていない。それはきっと、今日が四月一日だから。
 思い至って顔をほころばせたメイコは、労いの音に身を任せながら、ゆっくりと目を閉じた。

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四月一日。

ちょっとした情景を。

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投稿日:2012/04/02 03:41:16

文字数:807文字

カテゴリ:その他

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