じゅ~、じゅ~と肉や野菜が焼ける音がリン家の庭から聞こえる。


どうやら親父殿達はまだ食べるつもりらしい。肉が焼ける音に混じって時折リン家の親父の豪快な笑い声が聞こえてくる。


早々にリタイアした俺とリンはいつもの流れでそのまま二階のリンの部屋のベランダへ。


ここで夏の夜風を浴びながらそれぞれ話をしたり漫画でも読んでたりがバーベキュー後の定型パターンだ。


「リ~ン」


「ん~?」


お互いそれぞれの漫画(俺はリンから借りた少女漫画、リンは俺から借りた少年漫画)を読みながら答える。


「この漫画面白いんだけどさ~、続き何巻まである?」


「十六」


「マジで?結構あるね」


「それはわりと人気作品だから」


「そーなんだ」


「この漫画は何巻まであるの、レン」


「十六だよ。面白い?それ」


「うん。面白い」


「そっか。良かった」


「うん」


そして二人とも再び沈黙。


漫画の世界に没入する。


でも、それはリンだけ。


俺はというと、実際この状況で漫画なんかに集中出来るわけもなく。


………いつからだろう。こうしてリンと二人きりになることに、胸が苦しくなるような喜びを感じ始めたのは。


リンが俺以外の男子と話す度に、なんとも言えない不安を感じるようになったのは。


リンに、恋をしたのは。


きっかけなんかは特になかった。いつも一緒にいて、誰よりも近くにいて、姉みたいな、妹みたいな。家族みたいな存在で。一緒にいることが、心地よくて。


いつのまにか、恋をしていた。


多分、俺がリンに告白をしたら、その関係が壊れる。


今の『家族』っていうスタンスから『恋人』になったら。


やはりどう考えても、『家族』の方が関係としては距離が近い。


そして、俺も、多分リンも、今のこの近い関係を気に入ってる。


いや、これは気に入ってるなんて易しいものじゃない。心底溺愛して、依存して、それはそうあるもの、と自然にそう思ってる。


俺の告白は、その関係を壊す。


俺は、告白していいんだろうか。


厄介なことに、恋をしてしまうと、どうしてもその相手に告白をしたくなるのだ。


それに、俺とリンの関係は、この近すぎる関係は、困ったことに、告白するチャンスが多すぎる。


例えば、今とか。


リンの方をちらりと見ると、リンは風呂上がりにいつも着ている短パン(これが本当に短いのだ!太ももとかかなり上まで見えるし!)に、ちょっと大きめの黄色いシャツを着て(このコンボはガチで凶悪。下は何も着てないように見える)、ベランダの隅っこに体育座りで座っている。


それが、いつものリンのスタンス。


………ああ、告白がしたいな……。


とにかく、自分のこの気持ちを聞いてほしい。


でもそれは、やっぱり俺達の距離を壊すものでもあるから。


「ままならんなぁ………」


「ん?何か言った?レン」


「何でもねえよ」


「?そう」


ああ、何でもない。


何でもない、何でもない、何でもない。


嘘でも、三回言ったら本当になる。


多分だけど。


「あ、リン。見てみ。わし座」


「あ、本当だ」


漫画から顔を上げ、二人で夏の星空を見上げる。


「こと座も発見」


「え、どこ?」


「あそこ」


俺が指差したあたりを見て、「本当だ」とリンが呟く。


「あ、はくちょう座も発見したよ、レン」


「嘘。どこにある?」


「あれ」


今度はリンが指差したあたりを俺が目で追う。


「あった」


「でしょ」


「うん」


「この三つの星座それぞれに含まれる一等星であるベガ・アルタイル・デネブの三つをつないだものを、ほにゃららと言います。ほにゃららの部分には何が入るでしょうか。分かる?レン」


「ん~~~~。夏のビッグトライアングル?」


「あはは、何で英語なのよ」


「何となく」


「まあいいけど。正解」


「やった」


「ご褒美あげよっか?」


「いいの?」


「いいよ。じゃあ、私に何か質問していい権利あげる」


「何それ」


「や、レン私に何か聞きたいことがありそうだし。いらない?」


「あ、いるって。いるいる」


「あはは」


そして、リンはまた星空を見上げた。


俺も星空を見たけど、ベガだか何だかが輝く空よりもそれを見つめるリンを見たくなって、星空を見上げているふりをしながら横目でリンを見つめていた。


「………じゃあ、質問。リンって好きな人いる?」


「いるよ」


「えっ、嘘。前聞いた時いないって言ってたじゃん。誰?」


「そこまでは教えない」


「えー。じゃあ、ヒントだけ。何組?」


「一組」


「マジで?ウチのクラスじゃん。誰だー?分かんねー。小田?」


「ブブー」


「じゃあ大迫?」


「ブブー」


「じゃあ内村?」


「ブー」


「分かんねー。じゃあ何部?」


「バスケ部」


「本当か?ウチの部かよ。じゃあ結構絞れたな。西村だろ?」


「さあ?」


「あー、否定しなかったし。なんだ、西村かー」


「だから『さあ?』って言ってんじゃん。肯定もしてないよ」


「ハイハイ。西村かー」


「もう!違うって!西村くんじゃないよ!」


「嘘だー」


西村かー、西村かー、と呟きながら、俺は意外と悲しくない自分に驚いた。


あれ?漫画とか小説とかだとこのシーンは『僕は激しい胸の痛みを感じながら』ってシーンだろ?実際はこんなもんなのかな。


それとも、俺がそこまでリンのことを好きってわけでもないって、ことなのかな。


分かんないや。


分かんないから、とりあえず俺は西村かー、西村かーと呟いていた。


「だから違うって言ってんじゃん!馬鹿!馬鹿レン!」


リンはそう言って俺を見つめた。


その瞳には、今夜の星空のようにキラキラと光る何かかがあって、俺はそれを見て、呑気に「綺麗だな」とか思っていた。


「違うんだったら、本当は誰?」


「それは言わない!言えないけど、けど………」


「リン?」


「西村くんじゃないってことだけは信じてよぅ、レン、レンんん……」


「あ!ごめん!リン!分かった!分かったから!信じる!信じるから泣くな!な!」


ていうか、あまりにも西村が不憫だ……。確か、あいつの好きな人リンだったのに。


「う~」


「ごめんって!本当ごめん!俺が悪かった!お願い泣かないで!」


「………反省してる?」


「してるしてる!マジしてるから!」


「私のお願い何でも聞く?」


「聞く聞く!喜んで聞いちゃう!」


「よし」


そう言ってリンは笑った。


いや、それは『嗤った』と形容した方が良いような、唇の端をにいいぃぃぃぃぃっと持ち上げる笑い方だった。


………怖い。怖いですヨ。リンさん。


「だったら、さあ。………………………………………やっぱいいや。明日TSUTAYA行く時に自転車の後ろ乗してって、レン」


「…へ?そんだけ?」


「うん。やっぱこんだけでいいや」


「………ふうん。おっけ、明日、TSUTAYAな」


「ん」


リンはもう俺の方を見ないで星空の方を見上げていた。


俺も今度はリンじゃなくて星空を見上げる。


「綺麗だね、レン」


「うん」


「綺麗だね」


「綺麗だな」


なんかそうしているうちに、思った。


今は、告白をしたりしなくても、こうして二人一緒にいるだけで、いいや。


明日になったらまたこの考えは変わっているかもしれないけど、とにかく今は、今だけは、そう、思った。


「ねえ、リン」


「何?」


「ありがとな」


「え?何で?」


「なんでもない」


戸惑っているリンの顔を見てたら何だか少しおかしくなって、「あはは」と俺は少しだけ笑った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【自分解釈】君の知らない物語【下】

歌詞にあまり忠実じゃなくてごめんなさい。

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閲覧数:340

投稿日:2009/10/24 09:10:31

文字数:3,314文字

カテゴリ:小説

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