「か、カイトー!!大変、大変なのよ。マスターが!!店が…」
息を切らしながらミクが階段を駆け上がり、勢いよく部屋の扉を蹴って開けた。
「んぁ?」
「何、呑気に寝てんのよバカイト!とりあえず来て」
「後5分…むにゃむにゃ。」
二度寝しようとするカイトの布団をとり、カイトの顔に思いっきり強烈なビンタをくらわした。
バチーン!悲痛な音が部屋中に響いた。
「いってぇーーーーっ!何すんだよ!ミク!」
「目が覚めた?良いから早く下に来なさい。そんな事言ってる場合じゃないんだから!」
下に降りると、店は荒らされ、客や店員は皆息絶えていた。
カウンターには、マスターがぐったりと倒れていた。
「ひでぇ……一体何があったんだ?」
「マスター!一体どうしたの?マスター!」
「……ミク…ちゃん…店が襲…われた…」
「えぇ、見れば解るわ。一体誰にやられたの!?」
「解ら…ない…あいつら顔を…隠していた…」
「顔を隠していた?マスター他には何か解らないの?」
「あとは…カ…ムイと…カムイと…聞こえた…」
「カムイ?それが、犯人なの?」
「………」
「マスター?ねぇ、マスター!お願い!死なないで!」
「ミク!もう…」
「マスター…どうしてなの?あんな優しい人が…いい人なのに…何も悪いことしてないのに…どうして死ななきゃいけないの?」
「ミク…」
そっとミクの肩に手を伸ばすがミクはカイトの腕を勢いよく振り払った。
「離してっ!カイトに…私の気持ちは解らないわ!貴方のような記憶も無い人に大切な人を失う気持ちなんて解りっこない!」
「ミク、確かに俺はお前の言う通りミクの気持ちは解らないよ…、でも嬉しく無い事ってのは解る」
「当たり前じゃない!この涙の意味が解らないの?貴方が昨日流した涙の理由とは違うのよ!涙は嬉しくてでるものじゃないのよ!」
「ミク…、俺今初めて記憶が無いことを悔やんでるよ。きっと記憶があればこういう時どうすれば良いかとか、ミクがどんなに辛いかも解るんだろうな…って。でも、記憶がないからミクと出逢えた、まだ少ししか一緒に居てないけどさ、俺もっとミクと一緒に居て世界を見ていきたいんだ。こんなの…いつものミクらしくない」
ミクは声を上げて泣いた。静かな店内にはそれが虚しく響いた。カイトは泣いているミクをただじっと見ていた。
「そうね…ゴメンなさい、酷いこと言ってしまって…」
「俺の方こそ、記憶が無くてゴメン…」
「カイト、それは謝る事じゃないよ。でも私もうれしいよ。カイトと一緒だと…」
「?」
「ありがとう…」
「え?」
「ううん、何でもないわ、さあ行くわよ」
ミク達が酒場を出ようとした時、扉の前に女性が一人立っていた。
カイトぐらいの年齢の大人びた女性は巡音ルカと名乗り。ミク達に尋ねてきた。
「ねぇ、貴方達?カムイを追ってるのよね?」
「はい、そうですけど…何か?」
「私は巡音ルカと言うの。勝手だけどさっきの話聞かせてもらったわ」
「巡音…ルカ?」
「あぁっ!ミク、ギルドでポスターで見たじゃん。あの人だよ!」
「ポスター?私の事を何処かで見たのかしら?」
「さっきギルドでルカさんのポスター見たんだよ。確か新曲の告知のポスターだった気が…」
「どうかしました?」
またもや、酒場の扉を開けて入ってきたのは巡音ルカだった。
果たしてこの女性は一体…?
「え?ルカさんが二人?」
「しまった!」
「あれ?ルカさんが逃げていく…」
「追うぞ!」
「あの子もしかして…?」
「ほら、あんたも行くぞ!自分の格好した奴が気にならないのか?」
「ちょっ!勝手に腕を引っ張らないでちょうだい。」
「何言ってんだよ、早くしないとあいつどっか行っちまうぞ?」
ルカの腕を強引に掴み、一緒に逃げていくルカを追いかける二人。
「待て!偽物め!」
「なんで、本物のルカがあんな所に居るのよ?」
「貴女待ちなさい!どうして私の格好をしているの?」
「あぁもう!埒があかねぇ!ミク、あいつに向かって短剣を投げろ!」
「えっ?でも、当たったらどうするのよ?」
「その時はその時だ!」
「適当過ぎる!もっとマシな理由はないの?」
「ない!だが、あいつはきっと何かしらの方法でそれを止めるはずだ!」
「何処にそんな根拠が…」
「俺の勘だ!」
カイトは親指を立てにやりと笑ったミクはカイトの顔を見てふっ切れたのか、逃げたルカに向かって短剣を投げた。
「本当にどうなっても知らないよ?えいっ!」
ミクの投げた短剣が逃げるルカ目掛けて飛んでいく、ルカは急に止まって振り返って鋭い目を向けた。
ズダーン!
銃声と共に落ちる短剣。
ミクの短剣は足元に刺さり、ルカがルカに近づく。
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