-青-
響いた銃声は、屋上から聞こえたもので、月で逆光となってリンにはそれが誰なのか分からなかったが、少なくともミクとレンには分かったらしく、酷く怯えたような顔をしていた。
「レン、大丈夫?」
「あ、ああ…」
魔法でどうにか動けるまで回復したレンは上半身を起こして、その人影を見上げ、そうして、名を呟いた。
「カイト…兄…」
「“にい”って…。レンのお兄さん?」
「ああ」
黒く大きな翼を広げ、地に降り立ったカイトは優しげな青年だった。黒いマントを着ていた。しかし、美しく透き通った青の髪と瞳がマントの怪しさを打ち消すようだ。手にはシルバーの拳銃が持たれていた。
カイトはアンに近づき、もう一度アンに銃口を向けた。
「カ…イト…様…」
「アン、彼の素性をきちんと調べた?彼は、俺の弟だ。それを手にかけようとした罪、重いよ」
そうして、カイトが引き金を引こうとする。
「ダメ!!」
「ん?…誰だい?君は」
「リン。レンの主人よ!何の権限があって、彼女を殺そうとしているの?」
「…リン?そうか、レン。まだ未練が残って、こちらの世界へ?使い魔などに成り下がってまで」
見下すように言ったカイトの言葉に、レンは答えず、ただ質問を返した。
「何しにきた?」
「何って…。レンを連れ戻しに来たに決まっているじゃないか」
まるで当たり前のようにさらっと言って、カイトはレンの頬の上辺りに手をかざし、小さく呪文を唱えた。すると、リンががんばってどうにか動ける程度になったほど深い傷が、見る見る間に消えて無傷の状態にまで回復した。
「さあ、レン。帰ろう」
「嫌だ。俺、カイト兄と一緒に暮らしたくない」
「何故?そこのリンというこが原因かな?」
「ちがう。知らないとでも?俺は知っている。リンを殺したのは、カイト兄だろ?」
その言葉にカイトの優しかった微笑が消えた。
まるでチーターのような鋭い眼光は、何かを切り裂いてしまいそうなほどで、レンは身動きが取れなくなるような気がした。
「レン、帰るよ」
それは聞いたわけではなく、有無を言わせず絶対であることのようだった。
「嫌だ」
「レン、わがままを言うな」
「わがままじゃない!帰れよ!!俺はもう、首輪でつながれた生活なんて絶対に嫌だ!!兎に角、俺は兄ちゃんのところには帰らないから!!」
いきなり言ったのを、驚いたように見ていたがすぐに目つきが鋭くなり、その視線はリンへと向けられた。
怯えて声も出せなくなってしまったリンは凍りついたように動かないで、青く光る瞳に吸い込まれてしまいそうな感覚を覚えた。
「君、レンに何をふきこんだんだい?」
「何も…」
「ならば、何故レンがあんなことを言い出す理由があるんだ?」
白いカイトの手が細いリンの喉へ伸びた。
「リン!!!」
「何、するの?」
「君を始末したら、レンは帰ってくるだろうから、君には消えてもらうよ」
「な…っ!カイト兄、いい加減にしてくれ!!これ以上、俺の大事な人を殺さないでくれよ!!」
叫んだレンを冷たい目で見下ろしたカイトは、冷酷なオーラを発しているようにも見えた。
「…レン、お前が悪いんだ。お前が俺だけのものになれば…」
「何言ってるのよ!!レンはあんたの人形じゃないのよ!あんただけのものになんて、なるわけがないじゃない!!」
「君は口出しをするな。自分のおかれた状況を分かっていないようだな」
喉にかかった手に力がはいった。一気に息ができなくなり、リンは抵抗することもできなかった。
「やめろ!!!!」
更に力を入れようとするカイトをとめたのは、大きな弟の声だった。
「レン…?」
朦朧とし始めた意識の中で、リンはかすれた声で言った。
「何か言ったかい?レン」
また優しい微笑を浮かべ、カイトが振り向いた。このあと、弟が言う言葉を予測して、この微笑を浮かべているのだろう。
「やめろよ、やめてくれ…。分かったから、俺が帰るから…。やめて…」
いつも強気にリンに接するレンは、今までの勢いをなくし、少し震えて泣いていた。まるで何かを恐れているように、リンにはその言葉が自分を守るために発した言葉のようには、どうしても思えなかった。
「ようやく分かった?それでいいんだ、いい子だね。ああ、君も悪かったね。それじゃ――」
カイトがレンの手をとり、立ち上がろうとしたときだった。
鋭くかつハスキーな声が、ほんわかとした口調で飛んできた。
「リーン?レーン。そろそろ帰ってきなさい。六時には帰ってくるって約束でしょー?」
「母さん!!」
「め、メイコさん…」
のんきにグランドにはいってきたメイコの目に映ったものは、ぐったりと木にもたれて息が荒くなっている娘と、顔を手で覆って泣きじゃくっている娘の使い魔、それともう一人、うっすらと見覚えのある青年が立っていた。
まるで信じられないとでも言うようにメイコはカイトを指差し、小さく、
「か、カ…イト?」
「…めーちゃん」
「どうして、こんなところにあなたがいるの?それにどうしてこんな―――」
「見て分からない?俺がやったんだよ。何、知り合い?」
「知り合いも何も…。そこに倒れている子は、私の娘…」
驚いたようにカイトの視線がまたリンへと向けられた。
「…へえ、全然似てないね」
「よく言われるわ。ねえ、まだ私の質問に答えてないでしょ。どうしてここへ?」
「…。…レン、期限は明後日の始まる時間。それまでにせいぜい別れを惜しんできなさい」
「カイト、兄?」
そうレンが言うが早いか、カイトは黒い霧とともに姿を消し、その場には一つだけ黒いタイマーがポツンとおかれていた。
タイムリミットである明後日の始まる時間、つまり明後日の午前零時にセットされていて、すでにカウントダウンは始まっていた。
「…とりあえず今は家へ帰りましょう。それから話を聞くことにするわ」
「母さん、ミクちゃん達が…」
「安心してください。すでに逃げ出したようですわ」
「帰りましょう。立てる?」
差し出された手に、自分の手を重ねたがどうにも手に力がはいらず立ち上がることができない。
するとレンがリンの目の前に背中を突き出して、両手を差し出して、
「ん」
と言った。多分、おんぶでもしてやるという意味だろう。
いつもなら反抗するリンも今回は大人しくレンの温かい背中に覆いかぶさって、身を預けた。
「先、帰っていてください。急ぐとリンも苦しいだろうし…。俺たちが帰ったらすぐに晩飯にできるようにしてもらえますか」
「ええ、いいわよ。でも、大丈夫?ルカを付けておこうか」
「大丈夫です」
そういって心配そうなメイコとルカを先に家に帰らせると、レンは深く大きくため息をついた。後ろで申し訳なさそうにリンが、話しかけてきた。
「レン、さっきのアンちゃんの言っていたことって?」
「半分本当。…聞きたい?」
「レンがいいなら、聞きたい」
「まず、俺に双子の姉がいて、その名前がお前と同じだったことは事実。五年前に死んだことは…どうだろう。よく分からない。容疑者として俺の名が挙がったらしいことも事実」
「どうして?普通、子供がそんなことをするとは思わないんじゃない?」
「そのとき、俺は人目触れない場所に繋がれていた。地下牢だろうな。同時に、リン―姉のほうのだけど―も別の場所に監禁されていたんだろう。双子で仲もよかった俺たちは、何をするにも一緒で、そのときも夜に二人でトイレに起きていた。トイレから部屋に戻ろうとして、一つだけ半開きの扉を見つけたんだ。当然、何があるのか覗いてみたくなって中を見た。電気はついていたし、月も満月に近かったからとても明るくて、中の様子は子供の俺たちにも分かったよ。…両親が死んでいた」
軽いリンを背負いながらゆっくりと歩き、自分の歩んだ道を噛み砕いてリンにも分かるように聞かせた。息をのんで聞いていたリンは言葉を発しようとはしない。
「真っ赤な血がカーペットに広がっていて、ほとんど原型がないくらいの両親を見て、俺は何があったのか、理解した。そのとき、口にハンカチを当てられて、意識が遠のいた。多分、何か睡眠薬か何かがしみこんでいたんだろうな。気がついたら俺は一人でカビくさーい、牢屋の中。暗いし臭いし、寒いし。首には犬みたいに首輪が付けられていたし、足首に鎖がつながっていた。勿論、それを引きちぎるなんて無理だし、混乱してそれどころじゃなかったんだ。でも、しばらくして双子の姉が泣く声が聞こえて、それからは何も音が聞こえなくなった。たまにカイト兄が来て、話し相手になってくれた。はじめのうちは、それでよかった。けど、少しずつ、分かってきたんだ。カイト兄が両親を殺したって。いつもロボットみたいに笑っているのを見ていると、昔はうれしくなったけど、今は気持ちが悪いだけだ」
「けど、やっぱり普通はあのカイトって人が怪しまれるのが普通じゃない?」
「アイツは裏社会に通じていて、階級もまあ、上の中だからな。圧力でもかけたんじゃないか」
「ひどい…」
そこまで言い終わったとき、丁度館の前に着いた。
大きな門が来るものを出迎えるが、今の二人にそんなことは、別にどうだってことじゃなく、ただ今は、休みたかった。
門を開き、中へ入った。
暖かい室内にはとてもいい香りが漂い、まるで疲れきった二人を包み込むような、おいしそうな香りだ。
「あら、お帰り。さ、二人とも、食べなさい。話はそれからよ」
「わあい!やった、おいしそう。レン、食べよう」
「うん。…いただきます」
鏡の悪魔 5
カイト キタ――――(゜∀゜)―――――!!
絵文字がうまく使えていない…。
きたね、きたね、キタよ!!
カイトは優しいのもいいと思いますけど、好き過ぎるあまりに束縛してしまいたくなる…。キャラもいいと思うんです!!!(←いいのか?
カイトにマントは似合いますよね。寒色系か無彩色の。
男声人は吸血鬼or悪魔系で行って貰おうと思っているので、がっくんも出てきたら、ソレ系の扱いですね。
じゃ!!(←清々しいほどの笑顔。
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