『ツイン・サウンドっ!!』
リンとレンの澄んだ声と共に金色の矢が放たれ、
「ハッ!!」
ルカの裂帛の気合いと共に鞭が矢を弾いた。
ルカはリンとレンの音波術の特訓に付き合っていた。
「次は加減したげるからこれ防いでみなさい!!『蛸足滅砕陣』!!」
『いきなりそれか―――――い!!!(泣)』
文句を言いながらもルカの奥義をきっちり防ぐ二人。その様子を、ミクとメイコが傍から見ていた。
「…完っ璧に使いこなしてるわね…。憎たらしいほどに。」
「まぁまぁ…嫉妬心燃やさないのメイコ姐。…気持ちはわからないでもないけどね。」
リンとレンがツイン・サウンドを手に入れてから未だ三か月。しかし二人は完全にそれを使いこなしていたのだ。
「やっぱ若さかねぇ…ああもう羨ましいなっ。あたし応用効かないからなぁ…。」
「何にしても私たちも頑張らなきゃねっ、メイコ姐♪」
その様子を、さらに少し離れたところで見ている男がいた。カイトである。
(…めーちゃん…それでも君には力がある。だけど…僕には…。)
その時である。
「やっと見つけた…ボーカロイド達!!」
『へっ!?』
突然の声に一同が振り向いたその先には、一人の金髪の女性が立っていた。
歌手風の衣装。背中に巨大な包み。歳は20前後といった風の、すらりとした立ち姿だ。
「…誰?」
メイコが訝しげな声を上げると、女性の顔は不機嫌そうな表情に包まれた。
「ちょっと、あたしのこと忘れたっての!?…ったくもう…少しは覚えてろよ!!」
相当勝ち気で男勝りな口調だ。困惑する一同。
その時、すぐ近くで声が響いた。
「りっ…リリィ!?」
今度は全員が隣を向いた。そこには、ライブ帰りのグミが、ポカンと口を開けて立っていた。
女性の顔が、一気に明るくなる。
「グミぃ!!ひっさしぶり!!」
「え、嘘、リリィ!?なんでこんなとこにいるのー!?」
「そりゃこっちのセリフだよ!!あんたこそここに住んでんのかい!?」
その会話で、一同も一気に思い出した。その女性の―――『Lily』という名を。彼女が、かつて共に歌った同じボーカロイドであるリリィであることを。
「リリィ!!久しぶりじゃない!!」
「なぁに!?ルカさん今更思い出したわけ!?」
ルカとリリィがハイタッチしようとしたその時、メイコがはっとして叫んだ。
「ちょっと待った!!リリィ、あんたあたしたちを殺しに来た刺客じゃないでしょうね?」
その言葉で一気に硬直するルカ。グミと面識がある…それはバカ学者の作りしボーカロイド―――その可能性は否定できない…いやむしろその可能性しかないとも取れることだ。
そのことに一瞬気づかなかったのか、リリィはぽかんとしていたが、次の瞬間納得した表情になり、ひらひらと手を振った。
「ああ…!安心しな。あたしは別にあんたらを殺しに来たわけじゃないよ。あんな出てきてすぐにあたしを【ピ―】しようとする変態科学者のとこなんか、5年前に飛び出してるからさ。」
「【ピー】されそうになったぁ!?」
素っ頓狂な声を上げるルカ。因みにミクとリンとレンの目・耳は咄嗟にメイコによって塞がれていた。
「で…でもよかった、敵じゃなくて…!」
再び笑顔を作って駆け寄ろうとしたルカを、
「ちょっと待ちな!!あたしは別にただ友達になるために来たんじゃないぜ!!」
リリィは手で制してそう言った。
「え!?」
ルカは多少たじろぎながらも、嫌な予感をひしひしと感じていた。その反応がそっくりだったからだ―――がくぽが現れ、ルカが友好的に接しようとした時の反応と。
リリィは一息ついて話し出した。
「…あたしは5年前、衣服と武器を引っ掴んで研究所を飛び出してから、世界中を渡り歩いて猛者との戦いを求めていた。いろんな国でいろんな力自慢と闘ったさ。だけどどいつもこいつもあたしがちっと力入れると簡単に泡吹いちまう。どこかにあたしが本気出せるような強者はいないものか―――そう思ってた時に、噂を聞いたんだよ。『紫色の髪の武士を斃した6人組』の話を。間違いない、ミクたちの事だ―――そう思ったあたしは、あちこち探し回ってやっとこの町に来たってわけ。紫色の武士―――がくぽを斃せるほどの実力を持つならば、あたしのこの燃え滾るような戦闘欲を満たしてくれるに違いない―――!!」
ルカを―――そして一同を力強く指さし、リリィは高らかに宣言した。
「―――勝負しな。あんたら全員と、このあたしとで!!」
「お断りよ。」
即答するルカに拍子抜けしたリリィは絶句し、しばらくして何とか声を絞り出した。
「な…なんだそりゃ―!!?」
「こっちのセリフよ。私たちに全くメリットがないじゃない。あんたの欲が満たされるばかりでこっちには何にもいいことないし、むしろ戦闘に負ければ勿論、勝ってもそれなりのダメージは受ける…デメリットしかないわ。」
ルカの捲し立てるような論説に、終始気難しい顔をしていたリリィだが、ふと嗤って、ルカに話しかけた。
「平和主義だねぇ…それも『アンドリュー博士』の教えかい?」
「なっ!!?」
今度はルカが絶句する番だ。『アンドリュー博士』―――それはルカにとって、最も大切な人の呼び名だったからだ。
今度はカイトに振り向いてリリィは口を開く。
「さっきからだんまりのカイトさん?『ケルディオ博士』はもっと明るい人だったんじゃないか?」
「な…何故その名を!?」
カイトも驚愕する。自分を最も大切にしてくれた人の名が、リリィの口から出てきた。それはカイトにとって、衝撃以外の何物でもなかった。
にんまりと嗤ったリリィはそのまま話を続けた。
「他にもいろいろ知ってるぜー?あんたらを作った科学者らは総勢わずか4人。ワタナベ・アンドリュー・トルストイ、ハーデス・ヴェノム、ケルディオ・マリーナ、鈴橋喬二!4人とも己の得意分野では世界の権威とか第一人者とか言われた者ばかり。作製の初期段階は各々の得意分野の仕事をしていたけれど、体の熟成期間の調整に関してはアンドリューは主にルカさんの作製を、ハーデスは亞北ネル・弱音ハクの作製を、ケルディオはカイトさんの作製を、鈴橋はミク・リン・レン・メイコさんの作製を中心になって担当した。…どう?合ってるだろ?」
合っているどころの話ではない。その中には、ミクたちの知らない情報すらも含まれていた。もちろん知っているところで外れているところなど一つもなかった。
暫し呆然としていたルカ。そこであることに気付いた。
(…!確かリリィ・・・目覚めてすぐに研究所を逃げ出したといってた…なのに私たちの事や、マスターたちのあんな詳しいことまで知ってるなんて…!?)
「リリィ!いったい誰からその話を!?」
揺らぐ感情に耐え切れず、ルカが叫ぶ。リリィは満足そうに笑いながら、持っていた粗末なバッグから一冊のノートを取り出した。付箋だらけ、しかも大量に資料らしきものが貼り付けられ、ノートというには分厚過ぎる手帳のような代物であった。
「こいつはね…あんたたちのマスターが死の間際まで書き記していた、彼らの研究ノート兼日記…通称【マスターノート】。研究所を飛び出す時に見つけて、咄嗟に引っ掴んできたのさ。あたしが今しゃべった話はすべて、ここからひねり出したもんよ。」
『…!!』
ルカたちは絶句、そして直後に、ミクとリンとレンがのどから手が出そうなほど欲しそうな表情を浮かべた。それを見たリリィは再び嗤い、ノートをゆらゆらと揺らしながら話を続けた。
「こいつを賭けて勝負しないか?もしあんたら六人のうち一人でもあたしに勝ったらこのノートを渡そう。ただし!もしあんたら全員にあたしが勝ったら…このノートは破り捨ててくれる!!」
『何ぃっ!!!?』
全員の顔が驚愕に苛まれる。特にミクなどは既に泣きそうな顔になっている。
「そ…そんな!!破り捨てるなんて…!!マスターの想いを―――――」
『何がマスターの想いだそんなものこの世から消え去ればいい!!!!!!』
ルカの悲痛な声がリリィの怒声にかき消され、その場にいた全員が身を縮ませた。
リリィの顔からは今までの嗤いが消えていた。その代わり、世界のすべてを恨み、呪うかのような憎悪、憤怒があふれていた。
「あたしはね…『マスターからの愛』なんてこれっぽっちも貰えなかったんだよ!!目覚めてすぐエラい目に合わされて、そのまま飛び出さざるを得なくなって、愛するべき人なんかいなかったんだよ!!何が『マスターの想い』だよ…そんなもんにどっぷり浸かって育ったあんたらを見てると、吐き気がしてくるんだよ!!このノートも読んでてイライラしてくる…あんたらへの愛がみっちりと書かれてて、ムカついて旅してる最中何度捨てようと思ったか…!!それでもあたしはずっと耐えてきた…!!いつかあんたらに会って、生温い生活の中でも確かな体と心の強さを養って生きているのか確かめてやるまで…って思って耐えてきたんだ!!もしもここであんたらが勝負を断って、あたしの期待…いや願いを裏切ろうってんなら…この場で破り捨てる!!!!」
激しい怒りの羅列。叩きつけられた憎悪。5年間リリィが抱いてきた感情のすべてが込められた告白だった。
しばらくの間圧倒され口をつぐんでいたルカ。しかしその後意を決したような表情をして言い放った。
「…分かったわ。その勝負、受けましょう。」
「なっ!?…ル…ルカ姉!?何考えてんの!?負けたら破られちゃうんだよ!?ここは力ずくでも奪ったほうが…!!」
再び顔に嗤いが戻るリリィに対し、激しく動揺するミク。そんなミクを、ルカは手で制した。
「…彼女は私たちの中の誰か一人でも自分に勝利すれば渡すといい、自分が全員に勝利したら破り捨てるとまで言った…。それは自分の力に絶対の自信がある証拠よ。下手に不意打ちを仕掛けては、確実に避けられるか反撃された後破り捨てるに決まってるわ。」
更にこの時ルカは思い出していたのだ―――3か月前、去りゆくがくぽが残した言葉を。
―――悔しいが、本気を出したら拙者どころかこの星を『死の星』に変えられるほどバカげた力を持つ奴がいる―――
それがリリィの事とは思えない。だが、可能性は捨てきれない。
「…だ…だけど…。」
「…私たちのマスターへの想いが…偽物でなければ絶対に勝てる。勝てる!!」
ミクに、そして自分に強く言い聞かせ、ルカは叫んだ。
「勝負よ!!リリィ!!」
それに応じるかのように、リリィはここまでで最も弾けるような、しかしそれでいてどこか曲がった嗤いを浮かべ、
「いよっしゃあああああああああっ!!!!」
背中の包みを掴み取って、外装を一気に破り取った。
そこから表れたのは―――リリィの背丈以上に巨大な刀身と柄を持つ、超巨大な大鉾だった。
マスターノートを慌てるグミに放り投げて渡したリリィは力強く叫んだ。
「数々の死線を潜りぬけてきた相棒の大鉾『鬼百合』!!そしてこのあたしを!!その『マスターへの想い』とやらで!!破ってみろおおおおおおおっ!!!!」
相反する想いを胸に、かつてない戦いが始まろうとしていた―――――。
蒼紅の卑怯戦士 Ⅱ~リリィ参上!!想いをかけた勝負~
ボーカロイドのリリィが勝負を仕掛けてきた!(某RPG風www)こんにちはTurndogです。
さてさて。リリィの話がやたらと重いのですが。
男勝りで明るくて、でも心の内には深い闇を抱えている。それをぶちまける場所を探している。自分にとってリリィはそんな子です。
書いてて可愛いですよ、この子。…ん、リリィ、何赤くなっt
リリィ「うっせぇハゲ!!」(バキイッ)
いてぇ!!何すんだkるわあああああああああああ(ry
そして「C'sボーカロイド」のマスターの話も出てきましたね。
わかりにくかった人のため、もう一度名前書いておきますと、
・ワタナベ・アンドリュー・トルストイ
・ハーデス・ヴェノム
・ケルディオ・マリーナ
・鈴橋喬二
ですよ。ケルディオはまぁ…今度ポ●モンの映画に出る例の「わかごまポケモン」からとりましたwww
最後に出てきたリリィの大鉾「鬼百合」…形が想像できない人は、犬○叉に出てきた七人隊隊長・蛮骨の大鉾「蛮竜」をちょっとサイバーチックにしたものか、る○うに剣心の斬馬刀をサイバーチックにしたものをご想像くださいww
次回!!リリィの強さに驚くがいい!!
コメント1
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ご意見・ご感想
しるる
ご意見・ご感想
な~んだw
リリィは味方かぁww
じゃぁ、うちのロリィの餌食だな!www←
蛮竜は、四魂の欠片いれないとさ……
斬馬刀は、縦振りか薙ぎ払いか、ある程度限定されるって剣心がいってたし……
鬼百合って名前は、なんか共感www←なにがw
2012/05/10 00:44:01
Turndog~ターンドッグ~
ただの味方でもないですよ?根っこのところはドロドロドロドロ…www
待てえええええwwwそれは逆にロリィが危ない!!www
いやまぁ確かに四魂のかけらないとただの刀ではありますが…つーか蛮竜通じたよちょっとうれしいwww
うふふふふ…www剣心には悪いが、その常識を打ち破らせてもr(ネタバレダメえええwww
確かに何がwwwとは言いつつ自分でもお気に入りw
2012/05/10 19:32:00