マスター宅では慌ただしく機械が動いている。早くしないと部屋の主が帰ってくる。ボーカロイド達は時間に追われ、焦っていた。
「やる気あるの?不器用過ぎ。本当に君は精密機械?電子頭脳壊れてるんじゃないの?」
毒舌を飛ばすのはタイト。珍しく良く喋っているかと思えば文句ばかりである。怒られていたのはカイト、元カイコである。
「そんな、僕はただ…」
「ごちゃごちゃうるさい。やる気が無いなら出てって、邪魔だから」
いつになく真剣なタイト。これがタイトの本気と言う奴か。
「言い争ってる暇はないぜ。目標到着まであと五分…」
ガチャ
「ヲィ!」
「この部屋に到着までの時間だ。三分間待ってやる」
相変わらず卑怯な男である。支離滅裂も気にしない。時間稼ぎに出た隊長が最後に吐いた言葉が三分。この男、足して八分ではなくあくまでも三分間しか足止めしない気だ。最初五分と言っていたのにどさくさに紛れて時間を縮める卑怯戦士。
隊長が出迎えれば玄関先には既にリクが居た。マスターは…
リクの陰に隠れるように遠慮がちに家の敷居をまたぐ所だった。
…ここはマスターの家である。
マスターは複雑そうな顔で頬をほんのり赤く染めていた。首もとをしきりに弄っている。そこには透き通るような赤いバラのチョーカー。
首の異物に慣れない様子で少し苦しそうにしているが、外そうとすると嫌がる。久しく見なかったマスターの乙女チックな一面である。隊長は感心してリクを見た。リクには隊長の意図が読めていないようで少しイラッとした表情をした。
「お帰りなさいませ、マスター、リクさん」
紳士的なナイトがいつの間にかやって来て二人の荷物を受け取るとマスターのエスコートをリクに任せて奥の部屋へ通した。
「ぎゃぁぁぁぁあ!!!」
喜んで良いのか、悲しんで良いのか中途半端な感情のマスターが落ち着きもなく茶の間に入った時だった。少々甲高い機械的な叫び声が更に奥の方から聞こえた。整備室だ。マスターは慌てて整備室に向かった。
「何事?!」
アカイトを失って傷心のマスターだが、他の仲間にまで何かあったとあっては一大事。気持ちの切り替わりも早かった。
駆けつけたマスターが整備室で見た物はマスターの想像と大きく異なる光景だった。
「もう、無理するから…あ、マスター」
カイトに抱えられてフラフラと立ち上がろうとしていたのは少し小柄な青いボーカロイド。
「カ、カイコ?!一体どうして…?」
カイコが二人?と言う訳でもない。だが、『カイコ』、『カイト』、『タイト』、『ナイト』、『隊長』…ボーカロイド達の人数を確認してもやはり一人多い。いたずらにしても酷い冗談である。
整備室の中央ベッドの脇に椅子が置かれており、腹に風穴の開いた赤いボーカロイドが力無く座らされていた。
「アカイト?!」
「何だよ」
「え?…」
アカイトの壊れた体が元あった部屋から持ち出されてこんな薄暗い部屋に運び込まれている事に気付いたマスターは驚き叫び、駆け寄った。名を呼んだ時、思わぬ方向から返事が返ってきてマスターは思わず間の抜けた声を出してしまった。
返事をしたのはカイコだった。あの慣れた弱々しい目つきではない。鋭くて、少し不機嫌そうな表情のカイコだ。
「…アカイト?…」
「だから何だっつーの!」
間違いない、声のトーンはカイコなのだがこの口調はアカイトの物だ。
マスターは何が起きたのか分からない様子だ。
「何で…だって、アカイトは死んだって…」
困惑した表情、誰もが複雑な思いを抱いている。
「…死んだよ」
「!!それじゃ、それじゃぁあれは、あれは何?誰なの?!アカイトじゃないの?!」
喜びも束の間、リクはマスターの持ち上がる希望を無残に打ち砕いた。
「マスター、落ち着いて下さい。大丈夫です、あれはあなたの知るアカイトですよ」
ナイトが混乱するマスターをなだめた。けれどリクは渋い顔をしている。
「説明して。リク、あなたは知っているのでしょ?一体何が起きたの?」
マスターはリクに説明を求めた。
真相―――
アカイトは確かに消失した。アカイトがアカイトであったデータの殆どが使えなくなっており、アカイトを特定する人格は既に失われていた。
バグ発覚時、リクはアカイトのデータを作り直していた。アカイトがアカイトであるための人格プログラムだ。マスターのアカイトへの気持ちを知って嫉妬したリクがついに差し替える事無く持ち歩いていたアカイトの複製である。
素晴らしい洞察力を持つナイトはリクがアカイトの人格プログラムを持ち歩いていると分かっていた。だからアカイトの死後、リクに詰め寄ったのだ。案の定リクはついにアカイトの人格プログラムをナイトに渡した。
「人間なら、道徳的に反した行いだ。機械だから出来る事だ、わかるだろう?」
リクは冷めた目をした。
つまりアカイトは死んだのだ。そして目の前のアカイトと同じ人格を持ったカイコはアカイトの複製であってアカイトではない。アカイトと同じ人格を持った者にアカイトの記憶を植え付けただけの別人だ。
「記憶を操作したり、新しく作ってみたり、いつもやっている事だろう?だけど、ベースが違うんだ。もうこの世にお前の思うアカイトって奴は居ないんだよ」
「ぐでぐでうるせぇなぁ!何でも良いから早く俺の体戻せよ」
「!!」
御託を並べるリクにシビレをきらしたアカイトの人格は文句を言いながら大きく傾いた。
「アカイト、落ち着いて…」
マスターが駆け寄るより先に崩れるカイコの体をカイトが支えた。
「アカイトだろうが別人だろうが構わない。とにかく今は動くな。みんな、今すぐ準備して!」
マスターの目は壊れかけの機械を目の前にした技師のそれに変わっていた。
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