語り部の箱庭の少女

ようこそいらっしゃいました。このたびお聞かせするのはとても小さな世界に住まう少女のお話です。

その少女の暮らす部屋には、1人の男と少女だけが住んでいたそうです。
男が外の世界を知らなくていいと望んだため、
少女はそれに答えていたそうです。

男は少女を娘と呼び、少女は男を父と呼んでいたそうです。

父は、歩けない娘を気遣って、少女のいる部屋に美しい物を次々と
買い与えたそうです。

―赤いグラスに青いスプーン。
―黄色い枠の2対の鏡。

けれども、それを眺めているのは父と娘の二人だけだったそうです。

少女にとっての世界の全ては暗い寝室と、窓から見える景色だけでしたが、
父が外の世界を知らなくていい、と何も教えなかったため、
少女は狭く小さな世界に居続けたそうです。

父が買い与えた小物たちは、「僕らと君は似たもの同士」と言って少女を
笑ったそうですが、少女はその意味を理解することができず、
外の世界には聞こえぬように、父が望むように父のためだけ
にるりらるりらと歌うだけだったそうです。
父ではなく娘自身が」望んだために。

ある時、父は少女に≪戦争≫と言う言葉を教えたそうです。
しかし少女には、その言葉よりも世界が燃えているという事実を
理解するのが精一杯だったそうです。

そして、とのことを父に問いかけて―

その後、燃え尽きた屋敷から見つかったのは、孤独な男の亡骸と、
その腕に抱かれた焼け焦げたぜんまい仕掛けの人形だったそうです。

いかがでしたか?私のお聞かせした物語は。今日のところはここでお開きにしましょう。帰り道にはどうぞお気をつけて。よければまた、私の物語を聞きにいらして下さい。それではさようなら。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

語り部の箱庭の少女

語り部シリーズ11作目です。

閲覧数:303

投稿日:2009/07/25 13:33:39

文字数:748文字

カテゴリ:小説

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  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    ご意見・ご感想

    こんにちは
    はじめまして
    主に小説をアップしているヘルフィヨトルという者です。
    読ませていただきました。
    不思議な雰囲気がします。何というかこう……ね。
    「るりらるりら」 Re_birthday!?
    それでも、次の語り部楽しみにしています。

    ついでに私も小説をアップしていますので、読んでくれるとうれしいです。

    2009/07/25 14:06:59

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