「アレン、お主はキスをしたことがあるか?」
3時のおやつの時間に流れていた穏やかな雰囲気は、リリアンヌの一言で霧散した。
「ど、どうしてそのようなことをお聞きになられるのですか?」
そう聞くと、リリアンヌは少しふくれた。
「わらわの質問が先じゃ!」
「申し訳ありません…私はない、ですね…」
リリアンヌは満足気にそうか、と頷いた。
なんでも、シャルテットが読んだ恋愛小説で夕暮れの海を眺めながらキスをするシーンがあるらしい。
「ネイは興味なさそうだったがの、乙女なら皆憧れるじゃろう」
リリアンヌは上機嫌な声で話し終えると紅茶を啜った。そして、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「アレン、わらわとしてみるか?」
ただ僕をからかっているだけ。そう頭では分かっているが急速に顔に熱が集まってくる。
「ごっ、ご冗談を…」
そんな僕を見てリリアンヌは更に笑みを深める。
「わらわとじゃ、嫌か?」
そう言って顔を近づけてきた。一切雲がない空のような、底のない美しい青い瞳に見つめられ、鼓動が速くなっていく。どうすればいいのだろう。このまま逃げてリリアンヌの機嫌を損ねれば僕の首はギロチン行きだ。かといってキスなどしてもギロチン行きだろう。そもそも僕らは双子なんだぞ。それだけは駄目だろ。
「スミマセン、リリアンヌ様」
僕はリリアンヌの左手をとり、手の甲に軽く口をつけた。
「これでご勘弁を…失礼いたします」
そう言い残して部屋を出る。扉を閉めるとそのまま壁にもたれかかり、ズルズルと腰をおろした。
——これ、選択を間違えたなぁ…
窓から見える青空は綺麗だが、リリアンヌの瞳には及ばない。
ああ、僕の首はきっともう駄目だ。リリアンヌを守ると決意していたのに、こんなことで死んでしまうとは。
心の中で嘆いていると部屋の扉が開き、リリアンヌが出てきた。僕は慌てて立ち上がり、服を整える。リリアンヌの顔は赤かった。相当怒っているのだろう。
「アレン、まだいたのか」
「はい…あの、先ほどのことですが…」
「…別によい。お主をからかったのはわらわじゃ…が、左手の薬指の付け根に口付けるとは…お主、大胆じゃのう…」
リリアンヌは右手で顔を隠し、もういい、下がれと言い僕に背を向けた。僕は返事をして、食器を厨房に持っていくために再び部屋に入った。
どうしよう。顔の熱が、まだひかない。
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