あるところに、小さな夢がありました。
誰が見たのかわからない、
それは本当に小さな夢でした。
小さな夢は思いました。
このまま消えていくのはいやだ。
どうすれば、
人に僕を見てもらえるだろう。
小さな夢は考えて考えて、
そしてついに思いつきました。
人間を自分の中に迷い込ませて、
世界を作らせればいいと。


誰かが、声を出して絵本を読んでいる。
その声は聞き覚えがあるような、ないような。
不確かな記憶を、寝ぼけた頭でたぐり寄せるけれど、
答えは出てきそうにない。
遠い丘の上から聞こえるその声を追いかけて、
私はある木の下へたどり着く。
そこにいたのは、絵本を読むウサギさん。
こちらに背中をむけたまま、物語を音読している。
真っ白な耳をふわふわ揺らして、すごく可愛らしい。
私はそっと肩をたたいてみた。
そしたら、

――ふわり、

柔らかな光の粒子になって、消えてしまった。
残されたのは一冊の絵本。
題名は「人柱アリス」というらしい。
私はその本をめくった。

そこで、私の夢は終わる。

重いまぶたをあげたら、そこには帯人と灰猫がいた。
心配そうに顔をのぞき込むものだから、
「ど、どしたの?」と抜けた声を出してしまった。

「目が覚めないから…びっくりして……」

「大丈夫だよっ!」

こっちがびっくりするよ。

それにしても、ここはどこなんだろう。
周りを見渡しても、あるのは木ばかり。
さっきの夢に出ていたようなウサギも、絵本も、丘もない。
真っ暗な森のなかを、真っ赤な道が続いているだけで。

「気味が悪いね。灰猫さんは、なにか知らないの?」

「私は万能ではありませんからね。
 こういうことは百科事典にお聞きください」

「むぅ…。どうしよう」

「まあ、私が把握しているのは、この世界が《曲》をベースに作られている
 ということぐらいですね。
 この手のことは貴方がたのほうがお詳しいのでは?」

「きょく?」

こんな世界観のある曲なんてあったっけ。
まだ頭が寝ぼけているみたいで、ふわふわする。
とにかく今は深呼吸をしよう。

「…あ」

突然、帯人が真っ赤な道を指さした。
その先には夢に出てきたようなウサギが、ひょこひょこと歩いている。
私たちの前まで来ると、ウサギはぺこっとお辞儀をした。
そして、一通の手紙を差し出した。

「しょうたいじょう?」

ウサギはコクリとうなずいて、再び来た道を戻り始めた。
その姿を見届けて、私はその手紙を開けた。

「なにこれ?」

それは黄色いハートのトランプだった。
差出人を見てみると、そこには「クローバーの女王」と書かれていた。

「行くあてもないし、行ってみる?」

「…雪子がそうしたいなら」

「賛成です」

私たちはひとまず、城を目指すことにした。
あのウサギの行ったほうへ行けば、一本道だし、たどり着けるだろう。

歩き出した三人。
私はこのとき、気づいていなかった。
いつの間にか手の甲に印された「黄色いハート」の存在に。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第08話「アリスの物語」

【登場人物】
増田雪子
帯人
灰猫

【コメント】
「恐怖ガーデン」の次は「人柱アリス」です。
名曲ですよねvvv

閲覧数:1,011

投稿日:2009/01/26 13:13:02

文字数:1,258文字

カテゴリ:小説

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    ご意見・ご感想

    はじめまして!
    いままで楽しみに見させていただいてました^^
    「恐怖ガーデン」の次は「人柱アリス」ですか。
    名曲ですね!大好きな曲です♪
    これからも頑張ってくださいな(^^)ノシ

    2009/01/26 19:14:05

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