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「…ばか言うんじゃねぇよ」
メイトは扉を蹴破り、ミクをベッドに横にした。
その部屋は今までいた病室とは違い、いろいろな機械が置いてあった。
電源を入れると、画面に不思議な曲線が表示された。
部屋の奥には、ボーカロイドのボディがガラスの箱に入れられている。
携帯で誰かに連絡を取っていた。
きっと電話の...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第07話「それぞれの思惑」
アイクル
「……動くな」
「大丈夫、なにもしないから」
ミクはそばに立てかけてあったパイプ椅子を、
片手で軽々と持ち上げて、突きつけた。
明らかな戦闘の意。
「…動けば、容赦しない」
「そんな! 大丈夫だよ。私はなにもしないから。
お願いだから、それを降ろして」
「信用できない」
バサッ。...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第06話「逃走者、疾走者」
アイクル
「ダビデの竪琴? 確かにそう言ったの?」
「ああ、確かに聞いたぜ」
ルコはぶんぶん首を縦に振る。
頭を抱えるメイコを、ルコ、雪子、帯人、ハク、ルカは見ていた。
「ダビデの竪琴といったら、精神を病んでいたサウルを癒した話が有名ね。
でも、なんの関係があるのかしら…」
「………《ノイズ》」
カイトはそ...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第05話「欠けたもの、生まれたもの」
アイクル
「あれ。めーちゃん、今日はどうしたの?
毎週土曜日は一旦、帰るのに」
アイス片手にソファでくつろぐカイト。
その向かい側に、メイコは腰掛ける。
「お昼はいつも、雪子と一緒に買い物に行くんだけどね。
今日はみんなでお出かけするんだって」
ブランデー入りのチョコの封を開け、一粒だけ口に含む。
しばら...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第04話「開戦の合図」
アイクル
生徒自治会会議室にて。
目の前に熱い緑茶を出されるが、動くことができなかった。
静寂がちくちく肌を刺す。
そんな状況なのに、飛び級の子は鼻歌なんて歌っていた。
本音デルが、机を挟んで座る。
タバコを灰皿に押しつけると、飛び級の子は鼻歌をやめた。
「ようこそ、生徒自治会会議室へ。
さて、そろそろ話を...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第03話「よくねるこ!」
アイクル
「あ、帯人。部活、何か入った?」
「…雪子は?」
「今のところ、入る予定はないかな」
「そう…」口元がわずかに笑む。
進級した私たちは、クリプト学園で大いに学生生活を謳歌していた。
新学期。
新しいクラスのみんな。
そして何より学園が変わろうとしている。
クリプト学園は理事長の意向により、ボーカロイ...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第02話「噂のあの子、現る」
アイクル
その日、雪子と帯人は大学病院を訪れた。
両手いっぱいの花を持って、真っ白な扉を開ける。
「よお、久しぶり」
部屋にはメイトが立っていた。
「あ、メイトさん。お久しぶりです。もう調子はいいんですか?」
「調子? ああ、麻痺してたやつか。大丈夫だよ。
用心して検査とか、いろいろやってただけだ。至ってケ...優しい傷跡-君のために僕がいる- 第01話「胎動」
アイクル
優しい傷跡シリーズ第三部
優しい傷跡-君のために僕がいる-
許されない罪
癒えない傷
悲痛な叫びは誰にも届かない
それでも求める
ここに生まれた、その意味を――
【紹介】
ここでは優しい傷跡シリーズ第三部、...優しい傷跡シリーズ 第三部「予告」
アイクル
全てが終わった。
けど、なんだかよくわからない終わりを迎えてしまった。
アカイトさんが犯人かよく解らないけど、あのとき教会で
確かに彼の姿を見たんだ。
なぜあの場所にいたのか聞きたかったのに、彼は書類を盗んで
失踪してしまった。
まだ彼の行方は解っていない。
初音ミクちゃんは、まだ意識不明状態だ。
...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第28話「わたしたちの未来へ」
アイクル
大学病院の一室で、メイトは深いため息をついていた。
「はぁ~あ」
「どうしたんですか。ため息なんかついちゃって」
アカイトがにやにやしながら近づく。
教授にコーヒーを渡した。ブランデーのいい匂いがした。
「あ~、どうしたもこうしたも、さぁ…。
意識不明になってた患者はみんな目覚めたけど、
原因が...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第27話「暗雲」
アイクル
ある日、私は盗んだ音楽時計をくわえて走り出しました。
病室に忍び込み、寝ている二人の前で蓋を開けました。
静かな病室が音であふれます。
とても楽しくなります。
彼らがすてきな夢を見られるように、私はいつもこっそり音楽をかけました。
私はたまらなく二人のことが好きでした。
特にリンという少女のことが大...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第26話「すてきな夢をありがとう、さようなら」
アイクル
本当は知っていた。
彼女が未来を望んでいることも。
彼女がこの夢から覚めたいと願っていることも。
彼らが悲劇を打開していく様を見ているうちに、
自分の中の「破壊欲」がきれいに消えてしまっていることも。
でも、それを認めてしまえば自分が危うくなると解っていた。
だから否定していた。拒み続けた。
それな...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第25話「それが貴女の望みなら」
アイクル
「痛…」
左手首があり得ない方向にねじ曲がっていた。
さっき爆風に巻き込まれたせいだ。
受け身を取ったつもりが、かえって悪い方向に転んでしまった。
夢の中なのにひどく痛む。
雪子はその手を引きずりながら、必死に立ち上がった。
膝から血が出ていた。
奥歯をかみしめ、私は歯車に近づいた。
外で剣のはじき...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第24話「真っ赤なピエロ」
アイクル
一閃が、黒衣の身体を斜めに引き裂いた。
目の前で黒衣の男が崩れ落ちる。
その向こうに立っていたのは、眼帯をした傷だらけの青年だった。
「僕は…君のことが好きじゃない」
声が出せなかった。
「でも…大切な人のために行動するところ……嫌いじゃない」
帯人は召使いをギロチンから解放する。
次々と襲い来る異...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第23話「対極」
アイクル
優しい色に染まる 自分に絶えられなくなる
傷つくことに慣れすぎていて ひどく怖くなった
震える手 離れないで
嫌いなわけじゃないのに
癒えない傷が 深く深く
何度も救われるような夢を見る
君の手が僕の傷を 癒すことはないけど
錯覚(ゆめ)だけでも感じていたい
闇に足を取られて 自分を見失いかけても
...はりねずみ 【帯人】
アイクル
「にゃあ」
処刑当日。
群衆の中に、まがまがしい刃を光らせてギロチンが用意された。
周囲を黒衣の者どもが囲い、民はその外側で期待のまなざしを向けている。
「王女」の死。それは自由への始まりだった。
誰かが死ねば、誰かが助かる。
誰かが死ぬことによって、誰かが喜び、誰かが救われる。
本当にそれでいいの...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第22話「君と生きたい」
アイクル
タイムスリップした先は、城内だった。
広い廊下が続いている。ひどく騒がしかった。
灰猫は窓に張り付いた。
窓からははっきりと、燃え上がる火の手が見える。
「革命だ…」
革命は起きてしまった。彼の言うとおり、避けられなかった。
落胆する雪子の頭を帯人は優しくなでた。
燃え上がる町。悲鳴をあげる人々。廊...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第21話「王女と逃亡者」
アイクル
郊外は町よりも、より闇が濃かった。
暗すぎて肉眼ではよく解らない。
でも怖くはなかった。
私の手をちゃんと引いていてくれたから。
井戸が見えてきた。
ざわ、ざわ、と木々が騒ぐ。誰かが歩いている。
帯人は咄嗟にアイスピックを構えた。
「動くな…」
雲間から月の光が差し込む。光に照らされて、その輪郭がは...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第20話「悲劇の渦、終わらない歪み」
アイクル
この物語の先を、私は知っている。
でも解らない。
ねえ、誰を助ければいいの。
王女を?
召使いを?
緑の国の町娘を?
青の国の王子様?
赤い女剣士を?
王女がいなければ、戦争は起きなかった。
町娘も、召使いも死ぬことはなかったのだから。...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第19話「if...」
アイクル
光を抜け、帯人と雪子は地上へ降りた。
そこはなにもない海岸だった。
これが最後の悲劇の舞台なのだろうか。
「…うん…ぅ…」
雪子がやっと目を覚ます。
しばらく茫然としていたが、自分の置かれている状況を理解すると
いきなり顔を真っ赤にして暴れ出した。
「…どうしたの?」
「な、なんでもないからっ! だ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第18話「後悔の手紙」
アイクル
私…どうしちゃったんだろ。
突然気絶して…それから…、ああ思い出した。
帯人が助けてくれたんだ。
うっすらと目を開ける。
帯人が微笑んでいた。…終わったんだ。よかった。
ほっとしたら、急に眠くなってきた。
私はそっと瞳を閉じた。
不思議な夢を見た。
そこは、私も帯人もいない。
そんな世界の光景だった...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第17話「銀の王様」
アイクル
帯人は教会の前に立つ。教会は明るい光に満ちていた。
中に誰かの気配を感じる。きっとこの中にいる。
帯人は扉をゆっくりと開けた。
パイプオルガンの高らかな音色が響く。
神々しいステンドグラスから差し込む光に照らされて、
教会内は雨の日だというのに明るかった。
十字架の元、二つの人影を見つける。
「マス...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第16話「大切な人」
アイクル
今日、変な人に傘を貸してもらった。
いいのかなぁ…って思ってたけど、濡れるのは嫌だったし、
結局受け取っちゃった。
正直、すごく助かった。
すごくお礼を言いたい…。
黒髪に、包帯が印象的なあの人。
すごくきれいな顔立ちだったなぁ。
…でも、どこかで見たことがある気がする。
あれだけイケメンなんだもの...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第15話「君のそばに行くから」
アイクル
暗闇の中で、僕は目を開けた。
輪郭さえ不確かな状態だった。
僕は勇気を出して、一歩ずつ前に出る。
途中で、わずかな光をとらえた。
僕はその光を目指して走った。
「―ッ」
一瞬だけ、雪子の声を聞いた。
なんと言っているのかは解らない。
とても楽しそうな声だった。
光がまぶしくて、僕は目を細めた。...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第14話「僕が消えていく世界」
アイクル
アコーディオン男は笑う。
あの子の歪んだ顔が見てみたいと。
アコーディオン男は笑う。
あの男の歪んだ顔が見てみたいと。
アコーディオン男は笑う。
あの猫の悲しい顔が見てみたいと。
帯人は虚ろな瞳で、ダイヤのアリスをとらえた。
口元に歪んだ笑みを浮かべながら、ゆっくりと引き金に手をかけた。
「さような...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第13話「一輪の薔薇」
アイクル
カイトさんを捜そうにも、どこから捜せばいいんだろう。
見当がつかない。
灰猫も首をかしげている。
雪子はしかたなく、来た道を戻ることにした。
しかし、いくら歩いても城が見えてこない。
赤い道さえ見失ってしまった。
どうしよう。
「さて、困りましたね」
「…ごめんなさい」
「いいえ。貴女のせいではあり...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第12話「死神のささやき」
アイクル
どうして、僕はこんなに震えているんだろう…。
こわい。
彼女は僕を救ってくれた。
僕だけを見てくれた。
僕の罪さえ受け入れてくれた。
彼女は僕の全てだった。
こわい。
でも彼女にとって僕は一部でしかない。
彼女の周りにはたくさんの人がいる。
守りたい人がいる。...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第11話「僕の一番怖いこと」
アイクル
狂ってる…。
みんな正気を失ってしまうの?
ミクちゃんみたいに、リンちゃんみたいに。
カイトさんも、メイコ姉さんも、みんな…。
……帯人も、灰猫さんも…?
…嫌。そんなの、
赤い道を進むと、真っ暗な森の中に牢獄を見つけた。
その牢獄には見慣れた背中があった。
メイコ姉さんだ。
「身体年齢十六歳にされ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第10話「嫌な予感」
アイクル
あー、どうしよう。
いきなり道は二つに分かれてしまった。
困った。
地図なんてもっていない。
片方は真っ赤な道。
もう一方は普通の砂利道。
腕を組んで突っ立っていると、頭上から声がした。
それは木の上からだった。
「きゃvvきゃvv」
「わー、わー」...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第09話「クローバーのアリス」
アイクル
あるところに、小さな夢がありました。
誰が見たのかわからない、
それは本当に小さな夢でした。
小さな夢は思いました。
このまま消えていくのはいやだ。
どうすれば、
人に僕を見てもらえるだろう。
小さな夢は考えて考えて、
そしてついに思いつきました。
人間を自分の中に迷い込ませて、...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第08話「アリスの物語」
アイクル