この世界は、夜明けが1日の始まりを表す。まるで、真っ暗な闇を追い払おうとするように、ゆっくりと太陽が顔を出していく。そんな様子を、部屋の窓のカーテンの隙間から眺めていると、
「マスター・・・、おはようございます・・・」
眠そうな声が後ろでしたので、私は振り返った。
「カイト。今日は、何日?」
「3月19日です、マスター・・・」
私の言葉に、とっても眠そうな声で返事をしてくれた。
「そうだね。じゃあ、3月19日は何があるんでしょーか?」
「・・・世界電子化計画ですよね」
「・・・起きたばっかりなのに、よく分かるねー」
「だって、VOCALOIDですから」
もう完全に意識がはっきりしたのか、先刻までとは打って違って、いつもの口調で返事するカイト。
「だからこそ、世界電子化計画が実行されることになったんだけどな」
私は苦笑いする。
「それじゃあ、早速行こうか、カイト」
言って、玄関へ行く私。その後ろを歩きながらカイトは、
「マスターとデートだなんて、一体何か月ぶりなんだろう・・・。どうしよう、すっごく緊張してきたー」
と、おそらく独り言をぶつぶつぶつぶつ言っていたけど、あえて私は無視することにしたのだった。






「・・・どうやって行くんですか? というより、そもそも世界電子化計画って何ですか?」
マンションを出て、どこかに歩いていくマスターと横に並んで、僕はたずねる。
「2つ同時質問は、しちゃだめ!」
「じゃあ、どうやって行くんですか?」
「・・・鉄道に乗って行こうかなと」
そう言うマスターの顔は、なんだか不敵な表情だ。
「え、混雑しないんですか?」
思わず言うと、
「あのさ、カイト。・・・この世界は、平行空間でもあるんだよ。つまり、いつ乗っても超快適だってこと」
ますます不敵な表情で言うマスター。いつまで眺めても全く飽きないな・・・。そうやって、マスターを見ていたら、
「・・・必要以上に、こっち見ないでよ」
という、ツンな言葉をもらった。マスターは結構ツンデレだと言っているけれど、ここまで本格的なツンの言葉は初めてだ。
「やっぱり、あの人と何かあったんですk「うるさい!」
僕の言葉を遮り、マスターはすたすたと歩いていってしまう。
「ま、待って下さい、マスター!!」
慌ててマスターを追いかける僕。案外、すぐに追いついて、マスターの横に並んだ。
「・・・あの人の話はしばらく出さないでほしいって、言ったんだけどね・・・。まさか、カイトの口から聞くことになるとは・・・」
ため息をつくマスター。
「まあ、別にいいけどね。でも、そうだなぁ・・・」
何かを考え込むような表情になって、再び口を開く。
「今回のお出かけ、カイトがいいんだったら、デートってことにしてもいいよ」
「え・・・!? ほ、本当ですか!」
「カイトがよければね」
「そ、そんなのいいに決まってますよ!! ・・・え、でもいいんですか?」
「・・・今はいいけど、・・・大人になった時が、うーん・・・」
歯切れ悪いマスター。でも、そんなに深刻そうな感じがしないので、多分大丈夫なんだなって思った。






10分くらい歩いただろうか、なんか駅らしき建物が見えてきた。その入口の前で立ち止まり、
「ここだよ」
と、隣に立つ僕を見るマスター。
「・・・こんなところ、ありましたっけ? 僕、初めて見るんですけど」
「今日完成だからね。じゃあ、中に入ろうか」
「そうですね」
僕とマスターは、開け放たれている入口から中に入る。中は・・・、
「・・・誰も、いないですね」
駅員らしき人もいない。ただ、奥にドアが1つだけあるだけだ。
「だって、完成したばかりだもん」
「・・・だからこそ、人、いないんですか?」
いまいち釈然としない僕を無視し、マスターは、
「さて、じゃあ、どの世界から行こうかな・・・」
しばらく考え込んでいた。やがて、
「・・・じゃあ、クロック通りに行こうかな。ハクちゃーん、いるー?」
「え、ハクちゃんって・・・」
にっこり笑って、どこかに呼びかけるマスターに、僕は少し驚く。でも、
『いますよ・・・マスター』
控えめなハクちゃんの声が聞こえた時には、ものすごく驚いた。
「今、どこらへんにいる?」
顔色1つも変えずに、にっこり笑ったまま言うマスター。
『・・・電波塔の近くに』
「あ、そうか。電波塔の近くじゃないと話できないね」
「・・・」
なんだかよく分からない話をしている。僕は心の中で、ため息をついた。
「じゃあ、今から行くから待っててー」
『分かりました』
「・・・」
「じゃあ、行・・・って、カイトー。何、拗ねてるの?」
「だって、僕にはちっともよく分からない話をしてましたから」
少しそっぽを向いて、横目でマスターを見て言う。
「・・・電車の中で、話してあげるよ」
にっこりとした笑顔で言われた。
「ほんとですね?」
「ほんとほんと。じゃあ、まもなく出発でーす!」
楽しそうにそう言って、奥にある1つだけのドアを開ける。ドアの向こうには、電車の内部だった。ドアをくぐると、ホームから電車に乗ったような感じがした。少し首をひねると、
「すごいでしょ。行き先を言うと、直接電車に乗れるんだよ」
同じくドアをくぐってきたマスターは、言った。
「・・・言わなかったら、どうなるんですか?」
「その場合は、現在行くことができる世界の情報板がところどころに立っていて、それぞれにとまっている電車に乗れば、行きたい世界に行けるよー」
そう言って、誰も乗っていない座席を、思いっきり占領するマスター。
「お! この座席、すっごく座り心地いいー!!」
「・・・マスター、そんな子どもみたいに、はしゃがないで下さい。僕が恥ずかしいです」
マスターの隣に座り、僕は言う。
「えー、いいじゃんよー」
「だめです。・・・それより、情報板があるんだったら、それ見て決めればよかったと思いますけどね」
「そんなの見ても私の方が詳しいと思うけどなー。それに、ハクちゃんが寂しいって言ってたから、放っておけなくて」
「・・・」
僕は黙って、マスターとの距離を詰めた。
「何、嫉妬してるの??」
「いいじゃないですか、別に。・・・っていうか、何でそんなに嬉しそうなんですか」
「だって、誰かから嫉妬されるのって嬉しいじゃん。・・・もちろん、恋愛的な意味でだけどね!」
「あー、あの人がらみですか」
僕にとって、あの人はよく分からない存在だ。
「あの人もそうだし、・・・あと2人いることが発覚した!!!」
「えっ・・・?」
新事実に目を丸くする。あの人の他に、あと2人もいるだなんて・・・。
「だ、誰なんですか? マスター」
おそるおそる聞くと、
「それは、秘密ー♪」
見事に煙にまかれる。
「まあ、私も含めての四角関係が今年から始まったってねー。あの人も相当のライバルが出現したから大変だねーw」
言ってることは修羅場っぽいけど、表情はとっても楽しそうだ。
「何でそんなに楽しそうなんですか?」
思わずそう聞くと、
「だって、私が認める唯一の3人がやっとそろったもん! これからが見物ですなー」
マスターはにこにこしながら、僕を見た。
「まぁ、今のところは、間をとってカイトだけど!」
そう言って立ち上がる。
「クロック通りに着いたよ」
「え・・・? 何も進んでないですよ」
窓の風景も変わってないし。
「この電車は、無音無振動なの! 窓の風景は、絵だよ」
「そうなんですか・・・ハイテクですね」
「・・・ここは電子世界の中の世界だよ。ハイテクが普通なんだけど、ここまでハイテクなのもなー?」
マスターは1人で言いながら、首を軽く傾げる。
「まぁ、いっか。カイト、降りよー」
そう言うマスターの言葉で、僕とマスターは外に出たのだった。







時計。時計。また時計。大きさがちがう時計が、あちこちで時を刻んでいた。その針も全くばらばらで、それぞれが自分の時を規則正しく刻んでいた。
「・・・ここが、クロック通りですか」
僕がこの世界の持つ空気に少し圧倒しながらも言うと、マスターは「そうだね」と頷いた。
「ここは、その名の通り、時計の通りだよ。たくさんの時計がそれぞれの時間を刻んでいて、ちゃんとほんとの時間が分かってないと、狂っちゃうからね。でも、冷静に太陽の動きを見れば今どのくらいかは大体分かるから。・・・まぁ、私みたいなのはさておき、それ以外にここに来たいって人がいたら、腕時計を持って行くことをおすすめするよー」
「マスターはやっぱりすごいですね」
喋り出すマスターに、僕は感心する。
「そんなことないよ・・・って、あ! ハクちゃーん!」
僕の言葉に少し顔を赤らめたかと思いきや、近くにいるハクちゃんを見つけてそっちに走っていくマスター。・・・僕のマスターは、少し気が多いみたいです。
ため息をついて、僕は何やら楽しそうに会話をしているマスターとハクちゃんのもとへ行く。
「あ・・・。カイトさん、お久しぶりです・・・」
ハクちゃんは、気弱というか控えめな態度で僕に気付いて挨拶をする。
「お久しぶり、ハクちゃん」
僕も挨拶する。
「それで、ここは・・・開発中?」
「そうですね・・・2つの施設はありますけど、・・・時間がなくなるかも・・・・・・」
「へー、もう2つも? 見ていきたい、見ていきたいけど、ハクちゃんの言うとおり時間がなくなるから、今日はこれで帰るね」
「え、もう帰るんですか?」
何やらもう帰るという流れに、僕は驚いてマスターを見る。
「もちろん。あと、3つの世界に行かなきゃだめだもん。今回も、慌ただしくなっちゃうなぁ・・・。今度、ゆっくり来るから」
「分かりました。また、時間がある時にでも来て下さいね・・・。今日会えただけで、嬉しいですから・・・」
「・・・っていうか、ハクちゃんも他の世界に遊びに行きなよ。色んな世界があって、楽しいと思うよー?」
「・・・いえ、・・・親しい人ならいいんですけど、全く知らない人とは・・・平行空間になるかと・・・」
「あー、じゃあハクちゃんに会えないわけだー。じゃあ、私はハクちゃん1人じめー♪ うわーい!」
そう言いながら、さよならも言わずに駅の方へ走っていくマスター。
「あ・・・」
そんなマスターに少しだけ目を丸くさせた後、ハクちゃんは微笑んだ。
「マスター、変わってないですね。・・・初めて会ったあの日から」
駅の方を見つめたまま、ハクちゃんは言う。
「でも、カイトさんは少し変わったような気がします。不思議ですね・・・」
そう言って、僕を見る。その目は、懐かしがるように澄んでいた。
「今度、カイトさんだけでも来て下さいね・・・。・・・マスターの話、したいですから」
「分かった。マスターとは別に、ここに遊びに来るからね」
僕はにっこり笑って言って、駅の方へ歩き出したのだった。








駅に着くと、何やらふくめっ面をしたマスターが僕を待っていた。
「どうしたんですか、こんなにほっぺたふくらませて」
僕はマスターのほっぺたに触れる。
「触るにゃ! この浮気カイト!!」
思いっきり僕の手を払いのける。
「・・・マスター、嫉妬してるんですか?」
「私の可愛いハクちゃんと、一体どんな話をしていたのかにゃー? さあ、言え。私がいないところで何を話していたか、言え!」
「・・・」
言えない。マスターの話してたなんて、言えない。
「じゃあもうアイス買ってあーげない!」
そう言って、奥のドアに近づくマスター。
「えええっ!?? か、買って下さい!!」
アイスが食べれなくなるのは、僕にとって死活問題だ。僕は慌ててマスターの隣に行く。
「ふんだ。もうあーんなんてしてあげないから!」
「えー・・・」
自分で食べるのもおいしいけど、・・・うそだろ。
「・・・うそですよね?」
おそるおそる聞くと、
「さあ。どうだかー」
見事に煙にまかれる。・・・さっきとおんなじ展開なような気がする。
「えー、次は、キャットタウン通りなんだけど・・・」
少し落ち込む僕を無視して、マスターは首をひねる。
「・・・カイト、私、言っておかなきゃいけないことがあるよ」
「え・・・、何ですか?」
まさか元の世界へ戻れないとか言うんじゃないよね??
「キャットタウン通りにいる女の子とは、全く面識がなくて、今日初対面なんだよね・・・。だから、浮気カイト」
「・・・僕、浮気なんかしてませんよ」
「無自覚こそが浮気なんだよ浮気カイト!!」
「は、はい・・・」
素直に頷いたことで一応満足したのか、マスターは言った。
「そのこは、すっごく純粋で可愛いから、くれぐれもたぶらかさないでね」
「・・・僕、たぶらかしませんよ」
「うるさい!」
そう言って、マスターは奥のドアを開ける。中はやっぱり電車の内部だった。マスターに続いて中に入ると、やっぱりホームから電車に乗ったような感じがする。ハイテクって、こんな感覚がするものだろうか。
「誰もいないっていいなー・・・って、あ。カイトがいた。カイトじゃないか、浮気カイトがいた」
座席に座って幸せそうに言ったマスターは、隣にいる僕を見てため息をついた。
「・・・僕、浮気とかしないんですけどね」
「・・・・・・キャットタウン通りに着くまで、いいよね?」
僕の左肩にもたれるマスター。
「いいですよ」
僕がそう言うと、マスターは力を抜いて全体重を預けてくる。全体重といっても大したことないので、全く苦にならない。
しばらく静かな空間が、僕とマスターの間に満ちる。少しくらい、振動があってもいいのに。でも、そうしたらこんな展開にはならないか。僕はマスターに気付かれないように、そんなことを考えては苦笑いしたのだった。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【マスターとカイト】 いよいよ、世界電子化計画の実行! お出かけしよう! 【前編】 

こんにちは、もごもご犬ですお久しぶりです・・・!
ついに、ついに、世界電子化計画が実行です!!!
約2日ぐらい遅れていますが、そこはしょうがないです。っていうか、もっと遅れるかと思った><

長すぎるために、前編と後編に分けさせてもらいます!
楽しんでもらえればなと思います!


次回は、後編です!^^

閲覧数:113

投稿日:2011/03/21 11:21:04

文字数:5,648文字

カテゴリ:小説

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  • 久我 愁

    久我 愁

    ご意見・ご感想

    文中の後二人の一人は俺だよn((黙れ
    すまん黙る^q^
    くっ……俺も長い文書きたい…!
    前編後編読ませて貰いました 楽しかった!

    2011/03/22 08:50:55

    • もごもご犬

      もごもご犬

      >愁きゅん

      ・・・それはどうかなーwww
      読んでくれてありがとう!><

      2011/03/23 14:22:09

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