自分に新しい家族が出来ると知って、改めて思った。一人になるのはとても寂しくて、恐ろしいと言う事、居るのが当たり前になって、突然消えるなんて考えもしないで毎日過ごして、だから失った時泣き叫ぶ。悲しくて、寂しくて、恐ろしくて…。夜になり、人気の無いラウンジは水を打った様に静まり返っている。微かな足音も聞こえる程。

「――悪いな、密、呼び出したりして。」
「いや…何かトラブルでも?」
「何故彼が此処にいるんですか?」
「え…?ハレル…様?啓輔、一体…。」
「…話があるんだ。お前達三人に」
「三人?」

聞き返すハレルの声に、階段の上を見遣った。

「いや…。」
「穏やかな話では無さそうですね、人選的にも、時間的にも。」
「じゃあ単刀直入に聞かせて貰う。…浬音が好きか?」
「え…?」
「朝吹浬音が好きかと聞いてる。」

二人はお互いの顔を窺う様に押し黙ってしまった。沈黙に耐えかねて口を開いたのは密だった。

「何でお前がそんな質問を?」

勝手な事をしてると判ってる。余計なお世話だって事も、俺にそんな権利が無い事も。だけど頭の中にこびり付いて離れない光景があった。絶望して、目の前で一度は死を選んだ浬音の姿がどうしても離れなかった。

「啓輔…?」
「…浬音は俺の妹だ…母違いのな。」
「なっ…?!浬音さんが…妹…?!」
「浬音にはもう両親が居ない…五年前、浬音を迎えに行った両親の乗った飛行機が
 墜落して…二人共死んでるんだ。」
「そんな…。」
「家族を知らずに育って来て、この上本当の両親まで居ないと知れば、浬音は本当に
 一人になってしまう。」
「だから名乗り出ないのか?例え半分でも兄妹なのに…。」

今俺が浬音に『兄だ』と告げるには性急過ぎる。おそらく兄が居る事より両親が居ない事を知ったショックが勝ってしまうだろう。だから俺はこいつ等を呼び出した、両親が居ない悲しみを乗り越えられる様に、倒れそうになっても浬音を支えてくれる様に、もう二度とあの光景を繰り返さない為に。

「お前に頼まれなくても、浬音は俺が守ると決めた。それだけだ。」
「好きかどうかは私には判りませんが…浬音さんを泣かせたくはありません。」
「そうか…ありがとう…。」

二人共納得した様子で部屋へと戻って行った。疑っていた訳ではないが、やっぱりホッとした。

「…聞こえてんだろ?」

暗闇に溶ける階段を再び見上げる。差し込む月明かりに薄く輝く、金色の髪がやっと動いた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

DollsGame-93.君子蘭-

閲覧数:161

投稿日:2010/08/29 05:32:32

文字数:1,032文字

カテゴリ:小説

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