「アリガトー!」
女の子たちが叫ぶ。
「ワァーッ」という、すごい歓声が、ステージに向かって押し寄せる。
ホールの壁ぎわで、その様子を見ながら、ひとりの女性がつぶやいた。
「ふーん、すごいものですね。ガールズ・バンド...。元気、いいですね」
その横で、青年があいづちを打った。
「そうでしょう。ひらいさんも、気に入られましたか」
ニヤリと笑って、彼は続ける。
「あれ、いま一番、いきおいの良いバンドですよ。“キステン”っていって」
ひらいさんと呼ばれた女性は、またうなずいて、何か言おうとした。
が、場内の歓声で、かき消されてしまう。
「じゃあ、次の曲、いくよ! みんな、ついてきて!」
ステージにいる、ヴォーカルの子が叫ぶ。
ジャン!と、威勢のいいギターのイントロ。それにドラムスが絡んで、曲が鳴り出した。
●男の子、顔負けです
曲に合わせて観客が腕を振り上げる。会場は大ノリになった。
その様子を、ひらいさんはしばらく見つめていたが、
やがて、隣の青年に言った。
「もう少し、見ていたいけれど、そろそろ、打合せしなくては、ね」
青年もうなずいた。
2人は、大きく盛り上がりだした、ホールの後ろの出入り口を開けて、外に出た。
女性と一緒にいる青年は、コヨミ君だ。
彼はいま、ミクさんと一緒に作っている「絵本」の打ち合わせを、始めようとしている。
先ほどいっしょに演奏を聴いていた女性は、絵本の出版社のプロデューサーだ。
2人は、ホールの向かいにある喫茶店に入った。
コヨミ君は言う。
「ガールズ・バンドって言っても、ホント、男の子顔負けですよ。元気で」
「ですね。こういう演奏、初めて見たけど。なんか私、気に入りました」
笑って、出版社のプロデューサー、ひらいさんは答えた。
「席、ここでよろしいですか」
「ええ、どうも」
喫茶店で2人は座り、飲み物をオーダーする。
●音楽がからんだお話
「ああいう、バンドの雰囲気を、ぜひ知って頂きたかったので」
コヨミ君は、ひらいさんに話し出す。
「きょうはわざわざこのライブハウスで、打ち合わせさせて頂いたんですよ」
「ええ。面白かったです。さっきのライブの入場料、お払いしなくって、良いんですか」
心配そうに言うひらいさんに、彼は笑って手を振った。
「いえいえ、とんでもない。チケットは関係者向けのものを、使わせてもらっただけで」
そういって、タブレットをトートバッグから取り出して、画面を立ち上げた。
「さっきのバンド。“キステン”って言って、いま、すごく人気なんです」
「ええ、面白かったわ」
「そうですか。お目が高い。彼女たち、もうじき、メジャー・デビューするんですよ」
タブレットには、さっき演奏をしていたガールズ・バンドの、公式サイトの画面が出てきた。
「メジャー・デビュー?」
ひらいさんは、目を丸くした。彼女は、出版に関してはプロだが、音楽はあまり詳しくないようだ。
「あ、すいません。またそのうちに、お教えしますよ」
コヨミ君は、笑って、すまなそうに言う。
「お願いします。そういえば、今度の絵本のお話も、音楽が、からんでくるのでしょう?」
ひらいさんは、興味深そうにたずねる。
「ええ! そうなんですよ。ミクさんと僕で、いま、アイデアを練っているんですが」
コヨミ君は、さっき立ち上げた画面から、別のリンクへと移る。
●結構するどいぞ!
「ホラ、これです」
映し出された新しい画面には、別のバンドのサイトが出てきた。
「これが、今度、僕たちが作る絵本に出てくるバンド、“シグナル”なんです」
彼女は画面をのぞきこんだ。
4人の女の子が、楽器を持って、ポーズをキメている。目線が強い。
「これが...絵本に? この人たちも、ガールズ・バンドなんでしょう」
「そうです。まだアマチュアですけどね」
ひらいさんは、渡された画面を、スクロールしてみる。
「この、一番、左の子が、主人公なのかしら。...ちょっと、生意気そうな、この子」
そういって、女の子を指さした。それは、リンちゃんだった。
コヨミ君は思わず、ふき出しそうになって、思った。
「この人、おっとりしてる感じだけど、結構、するどいぞ! ビンゴだよ」ヾ(・・;)
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